第九話 夢中訓練
春の心地よい風の中にじりじりと肌を焼く熱気が含まれはじめ、徐々に木陰で体を休めても涼を得られなくなりつつあった。
換毛期を迎えたシキバ村のシバ族達の体からは次々と毛が抜けていって、村の住民全員分ともなるとそれはもう凄まじい量だった。その手間と処理に苦労しているシバ族達は、その必要のないバルドラッヘを羨ましそうに見たものである。
季節は春から夏へと移り変わっていた。そしてバルドラッヘの体はさらに成長して、十歳児相当にまでなっている。今となっては村のどのシバ族よりも背が高く、力も強くなっていた。
そしてシュテルンは相変わらず隻眼、隻腕、隻翼の痛々しい姿のままだったが、彼自身は特に不便を感じていないようだったので、村の誰も気にしなくなっている。
利見はその後、月に一度の間隔でシュテルンの下を訪ねてくるようになり、その都度、シュテルンは得られた情報の内容によって黄金や宝石の類を報酬として渡している。
これらの貴金属はシュテルンが貯蓄していたものではなく、彼の体に内蔵された元素転換装置を稼働させて作り出した非天然ものだが、今のご時世ならば天然ものと比べて価値が変わる事はあるまい。
シュテルンが利見と彼独自の方法によって外の世界の情報収集を進める中、バルドラッヘも人間の数十倍の成長速度以外にも生活に変化があった。
ココと一緒に山に狩りに出かけて狩猟を学び、あるいは近づいてくる危険な獣や妖怪を追い払うといった荒事の経験を積み始めている。
その中でも大きな変化はシュテルンによって、本格的な戦闘訓練が課されるようになったことだろう。
背がぐんと伸び、一回りも二回りも体の大きくなったバルドラッヘは、首からつま先、指先に至るまでぴっちりと体に張り付く白い革のような全身服に成長した体を包んでいた。
更には不意に大雨に襲われたように露出している頭部がびしょ濡れだ。おそらく全身服の中も、彼女自身の汗で濡れているに違いない。
びしょ濡れの頬や額に白い髪の毛が貼りつき、疲労のあまりに青白く変わった顔色をますます幽鬼のように引き立てている。
バルドラッヘの手には彼女よりも巨大な鉄の塊が握られていた。厚みが一尺、柄から切っ先までが四尺近い長さのある大刀だ。訓練用の木剣や槍代わりの品だが、大の大人とて持ちあげる事も出来ないだろう。
周囲は砂塵が舞い、大小の岩が転がる荒れ地だった。頭上には高熱を発する太陽が煌々と輝き、バルドラッヘの体を焼き、水分を奪って渇きを与えている。
常人ならばとっくに脱水症状や熱中症になり、そのまま死んでいてもおかしくない過酷な環境だ。月狼山とはまるで異なる場所だ。
「はあ、はあ、ふう、ふう」
肩を大きく上下させて息を乱すバルドラッヘの視線の先には、陽光を浴びて白々と輝くシュテルンの巨体がある。器用に右脚と尻尾を支えにして立つシュテルンは、冷厳な眼差しでバルドラッヘを見つめている。
シュテルンの足元には陶器のようにつるりとした赤い硬質の皮膚を持った、人型に近いナニカが立っていた。大地を踏みしめる両足は短く、肩からは地面に着くほど長く太い腕が伸びている。
背には鋭い棘が何本も伸び、人間なら尾てい骨のある辺りから長い尾が伸びていて、尾の先は棘付きの鉄球のようだ。また顔も特徴的だ。鰻を思わせる顔には目や鼻はなく、臼歯の並ぶ口が一つあるきり。
「こいつらは獄世でよく使われている生体兵器だ。こちらで言えば足軽のようなものだな。ずっと昔からアップデートを繰り返して、随分と長い間、かなりの数が戦場に投入されている。バリエーションも豊富だが、コレがノーマルタイプだ。
