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悪役令嬢、ハーレムを望む!

体験版みたいな感じで短編化してみました。私の気力が続けば…連載します…。執事とお嬢様の関係と女の子が…好きすぎて暴走しました。主人公の女子に対しての気持ちは大体作者と同じです。

どうも皆様、ビアンカ=アウローラです。これでも公爵令嬢、そんな中でも長女やってます。公爵っていかにも身分が高くてですね、それこそ王子様の婚約者に選ばれるくらいには。

じゃあ私が婚約者なのは王子様なのか?いいえ違います。宰相様や他のやんごとなき身分のご子息なのか?いいえ違います。私はまっさらフリーです。やってきた婚約話は全て妹に吹っ飛ばし、その結果可愛い可愛い我がマイシスター兼天使兼女神兼聖母様は次期王妃様となるべく勉強中でございます。

というのも、私、そんな恋愛に現を抜かしている暇はないのです。皆様は驚かれるかもしれませんが、私前世の記憶というものがありまして。こことは違った世界観で生まれ育った私はそれはそれは賑やかな男兄弟に囲まれ、男勝りな母親と剛毅木訥な父親の血をちゃんと受け継いだ立派な漢と賞賛すべき女になりました。なんとびっくり、私は女に生まれ落ちてしまったのです。まだ勉学に励む身分のうちに親孝行もできず事故にあったのか否か、私は死んでしまった様でございます。私は女性に恋することはありませんでしたが、散々男に囲まれた身として、男のダメな部分をよく見てきておりました。目の前の殿方がいくらイケメンでもいくら優しくとも頭にちらつく兄弟の欠点。ついに私は男に恋することもございませんでした。もとより生まれついた見た目のせいで、男らしく見えていたのもありましょう。しかし、こんなもの弊害とは呼べませぬ。本当の悲劇はここから。私は、同性の友人がいませんでした。

話しかければ怖がられ若くは恥ずかしがられ。手助けすれば照れられ黄色い悲鳴をあげられ。気がつけば私は宝塚のスターのごとく。一緒に着替えるのが恥ずかしいからと私は個別に更衣室を与えられ、男に妬まれ、女子に告白され。

どうして周りの男どもに女友達がいて、私にはいなかったのでしょう?私の前世はなにをやらかしたのかわかりませんでした。ただ私は女の子の友人と甘いものを食べ、オシャレをして、お話ししたいだけであったのに!罪深き我が容姿と生まれを憎むこと十数年。生まれ直した今世では、見た目こそ美しくないものの醜くもないいわゆるモブ女顔へと生まれ落ちました。父様母様妹の美しさに比べ可哀想な生まれですが、興味ありません。令嬢は本来女性同士で交流するもの。つまり私はやっと!やっとまともに女性と交流することができるのです!

「ビアンカ嬢、手止まってます」

「あら失礼」

何故か説明口調の私の思考を止めたのは従者のジャック。今は朝食の途中なので怒られるのも仕方ないですね。ゆっくりしていると学校に間に合わなくなります。

ああ、そうでした、学校。我が国は教育制度が割と整っている方です。小学校は義務として全国民が、中、高の学校は平民でも優秀ならば通える学校が存在します。といっても、私が通うのは名門の貴族学校。まあ国の重鎮の子供たちが揃うのですからセキュリティなどがしっかりしていないと危ないですからね。学校というものは育てるには割と効率は良いですから。で、私はその学校の寮に住んでいる高等部2年でございます。家に行き帰りするよりも寮の方が安全ですから妥当ですね。従者は目の前のタレ目三白眼紅茶色の目と髪の無駄に高身長な男1人のみを連れてきました。何故女性がいないのか?私のために女性を働かせるなんてこと無理ですから。寮生活なんて縛られた生活よりかは休暇のある公爵家の仕事の方が良いでしょう。そもそも着やすい制服もあるし1人で身支度できますから誰もいらなかったんですが、誰か1人は連れて行けと言われましたから昔から使えくれていて気心のしれた者を連れてきたんですよ。一応食事を作ってもらったり毒味をしてもらったりはしています。

「そういえば、本日マリア嬢がお昼休みにビアンカ嬢とお会いしたいと」

マリアというのは一つ下の私の妹です。高等部1年、全てが平凡な私と違い成績優秀眉目秀麗文武両道の花も恥じらう美しき乙女=天使=聖女。それがマリア。昔からできの悪い私を慕ってくれる素直で優しい少女です。動悸が抑えられません。持っていた紅茶の液面が彼女の可愛さを思い出して揺れています。何事もなかったようにそれをソーサーに戻し、にっこりとジャックに笑いかけます。

