遊び人は少女を賢者に押し付けました。
「えっと、ヤだ」
「ななな、なんでですかぁ!?」
ライズが拒否すると、コンソメと名乗った少女は声を上げた。
「めんどくさいから」
「一緒に行くだけなのに!?」
「うん」
そもそも一緒に行くだけというけども、彼女に戦闘能力は全然期待できない。
つまり道中魔物が出たりした時に戦うのはライズになるだろう。
自分一人なら逃げるだけでいいし、そもそも割とラッキーなので魔物に会わないこともある。
もしコンソメをほっといてケガされたりしても困るし、依頼人を守るのもめんどくさいのにただ一緒に行くだけだとお金も手に入らない。
損になりそーな要素はてんこ盛りなのに、得が全く思いつかないのだ。
「ってことで、さよなら」
「何がてことなのかさっぱり分からないですよー!!」
口にするのはめんどくさいので内心で説明したが、伝わらなかったらしい。
不便だなぁと思いながら、ライズは歩き出した。
「あのあの! お邪魔になりませんからー!」
「すでに邪魔なんだけど」
「お料理とか得意ですよ!? ゴハン作りますよ!!」
「隣町ってここから半日しかかからないし。宿で食べる」
「な、なら荷物持ちとかします!」
「……どこに荷物が?」
重たいものは全部『隠しポケット』の中なので、手ぶらだ。
ぴょこぴょことまとわりついてくる少女に、ライズはため息を吐いた。
「あのね、コン」
「コン!?」
「コンソメって四文字言うのめんどくさいから。なんかキツネっぽいし」
「そんなことまでめんどくさいんですか!?」
可愛いけど元気すぎるコンソメは、いちいち律儀に突っ込んでくる。
さらにピッと自分の両耳をひっぱりながら、その存在を主張して来た。
「それに私は、イヌの獣人ですー!!」
「似たようなもんじゃない」
ライズにはあんまり獣人の種族は見分けがつかない。
……まぁ『じゃあ本物のイヌとキツネの見分けはつくのか』と言われると、それも自信はないけども。
「とりあえずさ」
「ああああああああ!!」
連れて行く気がないことを再度伝えようとすると、突然前方からやかましい声が聞こえてきて言葉をさえぎられた。
目を向けると、どうやら戻ってきたらしいサモンが、ビシィ! とこちらに指を突きつけている。
テンション高いのが増えた。
「おかえり」
「おま、ライズ!! 人が可愛い女の子探してる間に、なんでお前が可愛いコンソメちゃん捕まえとんねん!!」
ズカズカと詰め寄って来たサモンをするっとかわして、ライズは足を止めなかった。
「あれ、サモン知ってるんだ」
「知ってるんだって昨日の今日でこんな可愛い子忘れるかいな!!」
「……」
ライズは軽く目をそらしてから、何事もなかったかのように話題を戻してみた。
「それに、捕まえてないよ。さっき、変な奴に絡まれてたから助けただけ」
「そんでイチャついとったんか!? このモテ男が!!」
「イチャついてないし、モテてない」
「グゥウ、なんで探しに行った俺が見つけられんで、ちゃっかりお前が助けとんねん!!」
うがー! と頭をかきむしるサモンに、コンソメが軽く頬を染めてうつむいた。
「か、可愛い……?」
「いや、反応するのそこ?」
彼女の容姿なら、褒められ慣れていてもおかしくないと思うのだが。
「サモン、可愛いと思ってたならなんで居酒屋でナンパしなかったの?」
女と見れば声をかける彼らしくもなく、居酒屋ではコンソメに可愛いだのなんだのと言ってなかったのだろうか。
そう思っていると、サモンは堂々と胸を張った。
「コンソメちゃん忙しそうやったし、マスターに釘刺されたからな! あの人めっちゃ怖いやん!」
「胸張っていうようなことじゃないよね、それ」
魔王の極大攻撃を天才的な魔法センスで防いだ賢者とは思えないほどに、三下くさい言動である。
「んでさ、サモン」
「おう、なんや!」
「なんで会えないのかって、それこそ女神ナンヤテに、女の子との縁を切られてるからじゃないかな?」
「……!!」
サモンは雷に打たれたように硬直した後に、バカな、とつぶやいた。
「これが……さっきライズの言ってた縁切りの威力……!」
「威力って」
確かにサモンには凄まじい精神ダメージを与えているようだが。
とりあえず、どっちの相手をするのも面倒くさくなっていたライズは、サモンにコンソメを押し付けることにした。
「そこのコン、隣町に行きたいから連れてってくれって言ってたから、タダでいいなら一緒に行ってあげれば?」
「コン!? おま、この一瞬でそんな愛称でコンソメちゃんを呼ぶように!!」
コイツめんどくせぇ。
思わず肩を落としながら、ライズはそれ以上何も言わずに足を早めた。
すると、後ろでサモンがコンソメに話し始める。
彼女も最初は少しその勢いに遠慮がちに返事をしていたが、もともとこちらも元気なタイプだ。
すぐに普通に話し始めて、会話から解放されたことにライズはホッとした。
もうこれ以上めんどくさいことが起こらないといいなー、と思いながら、ライズは草原を吹き抜ける気持ちのいい風に、ふぁあ、とアクビをした。