シャワーのふとん
今晩は軽く体の汗を流すだけのつもりだった。
シャワーを手に取り、水温四十度のお湯を体にあてる。
我が家の四十度は普通より少しぬるい。ガスとの相性が悪いのだろうか。
他の家のシャワーを借りるときは、久しぶりにきちんとしたシャワーを浴びている気になれる、と思えるほどだ。
かといって、水温を上げるわけにもいかない。ガス代が上がってしまうからだ。
――一通り汗は流せただろう。
私はシャワーを壁に固定し、蛇口をひねってお湯を止める。そして、体を後ろに向け、引き戸へ手を伸ばした。
そのとき、急に体が重くなる。浴室を出るのが面倒になったのだ。
私は引き戸へ伸ばしかけていた腕を下ろし、肌寒いから再び蛇口をひねってお湯を出した。
次第に体の力が抜けていき、青くて柔らかいマットの上に座り込む。
シャワーのお湯が私の背中に弾かれ、ぬれないようにしていた後ろ髪にかかる。
お湯の温度は温かくなったりぬるくなったりする。これもガスのせいだろう。
私は頭を後ろに傾け、髪全体をぬらす。一度ぬれてしまったのだから、もうどうでもいい。
――頭皮が温まっても、動きたいと思えることはなかった。
いや、動きたいと思って立ち上がろうと思いはしている。
しかし、体が動かないのだ。
しばらく私はシャワーを浴びていた。
このままではガス代が上がってしまい、私がバイトをする意味がなくなってしまう。
そのような危機を感じても、私は立ち上がろうという気にはなれなかった。
決して動きたくなかったからではなく、動けなかったからだ。
しかし、
決して動けなかったからではなく、動きたくなかったからでもある。
つまり、私は動かなかったのだ。
自らの意思で、動かなかったのだ。
――翌朝、私は浴室で頭にシャワーのふとんをかぶって眠っていた。