目鼻の無い鰻頭の赤ゴリラといった見た目だが、こいつらはカグツと呼ばれている。お前が今後、獄世の連中を相手に戦う時、嫌というほどこいつらの相手をする羽目になる。今のうちに慣れておけ」
カグツと呼ばれた獄世の兵器は呼吸をしている様子はなく、呼吸音はない。だが、バルドラッヘの人間を超えた鋭敏な聴覚は、カグツの体内で発生している小さな音を聞いていた。
小川のせせらぎをはるかに小さくした、なにかの流れる音。それがカグツを駆動させている獄世由来のエネルギーの流れだと、以前の訓練でシュテルンから教えられている。
バルドラッヘの鼻が小さく動いた。カグツの筋肉の発する臭いの変化を感じ取ったのだ。
(来る)
恐怖も焦りもなく、ただ淡々とバルドラッヘは事実を認識した。戦うことを大前提に作り出された彼女は、生まれつき死に対する恐怖心が薄かった。
カグツが倒れ込むように前傾し、そこから一気に跳躍してバルドラッヘと躍りかかってくる。両腕を振りかぶり、一撃で大岩を砕く剛力をまだ十歳程度の子供に見えるバルドラッヘと叩きつけようとしている。
ぐんぐんと迫ってくるカグツの両腕を色違いの瞳に映して、バルドラッヘはやはり淡々と対処する。感情を乱さずに波紋一つない水面のように落ち着いた心持ちで戦うこと、それが自分の性能を最大限に発揮する秘訣なのだとバルドラッヘは理解していた。
両手で力強く握っている大刀を大きく振りかぶり、少しずつ膨らみ始めた胸を大きく張るようにして背を反らす。ギリギリと筋肉の引き絞られる音が聞こえてくるような姿勢から、全力の一振りが放たれる!
「しぃあッ!」
バルドラッヘの唇から刃のように鋭い叫びが短く発せられ、その叫びを切り裂くかの如き大上段からの一撃が、頭上のカグツを頭からまっすぐに斬り抜ける。
鋼鉄に匹敵する表皮に加え、弾力に富んだ筋肉、鉄柱並みの硬度を誇る骨格、それら一切の抵抗を許さない神速剛力の一閃。
極度の疲労から脱力しきった状態からの刹那の加速が生み出す一撃に、両断されたカグツの体は跳躍の勢いのまま、バルドラッヘの後方へと飛んで行き、重々しい音を立てて地面に激突する。
切断面からドロドロとした青い液体を飛び散らしながら転がるカグツを、バルドラッヘは振り返らなかった。大刀を振り下ろした姿勢のまま、そろそろと息を吐く。
「ふうう、やっとおわ……」
終わった、と言おうとしたバルドラッヘの背後になんの前触れもなく新たな影が涌いていた。バルドラッヘの耳も鼻も皮膚も感知できなかった不意の出現である。
「誰がこれで終わりだと言った。バルドラッヘ」
シュテルンの言葉にわずかに遅れて、新たに出現した二体目のカグツがバルドラッヘの無防備な背中に巨大な拳を叩き込む。
バルドラッヘの背に拳が触れる直前、右足を軸に勢い激しく彼女の体が回転し、カグツの拳は虚しく空を切った。
間一髪、カグツの不意打ちを回避したバルドラッヘは、回転の勢いをそのままに足首、膝、腰、背中、肩、肘、手首を加速させて、カグツの右わき腹に大刀を叩き込む。
バルドラッヘの全身が連動して渦を巻くようにして放たれた一閃は、再びカグツの強固な肉体を水のように斬り裂く。
「不意打ちは、ずるい!」
思わず抗議の声を上げるバルドラッヘに対して、創造主は悪びれた様子もなくこう言い返してきた。
「戦っている最中に予期せぬ敵が表れるなど、しょっちゅうある話だ。敵の数を決めつけて戦う危険性はこれで分かったろう?
そもそもこれは訓練だ。どうあがいても訓練は実戦に劣る。その訓練で対応できない事が、実戦で対応できるわけがない。そんな夢のように甘い考えを持っているのか?
