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ケモ耳少女は、森ではぐれてしまったようです。


 昼から移動して、コンソメたちは首尾よく『チカクの森』に向かった。


 3バカは食事の後、ライズらによって街に置き去りにされている。


『そんな! こんな奴らが近くにいるのに姉御のそばを離れるわけには!』

『ロリババアも悪くないっすよ! むしろいい!!』

『ケモ耳ハァハァ』


 などと相変わらずよくわからないことを言っていたものの、サラの重力魔法で押し潰されている間にさっさとその場を後にした。


 実際、最初に絡まれた記憶から彼らが少し怖かったコンソメは、ホッとしていた。

 

 安心したので、森に入った後に、興味のあったサラに近づいて話しかける。

 自分と同じような立場の彼女に興味があったのだ。


「サラさんは、外に出るのが好きなんですか?」

「わりと好きかしら! 宮廷は肩が凝るし、あんまり宮廷でパーティーするのとか好きじゃないのよね!」

「あ、私もです」


 魔王である父、レイ=シュは城にこそコンソメを入れなかったものの、誕生日には毎回親しい人を集めてパーティーをしてくれていた。


 住んでいたのは魔王領の片田舎であり、大半は親しい人だったのだが、知らない人もそれなりに招かれる誕生日パーティーは少し苦手だったのだ。

 

