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星が止んだ日

作者: かえぎ

どうもこんにちは。初めましての方は初めまして。かえぎです。

いわゆる「終末もの」を書いてみました。

読みづらい部分もあるかと思いますが最後まで読んでいただけると幸いです。

『ジジッーー今日のニューズをお伝えします。昨夜未明、国会議事堂跡で小規模な火災が発生したもようです。火災は1時間後に消し止められました。消防は火災の詳しい原因を探っています。えー、続いて今日の空模様です。今日も星が降るでしょう』


「今日もってアナウンサーさんこれ毎日言うのも大変だねww」

……と俺に話しかけてきたのは同僚の岩田だ。


「しゃーないだろ。昔は『テンキヨホウ』って言ってけっこう大事だったらしいぞ?」


「けどさー100年くらい前に最初の星、『オリジン』が降ってきてから1日たりとも星が降ってこなかった日なんてなかったんだろ?じゃあもう言う必要ないんじゃねww」


確かに岩田の言う通り、この100年間で星がやんだことはない。

100年以上前は今より水位がもっと低くて空は『クモ』で覆われたり『アメ』や『ユキ』が降ったりしていたらしい。

今では空といえば真っ黒でただ星が降ってくる場所だが昔は青や赤と色が変わっていたと学んだ。


「ま、確かにお前の言う通りもうほとんどのラジオ番組では『空模様(天気予報)』を放送しなくなってるけどな。」

「ラジオ番組つってももうこの局以外はあってないようなもんじゃん」

「それもそうだな」


とここまで話したときにサイレンがなる。

『えー、降星警報です。1時間後に星が降ります。付近の方は避難してくださいー。場所は新宿……』


「おい、俺らの出番だ。いくぞ」

岩田の言葉に俺は無言でうなずく。


俺たち『星防士』の仕事は毎日空から降ってくる星を破壊することだ。

いつ星が降ってくるのか分からないから気を張っておかなければならないのは疲れるが、人々の生活を直接的に守れるのでやりがいはある。


「はぁ……なんで歩かなくちゃいけないんだよ」

現場に向かう途中で岩田が愚痴をこぼし始めた。


「まぁまぁ、ここは元超高層ビル街で珍しく沈んでないんだから船を使えないのも仕方ないだろ」

そう、現在では文明のほとんどが水の下だ。しかしたまにここのようにビル街で船が使えないこともある。

いくら水の上に生活している俺たちといえどもこういうときは歩くしかない。


と、遠くでクジラがブリーチングをしているのを見つける。


「おい、見ろよ。クジラだ」


「おぉ……今日はいいことあるかもな」


岩田の気分が戻ってくれたみたいでよかった。


さてと。仕事を始めるか。

「付近に生体反応なし!対星用の大砲を展開する!」


プシューッ!という音とともに星破壊用の大砲が展開される。


「さてと、星が射程内に入るまでしばし待機だな」

そういうと岩田はおそらくさっき拾ったのであろうものをポケットから取り出した。

岩田の趣味は、行った先々に落ちている、過去の人が使っていたのであろうものを拾ってコレクションすることだ。本人いわく、何に使っていたのかを想像するのが楽しいらしい。


