表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

6/12(金)

 僕の思い出し方が悪いのか、これではまるで佳子が死んだようになっているがそれは違う。佳子はギンギンに生きている……きっとどこかで。

 ひと月前、仕事から帰ってきた僕を迎えてくれたのはベッドでスヤスヤと眠る愛美と暗闇の中、ダイニングテーブルの上にひっそりと置かれた佳子の署名付きの離婚届だけだった。

 突然の事に何が何やら分からなかった僕はすぐさま電話やline、Skypeや果ては昔一緒に更新していたブログのDM機能にまで手を伸ばし何とか佳子に連絡を取ろうと試みた。

 結果は全て全滅。電話は着信拒否され、lineやSkypeは既読が付かず、ブログに関して言えば彼女だけいつの間にか退会していた。

 僕は焦り、惑い続けた。

 どうして?

 その問いに答えようとさえしてくれない佳子に怒りすら沸いた。

「……なんだってんだよ」

 リビングのソファーでうなだれながら小さな叫びを暗闇に溶かす。

 喧嘩らしい喧嘩なんかもう何年もしていない。このコロナ禍の中リモートワークに即対応できるような大企業に勤めている訳ではなくても僕は毎日毎日実直に働き家族を養ってきた。

 およそ不満なんてないだろう? なのにどうして……

 そんな僕の些細な溜息に呼応するように寝室から「ん~」と寝返りを打つ愛美の声が聞こえてきた。

 その瞬間、僕の胸の中にさっきまでとはまた別の種類の焦りが生まれた。

 愛美になんて言えばいい?

 僕はふと明日の朝の事を思い背筋がスーッと冷たくなった。

 寝ぐせだらけで半分まだ目が閉じたままの愛美が「あれー? おかーさんは?」と聞いてきた時、僕は何と言ってあげればいい?

 ちょっとお出かけだよ――このままずっと帰ってこなかったらどうする?

 おかーさんは体調悪くて病気で入院することになったんだ――お見舞いに行こうと言われたらどうする?

 愛美、おとーさんとおかーさんは離婚することにしたんだ。離婚っていうのはな――――言えるわけないだろ!

 そんな事を考えながら、リビングで独り頭を抱えている内に、抱えている内に…………気付いたら寝てしまっていた。

 我ながら情けないと思う。ただ色んな事が起こりすぎてもう限界だったのだ。僕はそのまま泥のように眠り続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  いつもながら、本当に表現力とか心理描写とか、小説書く者には喉から手が出るほど欲しい感性が豊かで、羨ましい限りです。 [一言]  何度読んでも、主人公の心理描写が素晴らしくて愛美ちゃんが可…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