「マリアが?一体どうして?」

「ビアンカ嬢と昼食をとりたいと」

「天使」

「2人で中庭で食べたいと」

「女神」

「昼食はマリア嬢が作ったものをお持ちなさるとか」

「結婚したい」

「良いことです」

生憎、既に彼女の結婚の相手は王太子様で埋まっているのだが。なんか悪女とかが王太子様かっさらってくれないかな?そしたら妹と仲睦まじく2人で別荘でも建てて穏やかに過ごすんだ…。近くの家に仲のいい従者を連れてきて彼らの家族と一緒に交流してキャッキャウフフ…。

「ビアンカ嬢、紅茶が冷めます」

「あらごめんなさい」

そうときまれば早く支度して学校に行きましょう。今日も何事もなく平凡に女子生徒として生きるのですから、ええ。女性に囲まれた状態のことを「ハーレム」と呼ぶそうですが、私が目指すのはまさにそれ。仲の良い女性に囲まれて茶会を開く…そんな令嬢にしては普通のことが、私の夢なのです。


**************



妹の伝言によると、彼女は別館の解放された屋上で待っているとのことでした。他の生徒がいると思いきや、案外ここは穴場なのです。告白場所に使われたりもするようですがどうでもよいこと。全ては我がマイシスターのため。女兄弟とはなんとよい響きでしょう。さらに妹は完璧可愛い優しい少女なんですから前世で苦しんだ意味があったというものです。眼福の極み。

「待たせてしまったわね、マリア」

姉らしく優しく声をかけると、侍女と共に敷かれた布に座る妹が振り返りました。快晴の下きらきらと輝くプラチナブロンドの髪がふわりと風に乗り、彼女は私よりも幾分明るい空と同じ青色の瞳をこちらに向けます。私の姿を捉えると、さらにその瞳はきらりと輝き、表情はふんわりと笑みを作りました。

「お姉様!来てくださったのね」

KAWAII。CUTE。BEAUTIFUL。

いけない自我を保て自分。何のために今まで良い姉をしてきたと思っている。乗り切れ、いつも通りだ。BE COOL。それが私。

「貴女のお誘いだもの、当然でしょう?…それよりも、淑女が日傘もささず陽の下でなんていけないわ、ジャック」

冷静に、しかし優しく微笑み、ジャックに簡易なパラソルを組み立ててもらいます。これ重くないから超便利。持ってきてたジャック流石。給料上乗せ父様と交渉したげようかな。

「ごめんなさい、姉様。ジャックもありがとう」

「いえ、お気になさらず。マリアお嬢様のためですから」

猫被ったからやっぱ減給だお前。無駄に柔和な笑みを浮かべるんじゃないどうしたいつものうさんくさい笑顔は。私の可愛いマリアになにやろうとしてんだ、さっきまでお前マリア嬢って呼んでただろふざけんな。

「まあ、本当はお姉様のためでしょう?素直じゃないのはダメよ」

口の前に手を当ててくすくすと控えめに笑ってジャックの言葉を流すマリア。THE 天然+鈍感。あまりにも天使すぎる彼女のこういう発言の前に膝を折った男どもは数知れず。やっぱ可哀想になったから減給はなしにしといてあげます。

「それよりマリア。貴女の作ったものが食べたくてよ?」

「まあ、それよりだなんて悪いお人!」

彼女は笑いながらランチボックスのふたをぱかりと開けてくれました。すると美味しそうな彩りのサンドイッチが目の前に!彼女の侍女にお手拭きをもらい、それに手をつけます。うん、シンプルイズベスト。美味しい。妹が作ったのなら炭でも最上級のフルコースより美味しいですけれど。

「…お口に合ったかしら?」

「ええ、とっても美味しいわ」

「本当!?ミーシャに教えてもらいながら作ったのよ!ね?」

きゃっきゃとはしゃいで報告しながら侍女と顔を合わせる可愛さに鼻血が出そうになりましたがその興奮を無理やり沈め、お上品にサンドイッチを食べます、妹の前ですからね。ちなみに妹の作った料理に毒味はしません。彼女の手を介しているなら死んでも本望ですから。

「世話をかけたわ、ミーシャ。ありがとう」

「もったいなきお言葉です、ビアンカ様にそのようなこと」

ちなみにこの侍女も中々美しい女性でして。妹に昔からついてくれている人で、濡れ烏と称される美しい青の入った黒髪に琥珀の目がよく似合っています。ちなみに私は彼女に着てもらうなら紺地のタイトなドレスでしょうか。絶対似合う。

