毟り取る男、富賀河透流 13
「おっと、そんな怖い顔するなよ。会話を楽しもうぜ?」
――クソ野郎が……。
「……いつからだ? いつから俺を狙っていやがった」
「あ? そんなの……お前にその手でハメられた夜からに決まってんだろうが」
「……夜?」
「……覚えてねえってか」
剣ヶ峰は睨む富賀河に対し、激情を織り交ぜた視線を刺す。
「去年の十一月十三日の金曜日ッ! クラブ『アトラース』ッ! テメエが法螺を好き勝手に吹きまくった夜からだよッ!」
言われても富賀河には、剣ヶ峰との「ダウト」勝負など細かくは思い出せない。
「……俺は忘れてねえぜ。お前のきったない嗤いをな」
しばらく睨み合っていた二人だったが、目を逸らしたのは富賀河が先だった。
――いけない。ムダなことに気を取られてる場合じゃないぞ……。
ヤツが俺の必勝パターンを知っていたのは痛いが、「マイライ」を知る俺がまだまだ有利なのには間違いがない。どんなに喚こうが、イキろうが、「規制法延期」を口にした時点でヤツの五千万は俺のものになる。
――俺は、それをただ待てばいい……。待てば……勝ちだ。
「おいおい、ダンマリかよ……。富賀河ぁ」
黙する富賀河に対して落胆の色を濃くしたため息を吐くと、剣ヶ峰も黙り込んでしまった。
*****
「ハァ……」
数分経って、膠着を解いたのは、これも剣ヶ峰のため息だった。剣ヶ峰はチラリ、と壁掛け時計を見上げる。
零時三十七分。賭け額五千万の「ダウト」プレイが開始されて二十分近くが過ぎていた。
「富賀河ぁ……いつまで黙りこくってる気? 明後日にはアプリ規制が始まるってのに、最後の最後でつまんねえプレイ、するんじゃねえよ……」
「……ッ?!」
――来た。
剣ヶ峰の言葉に、富賀河はテーブルクロスを見つめていた目を大きく開く。そして、鬱積させていた全ての感情をごちゃ混ぜにした笑顔を浮かべた。
――来た! 来た、来た、来たッ! キタキタキタキタァーッ!!
「ダウトォッ!」
発声の勢い余ったのか、富賀河は地に足をつけ、椅子から立ち上がる。興奮のためか、足元が少し揺らぐ。彼は剣ヶ峰に向かって指を差し、喜悦の舌なめずりをしながら言葉を続ける。
「『リョウ』ッ! 『明後日にはアプリ規制が始まる』ッ!」
――勝った!
「アプリ規制法延期」……つまり、「アプリ規制法は二月二日から」は「ウソ」が確定している! 俺が自分の「マイライ」で確定させた! 場の膠着でタイムオーバーが近づき、「マイライ」を消化したくなって口にしたんだろうが、俺はそれを待っていたんだッ!
――五千万、俺のモンだ!!
「……よっぽど嬉しいんだな、富賀河」
「あぁん?!」
「気持ちがいいか? 勝利を確信したときってのは」
「……当たり前だろうが! 五千万だぞ、五千万ンッ! 剣ヶ峰、テメェは負けだぁッ!」
『ダウト非成立!』
「ハ、ハハ、ハァッ! 五千万、五千万だッ! 俺の五千ま……」
愉悦の頂点を迎えて高笑いをしていた富賀河には、ハイトーンボイスが伝えた内容を理解するのにしばしの時間が必要だった。
「……今……なんつった? なんつったよ!」
スマホを乱暴につかみ取る富賀河。
画面に映るのは白背景にマイクマーク、「リタイア」ボタン。ルーム待機画面に戻っていない。まだ「ダウト」ゲームは終わっていない。
「俺は、俺の勝利を確信してても、そんなに気持ちよくないな。カオルとキスしてる方がよっぽどいい」
「や~ん……もう」
富賀河がテーブルの向こうの二人に目を移す。
剣ヶ峰は安芸島とキスをしながら横目で、富賀河に嘲笑たっぷりの視線を送って寄越している。
――ヤツの……剣ヶ峰の「マイライ」は「規制法延期」じゃなかった……。それどころか、「規制法延期」は「ウソ」じゃあなかった?!




