ゆいこのトライアングルレッスンD 〜秘密のデート〜
小脇に青いガーベラの花束を抱えて、俺とたくみは待ち合わせ場所へと向かっていた。
今日はゆいこの誕生日。
『たくみ〜!ひろし〜!』
小高い丘の上で真っ白なワンピースにこれまた真っ白のつばの広い帽子をかぶったゆいこが俺らを呼びながらひらひらと手を振っているのが見える。
一歩先を歩いていたたくみが俺をちらっと振り返り、手を振りながら駆け出した。
「ゆいこ〜!」
ゆいこに駆け寄って行くたくみを見ながら、俺もゆっくりとその距離を縮める。
『ひろし!たくみも元気そうだね!』
すぐそばまで行くと、ゆいこが嬉しそうに俺とたくみを見比べながら微笑んだ。
『そのガーベラ、わたしに?ありがとう、綺麗・・・』
ゆいこが花束を見つめてうっとりと呟いた。
『ひろし、なんか痩せた?』
「そうか?まぁ、繁忙期だったし、色々忙しかったからな・・・」
『たくみは?相変わらず、ヤンチャしてるの?』
「なんでだよ、俺だって、一人前の業者マンだからな!営業成績、トップだぞ!出世間違いなしなんだからなっ」
ドヤ顔で言い返すたくみを見ながら、ゆいこが感慨深げに微笑んだ。
『そうなんだね〜、ふふふ・・・二人も繁忙期とか言っちゃう一人前の大人になったんだねぇ』
「お前にそんなこと、しみじみと言われたくないわっ」
『ふふふ、そーゆーところは変わってないね。ひろしも・・・いつもわたしとたくみのやりとりを優しい顔で見てるんだよね』
そう言うゆいこの顔は懐かしそうで、でも若干寂しそうだった。
「・・・忙しいけどさ、俺らは、元気にやってるよ。まぁ、心配すんな」
俺の言葉にゆいこが優しく微笑んだ。
「ゆいこっ」
『たくみ?』
たくみが切なそうにゆいこに手を伸ばしたが、震えるその手は、ゆいこに触れることなく下された。
俺は、そっとたくみの肩を抱いた。
「・・・ゆいこ。また、来年・・・来るからな」
『うん。二人とも元気でね。』
ゆいこが昔と変わらぬその笑顔で手を振る。
「たくみ、行こう。」
俯いたまま、唇を噛み締めるたくみを促すように肩を抱いて歩き出す。
数歩進んで後ろを振り返ると、そこにいたはずのゆいこの姿は、もうすでにそこにはなかった。
毎年この日、この時間、この場所でたった数分の秘密の邂逅。
何年時が経とうと、決して変わらないゆいことの秘密のデート・・・・。