と。そこへ。

「貴方は何を考えているの!?」

「…あら」

金切り声を上げる女性の声が耳につきました。少しマリアの肩が跳ね、ミーシャが恐る恐るその背にマリアをかばいます。可愛らしい反応ですがゆっくり味わう暇もありません。私はもう一つサンドイッチを手に取り、少々早めにそれを平らげました。

「ご馳走様、マリア。美味しかったわ」

「…姉様?」

「ジャック、ついてきて」

「承知しました」

きょとんとした女性2人ににっこり微笑み、ドレスよりも少々短いスカートの裾を摘んで礼をします。早足で声のする方向へ向かう私に何食わぬ顔でジャックが付いてきました。というのもあの声の主の女性は放っては置けないのです。何故か?そんなの決まっていますよ。彼女はとっても大切な、

「御機嫌よう、アテナ嬢?」

ハーレム要因、つまりは友人候補なのです。

「…アウローラ、嬢?」

アテナ嬢とは見るも美しい銀糸のような髪を一つに束ね、堂々とした立ち振る舞いをする美女のことです。私と同い年、クラスは隣、国軍第一指揮官殿の愛娘にして長子。そして、ツンデレと名高い誇り高き女性のこと。彼女は急に出てきた私の顔に目を見開いています。表情豊かなのも良いことですね。眼福。アーモンド型の綺麗な瞳はアメジストのような紫を理知的な光で輝かせています。そして彼女の前にいるのは、彼女の幼馴染の意味不明男でしたか。彼は飄々とした態度でこちらを見返し、無駄に整った猫のような顔に蔑視を含む上機嫌な表情を宿します。

「あ、ブスな方のアウローラだ」

「ロイ!口を慎みなさい!」

「いいんですのよ、事実ですもの。それよりアテナ嬢。あまり声を荒げてはいけませんわ。周りに誰がいるかわかったものではないのですから」

貴族の令嬢が声を張り上げるのはそれだけで名を下げる行為なんです。貴族令嬢ってこういうのめんどくさ…、まあ多少のしがらみは仕方がありませんね。自分が大人になったらそれを変えれるよう頑張ることにしましょう。まあ誰が聞いているのかわからないというのは事実ですし、褒められた行為ではありません。それに彼女はよく声を荒げすぎるからやれ気が強いだの怖いだの言われています。確かに言動は厳しいですが、私のツンデレフィルターを介せば彼女は相手を心配しているだけにすぎないのに。怒っているのも子猫みたいで可愛らしい…いいえ、これは他の時に語ることにしましょう。

「なに?脅しに来たの?性格も悪いって噂どおりだねブス」

「ロイ、いい加減になさい。申し訳ございませんアウローラ嬢。私の力が及ばないばかり」

「構わないのですよ。言い方が悪かったのは私ですから」

まあお貴族様言葉としては『うるせぇんだよ脳筋女。お前の悪い噂でも流してやろうか』くらいのことをぼかして言ったとも取れますね。それよりここで謝るのは絶対ロイだと思うんですよ。庇えよ。俺のせいで彼女は怒ってたんですくらい言えよクズ。死ね。クズな男は苦しい目にあって死ね。

「そうだよ、身分しかない性悪女に謝る必要なんてない。どーせこいつはあともう少しで用無しで捨てられるんだから」

「ロイ!」

ふむ、権力に屈しないのは良い事。確かに私は容姿も能力も平凡。どこかの貴族に嫁に飛ばされると思っているのでしょう。かの公爵家の血筋には必要のない因子という印象は強いようですね。勿論自分でも納得しているが、私の周り全員がそれを理解できるかと言われるとそうではありません。

ぴくり、と後ろの気配が動いたところで先に動くのは私の手。気持ちのいい音を立てて開くのは母様に頂いた扇子。

秘技、扇子開き。

その扇子を口元に当て、くすりと笑って

みせましょう。

「あらまあ。随分な言い方だこと。貴殿のせいでお優しいアテナ嬢の評価が下がっているというのに」

高圧的な表情で一歩前に出ると、小さな殺気とも言えるだろう気配はそっと消えました。私の考えを読み取ってくれたのでしょう。やはり中々できた従者だという所は疑う所がありません。

「…ブスと話すと気が滅入るね」

しかし目の前の男…ロイ・アスクレーピオスは私の言葉ににっこりと笑って踵を返しました。彼にアテナ嬢の事は堪えるようですね。声を荒げてロイを呼ぶアテナ嬢にも顔を向けることなく足を進め、建物の中へと姿を消していきました。

「…邪魔をして申し訳ありませんでした。アテナ嬢」

ため息をつき肩を落とす彼女にそう告げる。ひとつふたつの暴言くらいは言われるかと思いながら先に謝ると、彼女は存外穏やかな表情でこちらを向きました。

「いいえ。淑女らしくない振る舞いをしていたのは私です。アウローラ様はそんな私を冷静に諭して下さっただけです」

あれ?呼び方変わってない?ランク上がってない?

