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幸せの先の先  作者: 狗月
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森と声と



『リエン、今日は何時まで?』


 誰か知らない人の声がした。・・・でも、懐かしいと感じる声だ。


 俺に向かって話しかける彼に返すのは、俺じゃない俺。


『今日は16時までだよ。ヴィン、今日は何の話を・・・。』


 穏やかな声が自分から聞こえる。変な感じだと思っていると、声がだんだんと遠くなる。


 嗚呼、夢が覚めてしまう、と寂しくと感じている自分に不思議だとも感じた。そして、目の前に見えていた金の瞳と金の髪を持った彼の姿が消えた。



 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。・・・あの人、すげー美形だったなぁ、という言葉が出てきたことに、呆れつつも驚いてもいた。今回は覚えていた、夢のことを覚えていた、と勢いよく立ち上がる。

 すると、一斉に視線が集まる。


「八神ー。どうした、怖い夢でも見たかー?でもな、今は授業中だッ!」


 授業中だったらしく、数学担当の先生はこちらに近づき、目の前にまで来ると、持っていた教科書で頭を叩かれた。


「痛ッ・・・すみません。」


 大人しく謝って席に着くと、「それじゃあ、八神。明日の授業で当てるからな。それじゃあ、今日はここまで。」という先生の言葉と同時に、終了のチャイムが鳴った。先程のが、本日最後の授業だった為、クラスメイトは帰る準備をぼちぼち始めている。


 俺は全く動くことが出来ず、頭に残っている夢に驚きつつ、あの金色は知らないはず・・・でも、あの声も、俺じゃない俺に向けられた笑みも・・・知っている、と思う。そんな考えに捕らわれていると、クラスメイトから声がかかる。


「おーい、智。大丈夫かー?」


「・・・あ、うん。大丈夫。」


「今日、どっか行かねぇ?パァーッと遊びたいんだよな、カラオケとか、ど?」


「うーん。今日はやめとくわー。」


 先程の夢のことも気になるし、寝不足で肩の重い疲れもとれてないのだ。帰ってゆっくりとしてようかな、と思いながら帰る準備をする。「そっかぁ。」とすぐに引いてくれたクラスメイトに、助かったと思っていると、担任が入ってきて、HRが始まった。


 それからHRがすぐ終わり、いつもの帰路につくと、流れていく景色の中に見慣れないものが目の端に映る。それは公園のはずの場所で、そこは森と隙間から湖の様なものが見える。


 無意識にそこに引き寄せられ、近付いてはいけないと、どこかで分かっているものの、足が勝手に進んでいく。だめだ、だめだと心の声が聞こえるが、それでもそれにだんだんと近くなる。


 森へ足を踏み入れる、と思った瞬間、何かが後ろへ引っ張った。そのまま、尻もちをつき、少し痛みを感じると、正気を取り戻せた気がした。


 それから、一瞬、視界から外していた森に、また視線を戻すと、そこはいつもの公園に戻っていた。


 さっきのは幻?俺が可笑しくなったのか?そんな考えで頭をいっぱいにしていると、『ヴィン・・・』という声が頭に響いた。その声は、夢で聞いた穏やかな声だった。その声は深い悲しみも含んでいて、どうにかしてあげられるなら、したいと感じた・・・そんなことはできないけれど。


 一旦、家に帰ろうと立ち上がると、少し目眩がした。寝不足のせいか・・・?と内心呟くと、何だか納得できる気がする。・・・寝不足だから、変な森も見るし、夢で聞いただけの声も聞こえてしまうんだ、とそう自分に言い聞かせた。



ーーー


 このままじゃだめだ、と思った。

 

 ブレて見えた公園に、フラフラと近づいていく智を見守ろうとしたが、つい手を出してしまった。あのまま行くと、きっとこちらへ来てしまっていただろう。・・・それだけは絶対にさせてはいけない。

 こちらに来たら、またステインがリエンの様に殺してしまうだろう。殺させたくない・・・そして、死んでほしくもない。そう考えながらも、心の底では『リエンに会いたい』とも思ってしまった。


「リエン・・・。」


 小さく呟いた愛しい人の名前は、無意識に流れた涙と共に床に落ちて消えた。


ーーー


 不思議な森を見た後、その日はすぐに家へ帰った。俺の様子が余程、おかしかったんだろう。母さんは、心配そうにこちらを見つめ、「ご飯食べて、さっさと寝ちゃいなさい。」と笑って言ってくれた。

 そうだ、この頭痛も、胸がドキドキと落ち着かないことも、全て、寝不足のせいなのだから。食べる気にもならなかった為、あたたかいお茶だけもらい、すぐに自分の部屋に引っ込んだ。

 母さんの言う通り、さっさと寝てしまおう、といそいそとベッドへ潜り込んだ。すると、すぐに眠気が襲ってくる。あまりにも早いそれに、よっぽど疲れていたんだな、と内心呟くと、意識は飲まれていった。


 その時、また声が聞こえた。


『リエン・・・。』


 寂しそうなその声は、懐かしいあの声だった・・・。


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