経営学を学ぶ大学生、安芸島かおる 4
「あれはケッサクだったなぁ!」
「あの手は、私も想定してなかったっ!」
「……あの手?」
「そう」と二人は三ツ路の問いに声を揃える。
なんだかんだでお似合いなカップルではある、と三ツ路はあらためて思った。
「富賀河が土下座してまで『見逃してくれ~』って! もう私、笑うとか通り越して可哀そうになっちゃった」
「俺も、俺も。あんなに居丈高になってたヤツがこんなに頭下げて、本気だとしても、ウソだとしても、みっともないことには変わりがない。途中で『規制法延期』なんて『ウソ』を口走ってて、これが『マイライ』かもしれないな、とは思ったけど――もういいか、これも見逃してやるか、と仏心を出した途端……」
「ダウトッ!」
またも声を揃えて、アハハ、と笑い合う剣ヶ峰と安芸島の二人。
「いや~……。今思うと、逆に感心するな。あそこまでの勝利への執着」
「は~……うん、うん……」
笑い過ぎて涙が出たのか、安芸島は目元を拭う。
「ダーリンがせっかく見逃してあげようとしたのに、それだもの。『大金がかかってるのに見逃すヤツなんているわけがねえ』、だってさ。自分基準で考えんじゃねーっつーの。優しいダーリンが怒るのもムリはないよね~」
「ヤツはトイレでもカオルに変なちょっかい出してきてたからな。積もりに積もって……ってヤツ? カオルも頭にきてたじゃん」
「怒んないワケないでしょ~」
頬を突っつき合う剣ヶ峰と安芸島。
「で、そのもの『ウソ』である『規制法延期』に『ダウト』をかけて完全勝利……」
「……うん。他人を……私たちを必要以上にバカにするアイツに」
「代償として、大事な大事な、貯め込んでたカネを失ってもらった」
「なるほどねぇ……」
三ツ路は剣ヶ峰に向かって頭を下げた。
「あらためて、剣ヶ峰さん、ありがとうございました……。正直、剣ヶ峰さんは無責任な人で、私が頼んだこともほったらかしにしているものだと思い込んでいました……すみません。私の願い、聞き届けてくれてありがとうございました」
「……礼を言うなら俺に、じゃねえ。俺たちに、してくれよ。俺はヤツを騙す演技、度胸の係。カオルはブレーンとして作戦立案、本番中も俺を可愛さで癒してくれてた係。二人じゃなかったら勝ててない」
「男は度胸、女は愛嬌ってことですね……あ、逆か」
「そうだね~。私たちの場合は、女は度胸、男は愛嬌ッ!」
「あ、もしかして……最後、三つ目の『本当のマイライ』って……」
「そうだよ~。ダーリンが設定した『マイライ』は『男同士』。わざわざ利尿剤仕込んで男子トイレ遭遇イベントまで用意したけど、あんまり効果なかったかな?」
「スポイトまで使って便器に黄色い水流してたんだぜ。オカシイだろ?」
「アハ、ハ……」
三ツ路は乾いた笑いで応じる。
――そう、この二人は、見た目の男女とホントの性が逆なのだ。
剣ヶ峰さんのその理由は私も知らない。
カオルの方は以前、「家がクリーニング屋でいっぱいあった服の中、女の子用の可愛い服が好きになった。フリフリの服を着てたら、よく家に来てくれてた子に『カワイイ』と褒められて、とっても嬉しくて、もっと可愛くなりたいと思った」とその動機を聞いたことがある。
以降、このように「可愛い」を追求する男子になったというわけらしい。おかげで、カオルは大学でもちょっとした有名人で、男にも女にも人気がある。
こんな二人を見た初対面の人間は、とくに二人揃ってイチャついてる場面なんかを見た人は、二人の男女が逆なことなどまったく考えもしないだろう。
――これほど、ここぞの時にうってつけの『マイライ』があるだろうか?
三ツ路が少しばかり目を離した隙に二人はキスに及んでいる。
敵に回しちゃいけない、なんとも目に毒なカップルだ、と三ツ路は苦笑した。
(了)
本編、ここまでとなります。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。