狩りの時にもココに都合の良い考えを持つな、現実は常に最悪の更にその先を行くものだと教えられていただろう」
シュテルンの指摘はまったくもって正しく、バルドラッヘに反論の言葉は思いつかなかった。それでも腹立たしいのには変わりないから、バルドラッヘは精一杯の抗議として、餌を詰め込んだリスの方に頬を膨らませて、うー! と唸りながら創造主を睨んだ。
「う~!」
「はん、まだシバ族の威嚇の方がマシだ。そら、次のカグツだ。まだまだ続くからな」
「もう、ずっと走り回されてクタクタなのに!」
「満足な状態でいつでも戦いに臨めるとは限らんだろ。隊長を含め準備万端整えられるように心がけるのは大切だが、戦闘中にコンディションがよくなるわけがあるか。
戦えば戦うほどに悪くなってゆくのが当たり前だ。今のうちにそういう戦いを体に刻み込んでおけ。後でそれがお前の財産となり、武器となる。俺もそうだったぞ」
「シュテルンの頭でっかち!」
「口を動かす余裕があるのなら、まだまだ戦えるな。そら、ノーマルタイプ以外のカグツを出すぞ」
再びバルドラッヘの五感を掻い潜って、新たなカグツ達が虚空から姿を現して疲労困憊のバルドラッヘを囲い込む。
今度は首が二つ生えて更に蛇のように長く伸びている個体、両腕の代わりに先端に鎌のある触腕を三対六本生やした個体、四肢の長さが整って両手首の先が鋭い刃となった個体の合計三体だ。
「遠距離型を入れていないから戦いやすいだろう。大抵、連中は盾役の防御型と遠距離型、近接型を組み合わせた編成で来る。
獄世の連中も知恵があり、知識の積み重ねがあるからな。効率的にこちらを殺す手段を常に研究してきている。
奴らの目的がこちらの世界だから、環境汚染や地形を変えるような大規模な破壊行為を控えるのがこちら側の連中にとっては救いだな。
そうそう首の長いのがダブ、触腕を生やしているのがガミ、手首や刃になっているのがブレと呼ばれている機種だ。他にもいるが、ま、今日はこれくらいか」
三体のカグツに一斉に襲い掛かられているバルドラッヘの耳に、シュテルンの言葉が届いていたかどうか。
特別な調整を受けて生まれたバルドラッヘは戦闘訓練が始まる前に、ひたすらに走らされて、疲労の極みに陥っていたが、シュテルンとの短い会話の間に急激に回復していた。
万全ではない状態での戦いを経験させる、という訓練の目的を果たす為にシュテルンは急いでカグツを追加投入しなければならなかったのだが、バルドラッヘは親の心子知らずと言ってよいのか、創造主の思惑を理解しきってはいなかった。
彼女からすれば頭が空っぽになるまで走らされ、次々と敵との戦いを強いられているのだから、文句を言いたくなるのも無理はなかったが。
バルドラッヘの正面から斬りかかってきたのは、両手首が刃になっているカグツ・ブレだった。体格の調整が成されている為か、他の二体に比べて動きが早く斬撃は迷いなくバルドラッヘの首を狙って左右から交差する。
出現は察知できなくても、出現した後ならばバルドラッヘの五感はカグツ三体の動きを明確に捕捉する。ノーマルタイプよりも早かろうと、バルドラッヘからすればささいな誤差の範囲だ。
「だりゃあ!」
腰を落とし、そこから一気にバルドラッヘの体が伸びて渾身の突きがカグツ・ブレの両手首の刃を砕きながら胸部へと突き刺さる。勢いの衰えない切っ先はそのまま背中から飛び出して、青い液体が勢いよく噴出し始める。
両足でしっかりと大地を踏みしめ、腰の捻りに合わせてバルドラッヘの剛腕が唸りを上げる。この時、カグツ・ダブの首がさらに伸びて上下からバルドラッヘの体に噛みつこうと動き、カグツ・ガミの触腕は左右から包み込んでなます切りにしようと広がっていた。
