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依頼主、三ツ路桜音 1

「って、聞いてます? 二人とも」


 三ツ路(みつろ)桜音おうねはテーブルを挟んだ向かいに座る二人に対し、声の調子を少し荒げた。


「はい、ダーリン! 今度はダーリンの嫌いなトマトだよ」

「えぇ~……。食べらんねーよ」

「食べなきゃ大きくなれないよ。はい、あーん……」

「あぁん……ん。不思議だな。カオルに食べさせてもらうと、この赤い悪魔も美味くはないけど不味くもない」

「やったぁ」

「きっと、カオルの想いが詰まってこんな赤くなっちまったんだな」

「やーん……ダーリン、詩人。……ベストオブ詩人」


「はぁ~……」


 二人のイチャつきに三ツ路は深いため息をいた。


「ふふ。ダーリンのモグモグ顔、可愛いよね~」


 安芸島あきしまかおるはふわふわのナチュラルボブを揺らし、首をかしげて隣の剣ヶ峰(つるぎがみね)りょうの顔をのぞき込む。


「私、こんな光景を見せられるために来たんじゃないですけど……」

「……んぐ、ちゃんと聞いてるよ。三ツ路さん……だっけ」


 咀嚼そしゃくしたトマトを飲み込むと、剣ヶ峰は三ツ路に顔を向けた。

 過剰にイチャつく、目に毒なバカップル。その片割れの整った顔立ちを直接向けられ、彼女は少しドキリ、とした。


「男に振られた、って話だよね?」

「……違いますよ」

「ダーリン、ちゃんと聞いてないとダメだよ? 桜音ちゃんはカオルの大事なお友達なんだから」

「って言ってもなあ……」


 剣ヶ峰はソファの背にもたれかかると、ひとつ伸びをした。その動きに伴って、剣ヶ峰が着ている作業ツナギの柔軟剤の香りだろうか、三ツ路の鼻先をミントの匂いがかすめていった。


「ウチは見た通り、『なんでも屋』だけどさぁ。小難しいことは、まあ専門外なんだよね」

「主なお仕事はおじいちゃんに頼まれて買い出ししたり、おばあちゃんに頼まれて水道の詰まり直したり、だものね。せっせと働くダーリンは輝きが三倍増しだよ」

「まあ、カオルありきだよな。この道楽仕事も」


 ほおをつつき合う二人を横目に、三ツ路は室内を見渡した。

 三ツ路には使いみちのよく判らない工具やケーブルの山、それらが壁際のラックに綺麗に整頓されて収納されている。壁掛けには白い安全ヘルメット、訪問予定がまばらに書かれた一週間分のホワイトボード・カレンダー……。

 三ツ路の見識ではこの事務所が、「見た通り」の「なんでも屋」には見えない。町の工務店なのではなかろうか。


「……『なんでも屋』の『なんでも』は何でもやるよ、じゃないんですね」

「何でもやるよ?」


 剣ヶ峰はムッとした表情で、そのハスキーボイスをこもらせる。

 「なんでも」はやらない――とは先ほどの剣ヶ峰自身の言葉である。にもかかわらず、三ツ路の言葉がどこか気に障ったようだった。


「じゃあ……考えてみてくれますか?」

「でもなあ……ギャンブルの後始末ってのはなあ……」

「なんだぁ、ダーリン……ちゃんと聞いてたんじゃん」

「だから、聞いてるって言っただろ。要は、ちょっとカッコのいい男の口車に乗せられて、そいつ相手にゲームでホイホイと金を使っていたら、いつの間にか三十万も消えていた、ってことだろう? 自業自得じゃないか」

「自業自得……かもしれないですけど……」

「……けど?」


 三ツ路は口に運んでいたコーヒーカップを置くと、ソファーの上で居住いずまいを正した。


「その男……富賀河ふかがっていうんですけど、なにかおかしいんです」

「……おかしい?」


 三ツ路がうなずく。

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