3 ギルド
「やっと着いた」
安堵の息を漏らす。
結局あの骨は父親が片付けることはなかったが、そんなことは目の前の絶景に忘れさせられた。自然豊かなその街は、 ”ウォールガルド” そう呼ばれている。持ってきたものは多少の通貨と父親から授けられた刀と木刀、それだけだ。
食料や生活用品等は現地で揃えるつもりで、足りない分に関してはギルドからの依頼報酬でどうにかしたい。魔法はそれほど発展していないものの、賑やかな街並みに心を躍らせながらギルドへ向かう。
そっと、ギルドへ足を踏み入れる。空気が変わり、思わず息をのむ。何かを見定めるように壁一面に敷き詰められた紙を見ている者や、木製のテーブルで談笑している者もいる。賑やかな空間のその先のカウンターに、受付と思われる女性が見えた。足を運び進め、対面する。
「こんにちは、何か御用ですか? 依頼の申請ならそちらに――」
「冒険者の登録をお願いします!!」
「えっ」
えっ
一瞬の硬直の後、受付の女性はすぐに訂正する。
「す、すみません! こちらに登録の方をお願いします!」
そう言うと、慌ててカウンターの中から紙を取り出した。それと同時に、その声を聞いたいくらかの冒険者が集まってきた。そして、その中でも一際大柄な男が受付の女性に話掛けた。
「どうした、ミラちゃん」
「いえ、何でもありません。 大きな声だしちゃってすみません......」
そして、その大男は俺を見た。
「ん? お前、無才能じゃねーか。 珍しいな、迷い込んじまったのか?」
その言葉の後、他の冒険者も物珍しそうに俺の眼を見る。
「冒険者になりにきました」
「マジかよ、まぁ別に止めはしないがあんま無理すんなよ」
「ありがとうございます。 俺、頑張りますから!」
「おうよ、よろしくな、小僧」
そう言い、大男は受付に先ほど壁一面に敷き詰められていた紙の一つ持ち出し、それを差し出した。
「そんじゃ、気を取り直してミラちゃん、これ頼む」
「シーザーウルフ退治ですね、承りました。 よろしくお願いしますね」
ミラと呼ばれるは、慣れた様子で処理をする。なんだか美味しそうな名前の依頼を引き受けた大男は、振り返り、お辞儀をする俺を横目に挨拶代わりに片手を挙げて去っていった。
そして、ミラは再び俺に目線を合わせ、恐らく登録用紙だと思われるものを差し出した。
その紙の中央には、淡い青色に発光する模様が刻まれていた。
「じゃあ、そこに手をかざしてください」
手をそこにかざすと、その模様は次第に変化した。
”名: ローゼキ=カタシグレ”
”レベル: オッドアイ”
”スキル: 魔法使用不可”
”ランク: 白”
「これがあなたの基本情報です」
奇妙な現象に少し驚きながらも、確かな高揚感を感じた。
「順にご説明しますね」
「一番上は、あなたの名前です」
「次にレベル。 これは神から与えられた賜物。 つまり生まれ持った才能のことを表します。 また、魔物の場合は危険度を表す指標となります」
「スキルはレベルによって決定されます。 スキルは複数個持っている者や、一つも持たない者も存在します。 ローゼキさんの場合は......あっ」
あっ
まぁ、昔から魔法が使えないのは知っていた。
「ごめんなさい......」
再びミラは謝罪する。
「別に大丈夫ですよ、魔法には自信があるんです」
そして、その言葉にこのように付け加えた。
「一度も使ったことないですけどね」
「は、はぁ」
なけなしのギャグも全く通用しない。これが”ギルド”か......
そんなくだらない事を考えているうちに、説明は刻一刻と進む。
「ランクはギルドでの功績の指標になり、初期のランクは白となります。 これは、依頼を達成していくことでランクを上げることができます」
「ふむふむ」
「――以上で冒険者登録完了です。 お疲れさまでした」
「ありがとうございました」
ペコりとお辞儀をして、早速依頼の話に移る。
「それで、依頼は――」
「ちょっと、どいてくれない? 邪魔」
背後から声が聞こえた。
振り返ると、俺の言葉を遮った主、可憐な薄い桃色の髪の少女が、そこに立っていた。
お読みいただきありがとうございました。
晩御飯はシーザーサラダでした。