遊び人は、ロリと出会うようです。
「テメェら!! 見つけたぞ!!」
翌日、街を出ようとした時のこと。
後ろから声をかけられて振り向くと、そこに立っていたのは3人組の男たちだった。
モヒカン頭の変なヤツを筆頭に、リーゼントとハゲが付き従っている。
「えーと。……誰?」
「あぁん!? テメェ、昨日好き勝手殴ってくれやがったくせに人の顔忘れてんじゃねーよ!!!!」
「昨日……?」
どうやら腫れているらしい頬に当てた布を指差しながらモヒカンがわめく。
「……???」
本気で思い出せずにライズが腕を組んで首をかしげていると、横からツンツン、とコンソメが袖を引っ張った。
「ら、ライズさん。あの人たちほら、私に声をかけてきた人たちですよ……!」
すると、脇のリーゼントとハゲがそれぞれに言う。
「あ、相変わらず可愛い獣人ちゃん……」
「ケモ耳ハァハァ」
「ああ、思い出した。昨日の変態か」
ぽん、とライズが手を打つと、モヒカンが地面をガンガンと踏みつけながら両拳を握って震わせる。
「テメェこの野郎!! なんっでオレ様の顔を忘れてんのに、こいつらのことは覚えてんだよぉ!?」
「いや、別に覚えてたんじゃなくて、単に思い出しただけなんだけど……」
「ほ、本当に忘れてたんですか!?」
昨日の今日なのに、とコンソメが頬を引きつらせると、サモンが彼女の肩を叩いた。
「ライズやから」
「た、達観してますね、サモンさん」
サモンは、少女の言葉に遠い目をしてうなずいた。
「……そうじゃなきゃ、コイツと付き合ってられんから」
「言葉が重いです!」
「なんか失礼なこと言われてる気がする」
「気のせいや」
はっきりと断言されたが、あまり納得できなかった。
「人のこと無視してくっちゃべってんじゃねーよ!! 姉貴ぃ、なんとか言ってやってください!!」
モヒカンが、後ろを振り向いて誰かに話しかけるようなそぶりを見せたが、そこには誰もいないように見える。
「あの人、なんで後ろに向かって独り言?」
「幻覚でも見えてんちゃうか」
「独り言じゃねーよ!! 姉貴、やっちゃってください!!」
モヒカンがその場をどくと、ようやくライズたちにもその姿が見えた。
どことなく高価そうな服を着ているが、少しくたびれているようにも見える。
その服はひらひらのレースがついたドレスのようなもので、手には杖のような何かが握られていた。
先端が少し斜めに曲がったそれは、雪国で流行っていた『ほっけー』という氷の上で滑りながら氷の塊を転がす遊びに使う、スティックに似ている。
それを持つちんまい感じの彼女は、非常に顔立ちが幼く、髪型は金髪の縦ロールだ。
どこからどう見ても幼い少女にしか見えない彼女に対して、サモンがポツリとつぶやく。
「ロリ……?」
「誰がロリよ!?」
サモンの言葉に反応した彼女は、ズカズカとこちらに近づいてきた。
「初対面でいきなり失礼なクソガキね!!」
「いやどう考えてもお前の方が年下やろ」
サモンが前に出て、自分の胸元くらいまでしか背丈のない少女に対して屈み込む。
「なんや、迷子か? ゴッコ遊びなら他でやってくれへんか? あんまヒマとちゃうねん」
諭すような口調のサモンに、少女は気の強そうな眉を逆立たせて杖をくるりと逆さに持ち替えて、彼の額に突きつけた。
「あん?」
「〝跪け〟!!」
「ズボァ!?」
いきなり、サモンが上から何かにのしかかられたかのように前につんのめり、地面にビタン! と叩きつけられる。
「じ、重力魔法……!?」
三下賢者の驚いたような声に、ライズは感心してうなずいた。
「へー、すごい」