およそブレを囮にして逃げ場のない包囲網が完成しつつある。バルドラッヘはそれに気づきながらも、焦り一つなく自身の性能を発揮できれば問題はないと冷静だった。創造主への不満やら怒りやらはあったけれども。
「えいやぁああ!!」
大刀を突き刺したままカグツ・ブレの体を振り回して、即席の棍棒か大槌のようにカグツ・ダブの触腕六本を弾き飛ばす。
直後、回転のベクトルを横から縦へと筋力で変換させるとまず直上から迫りつつあったカグツ・ダブの頭の一つを砕き、その勢いを乗せたままこちらの腹へ噛みつこうとしていたカグツ・ダブのもう一つの頭へと叩きつける。
地面が大きく陥没し、更にひび割れが蜘蛛の巣のように広がってゆく。周囲の地面を揺るがすバルドラッヘの筋力により、ハンマー代わりにされたカグツ・ブレの体はバラバラに吹き飛び、カグツ・ダブの頭は双方共に木端微塵になった。
バルドラッヘの背中側にいるカグツ・ガミは、引き戻した触腕を今度は包囲するのではなくバルドラッヘを串刺しにするべく、まっすぐに最短距離を行くように六本の触腕を突き出した。
厚さ一寸の鉄板も易々と斬り裂く鎌だ。直撃すればバルドラッヘといえどもどうなるか。
風を貫いて迫りくる触腕に対し、バルドラッヘの次の行動に躊躇はなかった。
大刀を肩に担ぎ、そこから左足を大きく点に上げて振り子の勢いで釣竿を振るようにして腕を振るい、大刀を全力でカグツ・ガミに投げつける!
唯一の武器を手放すという大胆な選択は凄まじい風切り音を上げて、回転しながら飛んだ大刀がカグツ・ガミの頭から胸を縦一文字に切り裂く、という成果を上げた。
途中で制御を失った六本の触腕は勢いをなくして、バルドラッヘに届く前にだらりと地面に落下する。
新たなカグツの出現から瞬く間に殲滅したバルドラッヘの手腕は歴戦の猛者からしても見事なものだったが、この訓練で学習したバルドラッヘは油断せずに腰を落とし、緩く拳を握って更なる戦闘に備える。
戦いながら回復していたバルドラッヘの呼吸は整って、汗も引いている。思考は研ぎ澄まされて、不意を突かれても即座に対応できる状態だ。それを見て取り、シュテルンは今日の訓練の切り上げを決めた。
「よし。今日のところはこんなものだろう。これで終わりとする。だから気を抜いて構わないぞ」
と告げるのだが、バルドラッヘは疑いの色だけで染まった瞳を創造主に向ける。そう言って自分を油断させて、更にカグツや他の獄世の兵器を出現させるつもりだろう、と暗に態度で示している。
「信用できない」
態度に加えて口にも出して疑念を伝えるバルドラッヘに、シュテルンは嘆くように天を仰いだ。どうやらやり方が少々まずかったらしい、と反省する謙虚さくらいは彼にもあった。
「本当の本当だ。俺に対する信用が落ちたのは分かったが、終わりといったものを覆したりはしない。先程のカグツの登場だって倒したら終わりだと口にはしていなかったぞ。安易な決めつけは足元を掬われる結果に繋がりかねないと、学べただろう」
「それならあなたの言う事が正しいと安易に信用はできない」
またぷくっと頬を膨らませて不機嫌な態度を見せるバルドラッヘに、シュテルンはこりゃいっぺんにやりすぎたかな、ともう一つ反省を重ねた。
「やれやれ、お前も口が達者になったな。ココのおしゃべり好きがうつったかな? だがあまり疑ってばかりも良くないぞ。他者を信じぬ者は他者から信じてもらえなくなる。
今回ばかりは俺にも非があるから、口を酸っぱくはしないが、行動で示す方が早いか。そら、もう目を覚ませ。そろそろ日の出る頃合いだぞ」
シュテルンがそう告げた途端、地平線や空の果てが徐々に消えてなくなり始める。風は止み、バルドラッヘの体を襲っていた疲労感は消え去り、訓練用の大刀もカグツ達の残骸も跡形もなく消滅している。