「それに、あんな無礼な姿を晒した男を庇ってくださいました。…後ろのお付きの方はお強いのでしょう?私軍人の娘ですから、少しそういうことはわかるのですのよ」

まって?

切れ長でツリ目な紫の瞳がふんわりと笑みを作る。え?この子ツンデレって聞いてたんだけど。情報通な我が妹からの確かな情報なんだけど?ツンデレにしてはデレ早すぎない?デレ9割じゃん。えっ可愛すぎか?

「…ビアンカ嬢」

「はっ」

ぼそりと後ろのジャックに名前を呼ばれ意識を取り戻しました。うん、ちょっと可愛すぎるものを見ると息も意識も止まるというもの。冷静に態度を繕い、にっこりと彼女に微笑み返します。

「いいえ、彼は事実を述べただけですわ。お二人の会話を中断したのは私です。私は咎められるべきですもの」

「アウローラ様は意味もなく会話を遮る方ではいらっしゃらないわ。…一度癇癪を起こすと周りが見えなくなるのは私の悪い所です。…たまたま近くで女性を泣かしているのを見つけてしまったんです」

「あら、それは悪い方ね」

どうやら場所を変えてここで怒鳴っていたのではなく、見つけてすぐに怒鳴ったらしい。多分一番の被害者はその女性だろう。恐らくアテナ嬢を見つけて逃げ出したのかもしれない。彼女とアスクレーピオス家の次男坊は婚約話も出ていますから。

「…私、何度となくアウローラ様に助けられてきましたもの」

「え」

「私がみっともなく声を荒げて、人から避けられるのは自業自得です。…ですから、皆が声を潜めて陰口を言っていたことも知っていました。…アウローラ様がそれを窘めて下さっていることも」

まあ陰口はよくないよ程度は言います。一緒に陰口言ってたりしたらマリアに嫌われるかもしれないし、彼女は大事なハーレム要因ですもの。私は女性の容姿で選り好みする気はありませんが、やはり美しい女性が近くにいるだけで幸せですし、別にツンデレ美女が好みだからという理由では…な…い…だろうと思います。

「そんなことを仰ってくれるのはアウローラ様だけでした」

「…当たり前のことを言っただけですわ。それに、私は家名が高い地位にありますもの。どんな令嬢にも強く出れるというだけです」

アテナ嬢の家は侯爵家で地位が低いというわけではないが、軍人を多く出す家系で文官貴族からは馬鹿にされがちであるし、平和主義者にも忌み嫌われている。軍があること戦争は必ずしもイコールではない。自然災害や他国への威圧にしかその役目を使わないように勤めるのは文官の仕事でもあるが、軍の人間自身が平和な時代でも己を磨き、駒にされないようにしっかりと判断力をつけていかなければならばい。アテナ侯爵、つまり第一指揮官殿は判断力をもつ理知的なお方で、お優しくありながら厳しく己を磨く方だと聞いている。馬鹿な貴族も多いこの場では肩身が狭く、そんな貴族を庇ったりすると孤独にさらされる可能性があるのは確かである。ただ、強烈な後ろ盾があれば話は別だが。

「…それでも、嬉しかった」

くしゃりとその顔を笑みに変える彼女は、確かに芯が強い女性ではあります。しかし私には、肩を張ることに疲れてしまった、年相応の少女に見えました。

「…私は、学校が終われば大抵自室におります」

「アウローラ様…?」

「もし、少し休みたくなったら…いらっしゃってください。連絡なんていらない。思ったらすぐ、その足でいらっしゃって」

彼女の高いところで結んでいるポニーテールがゆらりと揺れました。銀色のそれがきらりと日を反射し、眩しさに少し目を細めます。

「…ありがとう、ございます」

穏やかな声につられて目を開けると、彼女は凛とした表情のまま笑っていました。女性でもどくりとしてしまいそうな堂々とした姿に、自然とはっと息を飲んでしまったのでした。



*********


「…アテナ嬢の魅力が多すぎて死ぬかと思った」

昼休みも午後の授業も終え、自室。本来殿方は入ることはありませんが、認められた従者だけは別。テーブルに膝をついて額を組んだ手のひらの上に置いた状態で、呻くように私は声を発しました。