「あ、あれはなんなのですか、ライズさん!?」
杖を肩に担いで仁王立ちする幼女とこちらの顔を交互に見ながら、コンソメが問いかけてくる。
驚いているのか、目がまん丸に開かれて耳がピンと立っていた。
「上位魔法の一つ、かな。物を重くしたり軽くしたりする魔法なんだけど、極めるとドラゴンでも押し潰せるような魔法だよ」
「……!!」
もちろん、少女の使った魔法はそこまでの威力ではない。
手加減しているのか練度が低いのかはわからないが、せいぜい本当に人間を地面に押し付けるくらいの威力しかない。
だが、サモンの魔法耐性を突破したということは、彼女の魔力量はそこそこ多いだろう。
「私はね!! こう見えても28歳なのよ!!」
「どっちにしたって年下やんけ!!」
重力魔法の影響が消えたのか、ガバッと起き上がったサモンが言い返した。
「テメェ、姉貴に向かってなんてクチききやがる!!」
どうやら彼女より年下らしいモヒカンが、後ろから声を張り上げる、が前には出てこない。
なんというか、サモンと同じニオイがする。
「テメェら、聞いて驚け! このあたりで有名な魔法の天才、サラの姉御とはこの方のことよ!!」
まるでそれがスゴいことのようにモヒカンが鼻息を荒くする。
「そうよ!! 私のことよ!!」
ふん、と大きく胸を張る少女に、ライズは眉をひそめた。
「皿、って胸が?」
「ら、ライズさん! 失礼ですよ……!! あの子の名前です……!!」
「あゝ、そういうことか」
コンソメが、ウェイトレスの制服を押し上げるふくよかな胸をたゆん、と揺らしながら慌てたように言うのに、ライスはうなずいた。
「ライズさんって、なんかこう、天然ですよね……」
「お前に言われたくないけど」
そんなこちらのやりとりを聞いて、再びサラが眉を逆立てた。
「バカにしてるの!?」
ライズは軽く肩をすくめた。
そんな事を言っても、向こうとこっちの温度差がすさまじいのだ。
「だって、あの子のこと知ってる?」
「えっ……と。この辺は地元じゃないので……」
なるべく相手を傷つけないような言葉を選んでいるのだろう。
頬に指を当てて視線をさまよわせるコンソメに、ライズはズバッと告げた。
「要はサル山の大将」
「ら、ライズさんはもう少し言葉を選ぶべきです!!」
「やっぱりバカにしてるわね!? もう許さないんだから!!」
サラは、ジャキン、と手にした杖を両手で持ち、こちらに狙いを定めるように傍に構えた。
「あ、ちょっと離れて」
「え、きゃ!」
ライズが軽くコンソメの肩を押すと、彼女が二、三歩バランスを崩して下がった。
「〝跪け〟!!」
再びサラの魔法が発動し、重力の威力がライズの周りを押しつぶす。
ズン、と音を立てて、地面に生えた草がベシャッとなるが。
「え?」
ライズは、全く影響を受けずに平然と立っていた。
「わ、私の魔法が効かない!?」
「そりゃまー、範囲魔法だしな、それ」
幸運の加護によって、ライズに範囲魔法は当たらないのである。
ナンヤテ様々だ。
「くっ……あなた、やるわね……!!」
「何もしてないけど」
ライズは、まるで強敵を前にした時のように慄いているサラから、その後ろにいる3人に目を移した。
「そんな、姉御まで……!? おだてに弱いガキみたいな思考回路なのに、力だけは強いはずの姉御が……!!」
そこにはゴーン、と大きく口を開けるモヒカンと。
「ロリネキの幼女っぷりも捨てがたい……」
「ケモミミキョヌーサイコー」
なんかブレないリーゼントとハゲの二人。
「……〝跪け〟」
三たび、今度は後ろに向けて放たれた杖の一撃は、三バカたちを地面に押し倒した。




