異世界勇者、魔術師と出会う
ーー俺が赤ん坊に転生していたという衝撃の事実から三年。
またしても俺は、信じられないような事実に気づいてしまった。
ーーこの世界はどうやら俺がいた世界とは違う世界だと。
こんな話誰だって信じないだろう。だが、この世界は確実に俺のいた世界とは違う世界なのだ。
なぜならばこの世界は〝現実的に考えてあり得ない事〟がいくつもあったからだ。
まず、この世界は魔法が存在していない。その証拠に誰も魔法•魔道具を使っていない。
俺も最初は信じられず自分の魔力を感じ取ろうとしたが、俺からは何の魔力も感じ取れなかった。
魔道具に関してもそうで、俺の今の母が四角い何かを使って誰かと会話していたが、魔道具特有の魔力がどこにも感じられなかったのだ。異常すぎる。
他にも剣を持っている人がいなかったり、使う文字が違ったり、道が灰色だったり、四角くて銀色の宮殿より大きい建物がたくさん建っていたりと、普通に考えたらあり得ないことばかりがこの世界では起こっているのだ。
まぁ、最初こそ混乱したが、いつだったか王宮魔術師のオーゼン爺が【異界転生魔術理論】や【異世界人の生態】を繰り返し語ってきたことを思い出して、今は本当にあったんだな、くらいの気持ちになってきている。
そんな俺は今、この世界の言葉を必死に勉強していた。
早くこの世界の言語を理解してもっと多くの情報を手に入れて置きたかったからだ。
そうでなくともこの世界で生きていくのに言語を獲得するのは必須だろう。
ーーええっと「ゆ」は「⌘」「よ」は「⊆」「ら」は「∞」「り」は「⇔」‥‥。
よしよし、少しずつだが前に進んでいる。それに、ゆっくり話して貰えば少しなら聞き取れるようになってきた。これも大きな進歩だ。
「優馬〜新しいお隣さんが引っ越してきたから挨拶に行くわよ〜」
ーー今のは母か、えっと、お隣さん、挨拶だから、誰かに会いに行って顔を見せておくのか。
えっと、こういう時の返事は確か、
「は〜い」
でいいはずだ。
「あら、いい子ね〜、じゃあ、玄関に行ってて〜」
ーーいい子、玄関、行ってて、だから、玄関に行って母を待っておこう。
よたよた進んで玄関にたどり着くと
「優馬〜じゃ、行くわよ〜」
他所行きの服を着た母がドアを開け、家から出て右へ進み、うちの隣で止まった。
呼び鈴を鳴らして母と一緒に少し待っていると、中から茶色い髪をした女性が俺と同い年くらいの女の子を連れて出てきた。
が、女の子はすぐに茶髪の女性の足に隠れてしまった。嫌われてしまったのだろうか。
「引っ越されてきた日高さんですか?」
「私は隣の天道初実と申します。こっちは息子の優馬です。」
俺の母が茶髪の女性に自己紹介をし始めた。
「あら、これはご丁寧にありがとうございます。」
「私は日高菜美、こっちは娘の理沙です。」
茶髪の女性がそういうのと同時に、女性の足に隠れていた女の子が引っ張られて俺の前に出てくる。
出てきた女の子の姿を見て俺は心臓が止まりそうになった。
ーーーその姿は幼く、髪と目の色が違うが俺の前世のパーティメンバーの魔術師ルルティアと同じ姿だったのだ。