遊び人は、強い奴に遊びに誘われました。
「多少悪どい程度なら、目をつぶってたやってたんだがな」
ゴキリと首を鳴らしたステーキは、大きく片眉をあげてこちらに目を向ける。
「……あの好色ジジイ、お前らの話を聞いてるとその人を手に入れるために家族ごとハメたらしいからな」
準備運動が終わったのか、ステーキは大きく背筋を伸ばした。
そのとたん、彼の全身からブワ、と威圧的な闘気が吹き出す。
さして背丈は大きくないにもかかわらず、威圧的な闘気が吹き出すと一回りもふた回りも大きくなったような錯覚を覚えた。
「……あかん、あいつめっちゃ強いで」
サモンの声色が変わり、ライズは少し気が重くなった。
どうやら、想定以上に強いらしい。
目的が読めないが、彼が戦うことを望んでいるのは明白だった。
ステーキはさらに言葉を続ける。
「自分からバカやりにカジノ来る連中なら、破産しようが何しようが構いやしねぇが……何もしてねーカタギに迷惑かけるのはいただけねぇ」
「だから、殺したの?」
「おう」
事もなげにステーキはうなずいた。
「周りにいる起きてる奴らは、もともと俺が使ってた連中だよ。てことで、フォクの身柄に関しては心配いらねぇ。ヒヒジジイ殺しで追われるのは俺で、俺はそいつと何の関係もねーからな」
お前らと違ってよ、とステーキは快活に笑った。
「じゃ、なんでそんなにやる気満々なの?」
「そりゃやる気だからだよ。当然だろ?」
まるで当たり前のように言った相手は、足を一歩踏み出した。
ザッ、と地面をこすった靴裏が小さな砂埃を舞わせた。
同時に、ステーキの体から吹き出す闘気がさらに圧を強め、ついに物理的な力すら伴って足元に生い茂る草を揺らす。
職能を極めた格闘家は、その闘気を自在に操って様々な技を行使するのだ。
「まぁ、細けぇことはいいんだよ。そこのライズとかいうの」
「うん?」
「俺と一対一で戦え。勝っても負けても、別に他の連中に手は出さねぇからよ」
再びステーキが合図すると、周りにいた連中が手際よく動いた。
倒れた連中を縛って担ぎ上げ、馬をそれぞれに二頭引いて自分たちの大将の後ろへと向かう。
ーーー正直、めんどくさい。
と思ったライズだったが。
「ーーーそうカタくなんなよ。ただの遊びだよ、遊び」
というステーキの言葉に、ライズはピクッと肩を震わせた。
「あ、あかん」
「「え?」」
サモンの声が背後から聞こえ、コンソメとサラが同時に疑問の声を上げる。
「遊び……?」
「そうだよ。俺は強ぇヤツと戦うのが好きなんだ」
ニカッと笑みを見せて構えを取ったステーキに対して、ライズは一歩、足を踏み出した。
「おいライズ」
「遊びかぁ……!! 楽しいかなぁ……!」
「あかん、聴こえてへん。ちょっと二人とも、もっと後ろ下がってや。俺の前に出たあかんで」
心から浮き立つ気持ちを抑えきれずにいるライズの後ろで、サモンが手早く二人に指示を出していた。
「な、なんかライズさんの様子がいつもと違うような……?」
「なんで子どもみたいに顔を輝かせてるのかしら? どう見ても殺し合いしようとしてるわよ? あのおじさん」
「ライズはな……」
サモンが少し呆れ混じりの声で二人に説明する。
「基本めんどくさがりやねんけど、遊ぼう、って言われるとあかんねん」
それが楽しいことだと認識すると、もうあかん。ーーー三下賢者の言葉に、コンソメがおずおずと問い返す。
「遊び人だから、ですか……?」
「まぁ、本人の資質もあんねんけどな……ライズは、別に幸運だけで最後まで戦い続けたわけちゃうねんで」
その言葉を聞きながら、ライズは軽く跳ねた。
トン、トン、トン、と脳内のリズムに合わせて、軽く鼻歌を歌う。
徐々に速度を上げながら、今度は左右に体を振るようにステップを刻んだ。
だんだん体があったまって、同時に楽しくなってくる。
「ハハ……」
ライズは笑いながら、構えたまま微動だにしないステーキの前で踊り始める。
腕を大きく振り、リズムに乗っていくと、ドンドンドンドン意識が鮮明になっていく。
普段の眠気は、どこかに吹っ飛んでいた。
「あいつはな、何かを覚えろって言うとめんどくさがるんやけど、一緒に遊ぼうや、って言うと何でも覚える」
「何でも、って? ってかダンス上手いわねアイツ!?」
サラが口を挟む間に、ライズは体の中の高まりが極限に達したのを感じた。
「あの踊りも、アイツの妹が踊り子で教えてもらったんやけどな」
ステップの最後、全身をロックしてほんの一秒だけピタリと止まったライズは、魔法の言葉を口にした。
「〝カップに教えてもらった遊び〟ーーー《縮地の踊り》」
体が羽のように軽くなった瞬間、ライズは跳ねた。
その後ろで、小さくサモンの言葉が聞こえる。
「遊びだと思ったら、何でも速攻で覚える……ライズは《見盗り》の天才なんや」