「コンちゃんも王女なの?」

「えっと、だった、というほうが正しいです!」


 コンソメは、ニコニコとこちらを見上げて問いかけるサラに、笑顔で答えた。


「獣人の国かしら?」

「そんな感じです!」


 耳を見ながらさらに問いを重ねるサラに、具体的な話はしない。

 さすがに、魔王の娘だと名乗るのはマズイという程度の自覚はあった。


「コンソメ……聞いたことないわね……獣人の国は部族とかややこしいから、それでかしら?」


 サラは頬に人差し指を当てて軽く首をかしげたが、それ以上は追求してこなかった。


 下生えがまばらに生えた道は、あまり人通りそのものはなさそうだが一応歩きやすい程度には踏まれている。

 横に3人も並べばいっぱいな狭い道幅で、木の根も道にはみ出しているが、あまりに邪魔なものはどこかの冒険者や商人たちの手によって切り落とされていた。


 この『チカクの森』はいつも軽くモヤがかかっているらしい。

 カボチャ頭などの幻影の魔物が多く住んでいることが原因らしいが、視界が遮られるというほどでもなかった。


 前にいるライズの背中を見失うほどではないし、後ろにはサモンがいる。


「王宮にいるのが窮屈だから、外に出ているんですか?」

「それもあるけど、それだけじゃないわよ!」


 少しヘンな形の杖をついて、よいしょ、と木の根を踏み越えながら、サラは首を横に振るが、待っていてもそれ以上なにかを言う気配はない。


 話せないことがあるのかな、とコンソメはそれ以上追求しなかった。

 サラが自分の身の上を明かせないのは、自分と同じような理由だろうと思ったからだ。


 いくら重力魔法を使える才媛と言っても、王女が一人で護衛もなしに外に出るのを許すほど、魔族と人間の争いは『遠い』出来事ではない。


 そこで、ふとコンソメは目を上げて……気づいた。


「あれ?」

「どうしたの?」

「ライズさんがいません」

「え?」


 すぐ前にいたはずのライズの姿が消えていて、気がつけばコンソメたちは『道』から外れた場所にいた。


「さ、さっきまでと景色が違う!?」


 ほんの数秒前まで薄いモヤの向こうに見えていた道が消えて、木々の間にある少し開けた場所に立っていた。

 コンソメは慌ててまわりを見回すが、細い木々と下生えばかりの場所で、道の気配も見えない。


 後ろのサモンも、ライズ同様に消えていた。


「な、なんで……」

「やられたわね。幻影魔法かしら」


 サラが表情を引き締めるのに、コンソメはナイフを抜きながら問いかける。


「ま、魔物ですか!?」

「いえ。こ、この森に住む魔物くらいだったら、魔法使われたら気づくと思う、ん、だけど……」


 サラは冷や汗をかきはじめていた。


「そんな、じゃ、もっと強い魔物が……!?」

「それは分からないけど……それは別にどうでもいいのよ!!」

「……え? じゃ、なんでそんな緊張してるんですか?」


 よほどまずい状況なのかと思っていたコンソメが思わず問いかけると。


「わ、私、幻影系の魔物すっごい苦手なの……!!」


 サラは真剣な顔をしながら、まわりにせわしなく目を走らせた。

 そして今までの自信に満ちた態度とは裏腹に、小さな声でポツリと告げる。


「だって、幽霊みたいで怖いじゃないの!!」

「そんな理由!?」


 確かに、幻影系の魔物は不気味で、幽霊も言われれば不気味だが。


「実体を伴った強い相手の方が絶対怖いじゃないですか!!」

「そんなことないわよ!」

「三バカさんたちとか怖かったです!!」

「どこが!?」


 そんな風にギャンギャン言い合っていると、不意に下生えがガサリと揺れる。


「「はぅ!?」」

 

 声をあげてお互いに抱きつくと、ゆらりと現れたのは。


「ご苦労さん」


 三バカの一人で、子分の二人に『兄貴』と呼ばれていたモヒカン頭の人物だった。


「って、ドリアンじゃないの。なんで付いてきてるのよ?」

「あっ」


 ニヤニヤと笑う彼に近づこうとしたサラを、コンソメは思わず縦ロールの髪を引っ張って止めた。


「いったーい!」

「あ、ごめんなさい!!」 


 肩を掴もうとしたのだが、背が低すぎて狙いを誤ってしまったのだ。


「何するのよ!」

「だ、だっておかしいじゃないですか!」


 コンソメは、ポケットに手を突っ込んだままにやけた笑いを止めようとしないドリアンを指差した。


「ら、ライズさんの姿もサモンさんの姿もないのに、なんでこの人がここにいるんですか!?」

「言われてみればそうね」


 サラは納得したようで、警戒しながらモヒカン兄貴……ドリアンに杖を突きつける。


「答えなさい、ドリアン」

「そりゃもちろん、俺様がここにあんたらを誘い出したから、だよ」


 彼の全身から魔力の気配が吹き上がるのと同時に、サラが構えた杖から魔法を放つ。


「〝跪け〟!」


 しかし、魔法が発動しなかった。


「!?」

「はん、ムダムダ。使う魔法がわかってりゃ、あらかじめ対策もできるんだよ。……こんな風にな」


 言いながら、ドリアンはポケットから何かを取り出した。


 紫の草で編まれた、小さなわら人形だ。

 いくつもあるそれの一つが、ひしゃげて潰れているのをドリアンはこれ見よがしに示した。


「身代わり人形……!」

「そうだよ、姉貴……いや、王女サマよぉ」


 誘魔草ゆうまそうで編んである、と、得意げに口にしながら、相手は足を一歩踏み出す。


「いやぁ、なかなか時間がかかったぜ。真正面から挑んでも勝てねぇくらい強い上に、寝る時はアホみたいに硬い結界貼りやがってよ。探し出すのに2年、取り入って目的のもんを作るのに3年……」


 ようやくだ、とにじり寄るドリアンに対して、コンソメはナイフを構えた。


「あんた、何者?」

「な、何が目的なんですか!?」


 コンソメとサラの問いかけに、ドリアンはポケットに人形をしまうと鼻につく仕草で礼をした。

 すると、バサリ、と音を立てて彼の全身を召喚されたローブが包む。


「名乗らせてもらおうか。俺は暗黒魔導士のドリアン。王女の持つ『進化の宝珠』をずっと狙っていたんだ」


 サラが、その言葉に息を飲む。


「そう……あんただったのね」

「し、進化の宝珠?」


 意味がわからないコンソメが尋ねると、ドリアンはサラの胸元を指差した。


「その王女様が首から下げたペンダントにはまってる石だよ」


 クックック、といやらしく笑ったドリアンは、大きく芝居掛かった動作で両手を広げた。


「それを使って儀式を行うと、魔神の力を得ることが出来るというーーー闇の秘宝さ」

 

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