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ぼくのみず

作者: rono


 まるで、水のようだ。


 脳はI/Oエラーを起こす最中、彼女は今日も僕に笑い掛ける。1日を過ごすためのエネルギー量はそうかけ離れてはいないはずなのに。靴を脱ぐことも間々ならず、僕はそのまま玄関に雪崩れこんだ。

 積年のニート生活、脱すも世間の目は哀れみすら与えず。それはそうか、自業自得だね。目の前の彼女も自業自得だね、と笑っていたことを覚えている。


「お疲れちゃん」


 彼女は僕よりも疲れているはず。

 勤続年数三年目の彼女は平社員だという。男社会だからね、と笑う。笑う余裕もなかったザ・ニート僕は働けるだけマシなんだよと言った。頭から味噌汁がかかった。おかわりの味噌汁はなかった。

 労働とは社会の奴隷になることだと思っている。今でも思っている。彼女は社会の歯車になることだと思っている。間違っていると思っている。思想の相違も日々の会話になる、居心地は悪くない。


「お冷をお持ちしました」

「ああ」


 やっとこさ出力された声が、氷が蠢く音に負けたような。今日の労働は普段より厳しいものであった。月に一度の苦行の日なのだ。

 把握している彼女は僕の大好きなキンキンに冷えたお水を用意して待つ。彼女はあまり水が好きではないので、僕はあまり手間をかけることが好きではないので、僕が飲むのは常温から少々冷えているペットボトル直飲み水なのだ。しかし今日は、冷凍庫で凍らされ、溶かされ、さらに氷が詰まったグラスに注がれた御馳走のような水。


「ウマ」

「ヒヒーン、食事は豚です」


 僅かながら回復したヒットポイントで立ち上がり、食卓へ誘う彼女は少し不思議だ。浮き上がらされ、流され、まるで彼女は水のようだ。


「さながら僕は流し素麺」

「豚だって言ってるだろ」

「ジンジャーポーク」

「豚の生姜焼き」


 ああ、ゆらゆらと漂う。気持いいこと。

 お味噌汁を温める間に飲み干した水は明日への活力剤へと成り得るのだ。



理想に近い。


20160917

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