「お前、ほんとそういうガラクタ拾うの好きだな」

と俺が言うと、


「ガラクタとはなんだ、ガラクタとは!これもなんか重要な使い方があったのかもしれねぇだろう?」

と返された。


岩田はまじまじとそれを見つめている。

さて、俺はというと近くにいい感じに傾いている壁を見つけたのでそこに寝そべった。


寝そべると薄暗い明かりに星が降ってくるのが見える。


『星防士』の仕事は降ってくる星を破壊することだ。とはいえ俺はこの、降ってくる星を眺めるのが好きだった。

この瞬間を見るために星防士を続けているといっても過言ではないかもしれない。


時間を忘れて見入っているとセットしておいたアラームがなった。


「5分前だ。発射準備するぞ」

「おうよ」


発射準備、といっても簡単だ。ボタンを押すだけでいいのだから。

星が降るようになってから人類はほとんどの技術を失ったが、星を破壊するための技術だけは驚異的なスピードで発展した。

星を1つ逃すだけで甚大な被害がでるからだ。

昔は手動でミサイルを撃っていたそうだが現在ではすべて自動化、さらに小型化がすすんで持ち運べるようになった。

それにともなって昔はミサイルと呼んでいたがいまでは大砲と呼ばれるようになった。


「発射10秒前!……3、2、1、発射!!」


ポチッ。


これで人々の生活は守られる。






「はぁ……やっと終わったぜ。さてと、どうせ次降ってくるのは5時間後とかだしとりあえず飯でも食いにいくか?」


「気を緩めすぎるなよ?1時間後に降ってきたことだってあったんだからな?」


と俺が注意すると


「けどそれ3、4回じゃん」


と返された。

まぁ確かにそうだけどさ……


「おい何ぼーっとしてんだよ、飯行くぞ、飯」

「お、おう」


行き先はだいたい分かっている。

岩田のお気に入りのラーメン屋さんだ。

仕事が終わるとほとんど毎回そのラーメン屋さんにいってラジオを聞きながら店長と会話をするのが決まりになっていた。


「おやっさん、いつもの」

「あいよ」

俺と岩田はそう注文していつもの席に座る。


「最近どうなんだい、星防士の方は」

おやっさんが話しかけてきた。


「ぼちぼちですよ。今日は新宿の高層ビル跡地でした」

「そうか。いつもありがとよ」

星防士が星を迎撃するのは今や当たり前になっているのでこんな風にお礼を言われるとうれしくなる。


『ジジッ……専門家は……との見解を出しており……』

どうやらこの時間のラジオはニュースらしい。


『今日の空模様です。えー、今夜も星が……あれ、今夜は星が降らない?これ原稿まちがってないですか?いや、合ってる……?コホン、失礼しました。今夜は晴天でしょう』


「おい、聞いたか?」

岩田が俺に聞いてくる。

「あ、ああ。しかし100年間降り続けた星が止むなんてあるのか?」

これはさすがに疑わざるを得ない。

確認をとろうと携帯を見るとメッセージがきていた。


『今夜は星が降らない、という予報が出ている。しかし念のため今夜が担当の者は待機してくれ』


「ちぇ、今日ワンチャン休めるかと思ったけどさすがにそんなに甘くないよな」

同時にメッセージを確認していたらしい岩田が言う。


「もし星が降ってきたら世界が滅ぶんだ、のんきなこといってられねぇよ」


そこで店長が口を挟む。

「お二人さん、大変だとは思うが今夜もこの地球ほしは任せたぜ」


「任せてください。俺たちはこの仕事に誇りを持ってるんで。」

「ったりまえだ、今夜も、未来も、守ってやるぜ」


俺と岩田は同時に返事をした。



しかしその日の晩、俺と岩田は夜通し警戒をしていたが結局降星警報が出ることはなかった。

その次の日も警報はなかった。

そしてその次の日も。


いつしか最後に星が降ってから半年が経とうとしていた。


『星防士』は出番を失い、徐々に隊員の数も減った。

大砲の整備もされなくなった。

人々は星が降っていたことを忘れつつあった。


人は『忘れる』生き物だ。もちろん、それは情報を整理したり環境に順応するために備わった大事な機能の一つだ。だから忘れることは仕方のないことなのだ。


そして、今の環境が永遠に続くとは限らない。いや、永遠に続くなどありえない。

つい先日、岩田が星防士を辞めた。

理由は給料の低下に伴って生活が苦しくなったこと、星防士という仕事に価値を見いだせなくなったかららしい。

岩田は退団後も連絡をとってくれると言っていたがあの頃の生活が失われたのがとても悲しい。



そして今日、本部から 星防士解体 の通達が来た。



理由はもちろん、「存続意義の消失」だ。


俺はこの半年間で、退職した幹部の穴を埋めるために昇進したこともあって、退職金はかなりの額だった。

しかしそんなものもらったところで使うあてもない。


とりあえず今日はまたあのラーメン屋に行こう、と考えながら星防署を出て、俺はフッと空を見上げた。



クジラが、空を舞っていた。



クジラ……?いや、違う。


あの光はなんだっけ……?


なんだか懐かしい光。


そうだ、俺はこの光が好きだった。


隣には岩田がいて、ガラクタを触ってるんだ。


そして俺は……俺はーーーーー





「異常」が続くと、それは「正常」になる。

「正常」が失われたとき初めて人はそれがただの「異常」の連続であったことに気づく。


これは、私たちにとっては「異常」な、でも彼らにとっては「正常」であった物語。

私たちは何か、大切なことを、忘れてしまってはいないだろうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

「普通」が「普通じゃなくなる」という展開が好きなことが分かりました。


この作品は 灰澈Officialさん の 「木鲸」を聞きながら書いたので気になった方は一度聞いてみてください。とてもいい曲です。


それでは、またご縁がありましたら。


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