5話:要件は正義
名前が付いたことにより、物語が進展するようになったみたいだ。
固まっていたおっさんが言葉を発せられるようになった。
「息子よ!オウスよ!」
「はい、ただいま」
凛々しそうな十二歳くらいの少年がでてきた。この少年が主人公らしい。
「うむ、ここ最近、兄のオオウスが食事の席にこない。食事にくるよう諭してくれないか?」
「わかりました」
ゲームの種類はアドベンチャーのようだ。
そのまま次の日の朝になる。
それにしても兄だからといってオがひとつ増えただけなんてどんな名前付けなのか。
「よし、諭せるよう二人っきりになれたな」
トイレからオオウスがでてくるのを待っていたようだ。
「ああ、おはよう、オウス」
兄が当たり前のあいさつをした。
ここでオウスの行動に選択肢のようだ。なるほど何を選ぶかで、説得できるかどうかが変わるのか。
さて選択肢は・・・と。
"殺す"
はい?
戸惑っているとミィさんがフォローしてくれる
「ね?クソゲーでしょ?」
いや、クソゲーというかシナリオが破綻しているような。
「この流れこそバグじゃないんでしょうか?」
「駄目よ。プログラマーやシステムエンジニアは要件に口出しできないの。どんなに変だろうがそれが要件なら要件よ。プログラマーはただ黙って作るだけ」
「はぁ」
しょうがなく"殺す"を選択する。
すると、目の前でオウスはオオウスを殴った。どうやら一撃で話はついたらしい。
けれど、それでも終わらず、素手で解体を始めた。あまりにもえぐい光景に、世界が暗転する。
暗転が終わると、いくつかの藁束がおかれている。どうやら隠ぺいもばっちりのようだ。
目撃者がいないとはいえ、どう説明する、というか何をしたいのか全くわからない。
「はい、クソゲーなのはわかってもらえたかしら。シナリオが糞だからやる気が起きない仕事なのよね。でもお仕事はお仕事。あなたの仕事はこのゲームが止まらないようにプログラムを修正すること。そうね、そのまま進めてみなさい」
そう言ってミィさんは自分の仕事に戻った。
物語は特に何もないまま(バグもないので仕事もないまま)4日がたち、
結局食事にこないオオウスにしびれをきらしたのか、おっさんが再度息子を問い始めた。
「おい、オウス。オオウスをちゃんと諭したのか」
隠ぺいの結果見つからなかったのだが、この問いはどう答えるのか、と見守っていると。
「はい、殺してバラバラにしてしまいましたよ」
と正直に答えた。いや正直というよりも褒めてもらえることを期待している様子だ。
おっさんは無言になり、しばらく考えたあげく
「クマソにクマソタケルという我々に歯向かう兄弟がいる。彼らをオオウスと同じように諭してこい」
と命令した。
どうやらおっさんはまともな人のようで息子の顔を見たくないようだ。
かといって少年にあきらかに殺しの指示を出しているのでまともではないが。
というかどういう立場の人なのだろうか。
オウスはオウスで褒められると思っていたので、期待したどおりにならず、残念な顔で
「わかりました」
と旅に出たのであった。
要件は正義なんです、使いづらいだろうなーと思っていてもその通りに作るお仕事です。
本当の正義を貫きたいなら偉くなるしかないんです。。。。