バルドラッヘはようやくシュテルンの言葉に嘘がないと判断して、体と心に満たしていた緊張を解く。
この荒れ地は大地も空もカグツもなにもかもが、シュテルンが作り出した仮想空間であり、バルドラッヘが就寝中、彼女の脳にシュテルンがアクセスして毎夜、この訓練は行われているのだった。
仮想空間の中での疲労はバルドラッヘがあくまで脳内で疑似的に体験しているものであり、実際の彼女の肉体にはフィードバックされないようにシュテルンが繊細な調整を行っており、目覚めれば元気いっぱいに動き回れる仕様だ。
「明日も走り回ってから実戦訓練をするの、シュテルン?」
「座学も交えつつだな。お前の最大の仮想敵は獄世の者共だが、妖怪や人間との戦闘も想定される。あらゆる状況と敵を想定して、訓練を重ねる予定だから覚悟を固めておけ」
「その為に作られたんだから、それは、やれと言われればやるけれど。私ばかり働かされるのだもの」
どうやらバルドラッヘは情緒が発達するにつれて、自分がシュテルンの為に戦う運命を与えられた事への不満が少しずつ出てきたようだ。
それでも与えられた役目を放棄するつもりはないようだが、バルドラッヘが一個の生命として自我を確立しつつある何よりの証拠といえる。
場合によってはバルドラッヘが自分の制御から離れる可能性の萌芽なのだが、シュテルンはさして気にした様子はなく、まだ危惧する段階ではないと考えている様子。
「お前は俺が相手だと遠慮が無くなるな。俺はお前の創造主だぞ」
と呆れている。周囲の光景がほとんど消え去り、白い光に飲まれる中でバルドラッヘの四肢も末端から無数の光の粒となって消え始めている。
「シュテルンには作り出してもらった事とお姉ちゃん達に出会わせてくれた事には、いつでも感謝している。けれど、それとこれとは別の話だから。創造主に文句ひとつ言わずに黙って従う方が好き?」
「本当に口が達者になった。まあ、人形遊びはあまり好きではないから、お前が俺の指示通りにただ動くだけというのはつまらない、いや、面白くない? ふむ、これも違うな。ふ、とりあえずお前が自分の考えを持ち、意見を口にするのは不愉快ではないぞ」
「そっか。それならよかった。お前は失敗作だーとか言われたどうしようかなって、言ってから思った」
「なんだ、少しは不安に感じたのか? 思ったことをそのまま言う性格に育ったか? それにしても人間という生き物は生まれてきた意味や役目を求めたがるが、最初からそれを与えられるとそれはそれで文句が出るものか」
シュテルンは別に呆れてもいなければ、皮肉を言ったつもりでもなかった。かつては彼も深く関わっていた人間達を思い出し、少しだけ感傷的な気分になっていたのである。
シュテルンの過去を微塵も知らないバルドラッヘは、彼の感傷よりも先程の言葉の中で気になった部分について創造主に尋ねる。
「ところで、私って人間?」
「んー、ほぼほぼ?」
「ほぼほぼ? 九割くらい?」
「もうちょっとかな」
「そっかー、もうちょっとかー」
「なんだ。完全に人間の方がよかったのか?」
シュテルンの質問に対するバルドラッヘの答えは、創造主の予想とは違ったものだった。
「んーん、違うよ? シバ族だったらよかったのになーって思っただけ」
「ほー、シバ族にか。ああ、同じだったら良かったのにと、そう思える家族か。彼らは」
「うん、そういうことなのだよ、創造主君」
「お前な、どこでそんな物言いを覚えた? 俺のライブラリの中にあるサブカルチャーの領域にでもアクセスしたのか?」
今度は本気で呆れた様子のシュテルンに対して、バルドラッヘは悪戯の成功した子供のように、ニシシ、と笑いながら夢の中の仮想空間から消えるのだった。






