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In the dream,I could see...

私は、自分が夢の中にいることに長らく気づいていなかった。

 どこからが夢の始まりなのか、夢を見始めてどれぐらい経ったのか、全く分からなかったのだけれど、ある時穴に落っこちてしまい、その穴があまりに深く、いつまで経っても底に辿りつかないまま落ち続けているときに、ふと

「ひょっとしてこれ、夢なのかしら」

と思ったその瞬間、足元に白く光る円ができ、その円に吸い込まれた私は真っ白いワタゲバナの咲く野に放り出されたのだった。

 私は夢の世界と折り合いをつけるのに、随分苦労した。夢なんて私の頭の頭の中で起こっている事象に過ぎないはずなのに、この世界は私の予想を裏切り変化し続け、見たこともない風景を見せる・・・それなのに、私が夢の世界に不安を感じたりすると、それを察したかのように、私にとって懐かしいもの―子どもの頃から使っている鏡、窓際の椅子、軒先に巣を作っていたツバクラメ―などを与えてくれるのだった。思い通りにならないのは私自身も同じことで、少しでも気を抜くと勝手に体が動き始め、頭の中までも、この夢の世界を冒険したい、という意思に満たされるのだった。

 ある時、といっても夢の中の時間のことなのでよく分からないのだけれども、「人」

に出会った。人恋しさと恐ろしさがせめぎあい、私はそっとその人に近づいてみた。遠目には、背のすらりとした美しい女の人に見えただけだったけど、顔が分かるぐらいに近づいてみて、私は驚きのあまり声も出なくなってしまった。

 その人は、お母様でした。しかし、どうにか声をかけようとすると、その人はお母様によく似た、けれども全く違う他人となっていた。私が「お母様。」という言葉を飲み込むと、その人は独り言なのか私に聞いているのか、

「今日のおやつはどうしようかしら。ヒムカイの花の蜜煮にしようかと思っていたのですけれども。暑くなってきたことですし、シグレノミのシャーベットの方がいいかしら。」

と首を傾げた。

「どちらも食べたことないけれど、美味しいの?」

と私が尋ねると、その人はこちらを向き、その顔はいつの間にか乳母のものとなっていた。

「そうね、やっぱり、マッカのビスケットにしましょう。」

私は何だかぞっとして、その場から逃げだした。それ以降も何度か「人」に会うことがあったものの、私はもう、「人」に話しかけることはしなかった。

 私は特別社交的な人間ではなかったけど、誰とも会わない、話せないというのはなかなか寂しく・・・つまらなかった。私には、こういう時に気分を慰めるためのものが何かあったはずなのに、思い出せなくて・・・。

 私は夕日が沈むと同時に朝日が昇る海岸を歩き、花吹雪の回廊を昇り、月の舟で星の川を渡った。そうして漠然と旅を続けているうちに、ふと、自分には目的が、行き先があるような気がしてきた。何となく、自分が進むべきと思う方へと歩いていると、自分はこれから、だれかに会うのだ、ということが分かってきた。

 ツタやイバラ、イトムギの穂、フジナの蔓が生い茂る野をかき分け、つまずき、それでも進んでいくと、やがて黒い人影が見えた。その人も、こちらに気づいた様子で近づいてきて・・・私は、その人を、覚えていた。

「あら、お姫様。お久しぶりね。」

私に眠りの魔法をかけた、名無しの魔女が、そこにいた。

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