「麗しいお方でしたね」

「バイオレットの瞳はわりと珍しいもの…あんな破壊力があるなんて聞いてない…」

「それでいてたまにみせる儚さ」

「加えて少女のような安堵の笑みも素敵でした」

「つまり?」

「最高…でしたわ」

「良いことです」

私が女性の魅力を目の前にして狼狽えてしまうことはまあよくあること。慣れたように言葉をぽんぽんと投げかけながら、私の考えに理解のあるジャックは私の前にダージリンティーを置きました。私の好物なのです。

「ツンデレと聞いていましたから、デレを見るまでに時間がかかると思っていましたが…まさかもう好感度があんなに高いとは」

「僥倖でしたか?」

「どっちとも。ツンデレのツンがなくてはツンデレの良さを味わえませんから。でも、皆に厳しい彼女が私に穏やかな表情を向けるという優越感は良いものです」

カップを傾けて優雅に茶を飲みます。美味しい。やはりジャックは茶の入れ方が上手ですね。こういうときは連れてきてよかったと心から思います。まあ、そうじゃないときも勿論あるわけです。

「…アスクレーピオスに殺気を向けようとしましたね?」

微かな音を立てて、カップはソーサーの上へと置かれました。ちらりとその顔を伺うと、少し眉を下げた胡散臭い男が眉を下げます。しかしその薄い唇は軽く笑みを作ったまま。

「…申し訳ありません。反射で」

「アテナ嬢は優れた軍人の娘です。彼女が好意的かつ理性的だったからこそ救われた。貴方はアウローラの従者というだけなのですよ」

「…分かっては、いるんです」

いつもの飄々とした様子とは打って変わって、彼は困ったような表情を言葉に滲ませます。

「貴方なら、感情を抑えることもできるでしょう?」

「ええ、ですが…」

珍しく煮え切らない態度に訝しむ私の表情を汲み取って、彼は濁した先の言葉を口にする。

「言われているのが、ビアンカ嬢ですから」

「…はあ」

「マリア嬢でも旦那様でも奥様でもなく、ビアンカ嬢ですから。我慢が利きませんでした」

「…そりゃあ、あの方たちはあんなこと言われることなどないわ。皆目を見張るほど素敵なのだもの」

彼の言っている意味がわからないまま私が言うと、彼は曖昧に笑いました。おそらくこのまま追求しても何もわからないでしょう。ただ、私が注意した以上表立ってああいうことは繰り返さないはずです。今はそれだけで構いませんから。

「ですが、そうね…気になることがあります」

「はい?」

「私の性格が悪い、って噂が流れてるのは事実なのかしら」

気持ちの良い紅茶の香りが、せめてもの救いでした。少し心が荒れている気もしますが、まだ冷静さは取り繕うことができます。

「…ご心配なさらず」

「え?」

「調べたところ、その噂が流れているのは男子生徒のみだったようです。既にマリア嬢やその他のご令嬢が動いてらっしゃいます」

「動いている?」

「男は女性の前では見栄を張るものですから。それが女性の悪口など言えば信頼はどうなるでしょう」

「…もういいわ、言わなくて」

他の令嬢からでも小さい男、と思われるのは紳士にとっては屈辱でしょう。しかし、あの神が可愛さと聡明さを詰め込んだ我が妹、マリアにそのようなことを知られたとしたら…そうして、そのような噂にものすごく否定的だったとしたら。…想像しただけで可哀想ですね。

「…貴方を、『悪役令嬢』にはしない」

「ジャック?」

ぽそりと呟いて聞き取れなかった言葉を再び拾おうとするも、すぐにそれは彼の笑みでかき消されてしまいました。胡散臭い笑顔が、彼の本心からに笑顔です。今はそれはそれは綺麗に笑っているので、何かをごまかしているのでしょう。しかし、知らなくてはいけない場面では、きっと彼は私に伝えてくれるはず。だから、今は。もう少しだけ待つことにしました。

コンコンコン

軽い3回のノックを聞き、ジャックが部屋へと向かいます。彼が数回やり取りをして、部屋の中に誰かを迎え入れました。

「…アウローラ様、私ーーー」

美しい銀糸のような髪がさらりと揺れました。その美しい紫の瞳はやや不安げで、それがまた彼女らしからぬ可愛らしい少女っぽさを演出しています。

解決していないことも、立ち向かわなければならないことも、これから増えてくるでしょう。しかし、構わないのです。可愛い妹と、平凡な私を愛してくれている家族。出来のいい従者が揃っているのですから、大抵なんとかなるでしょう。だからーーーーーー。

「ようこそ、アテナ嬢」

私は私の夢を叶えるために。私の大好きな女性に囲まれる、私の楽園、ハーレムを作ることに向かって、歩めば良いのです。

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