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待ってくれっ!これは何かの陰謀だっ!

作者: ゴロタ

乗りで書いたので……暇潰しにどうぞ。

「どっ…どうしようっ?どうすればいいんだ?何で…何でこんな事になったんだぁぁぁぁぁ~!!」


 訳が分からい。ここはどこ?俺はどうした?

 それに、あらゆる所が痛い。

 そんな俺は頭を抱えて見知らぬベッドに突っ伏したのであった。



 ***



 俺の名前は春海セッカ…。名門私立皇鵝ノ宮学院大学の1年、理数科だ。


 俺の家は良家の子息が通う、皇鵝ノ宮学院に通えるほどの、学費は払うことが出来ない普通の中流家庭だ。


 しかしこの皇鵝ノ宮学院は、成績が優秀な者は特待生として、学院で掛かる費用全てが免除という、夢のような制度があった。


 その免除内容は多岐に渡り、学費は勿論のこと、年に色々ある行事や、昼食代や、学院で使用する物など諸々の金額も免除される。


 そして何を隠そう、俺こそがこの皇鵝ノ宮学院の、特待生の1人であった。


 この学院は中高大の一貫教育のマンモス学院で、生徒数は男女合わせて約1000人も居る。


 この内の約8割は中学からの持ち上がり組……いわゆるエスカレーターで上がってきた奴等だ。



 俺は大学からこの皇鵝ノ宮学院に入ったので、いまいち金持ちの挨拶の仕方には慣れない。


 リアルで挨拶にごきげんようって、使ってるの初めて聞いたよ。


 そう上品な女性に言われた俺は、ひきつった笑顔で、「ど…どうも」って返しちまったよ。

 上流階級の人間と接することなんか、生まれてこの方1度も無いんでね、しょうがないんですよ。


 しかしこの皇鵝ノ宮学院を、卒業しているというだけで一流企業への就職が可能というのだから、そりゃあ一般庶民はこぞって特待生枠に応募しますよ。


 俺もその1人だったわけで。



 そもそも俺が特待生になれたのも疑問といえば、疑問だ。成績はそれなりに良かったが、物凄く良いかって言われたら、自分でも首を傾げる。


 面接でも普通の事しか言って無かった筈だし…う~ん…どういう基準で選ばれたのか、サッパリ分からない。くじ引きとかか?

 ……………いや、流石に名門の皇鵝ノ宮学院でくじ引きは無いか。


 まぁとにかく、俺はラッキーだったって事だよな?


 そんな俺の目下の悩みが、仲の良い友人が出来ない事だ。

 最初は皆優しく声を掛けてくれるんだが、俺が名前を言うと、男も女も慌てた様にカタカタ震えて、そそくさと俺の前から立ち去って行くのだ。


 俺……何かしたか?


 それとも俺の名前は上流階級の奴等の間では、禁句にでもなってんのか?特質するべき所なんか、何も無いんだけどな?


 はるみ……せっか……別に普通だろ?



 だが友人が出来ない以外は、特に文句は無い。


 申請して許可が降りれば、大概の物は無料で手に入るし、飯は美味いし、女の子も美人が多いし。


 妹のシギなんか、顔を合わせる度に俺に「目指せ逆玉っ!!」って、言って来る始末だ。


 まあ…逆玉……出来れば良いけど、実際は誰とも事務的な会話以外はしてないから、どだい無理な話なんだけどな。


 シギよ…諦めれ。お前の兄は大学生になってボッチデビューだ。


 それとも……名前を偽って友達を作り、仲良くなってから、ジャジャーン♪実は俺が噂の禁忌の名を持つ、春海セッカでした~!とかやる?


 うん。無理。

 それで白い目でみられたり、あまつさえそそくさ去っていかれたりしたら、俺は立ち直れない。


 ちくしょう…。この無念は幼馴染みのサトルに愚痴を聞いてもらい解消してやるっ!





 ****




 現在俺は一人暮らしをしているため、サトルに話を聞いてもらいに、実家に帰って来た。


 実家は大学から電車で1時間程の場所にある。


 それぐらいなら家から通えよと、言われそうだが俺は若干寝穢い……。

 大学に行くためだけに、1時間も睡眠時間を削れるかってんだよ。


 だから親に頼み込んで、一人暮らしをさせてもらっているのだ。

 ふふんっ!だが俺は自炊をちゃんとやってるぜ?まぁ時短料理だが、そこそこ美味いし、お昼は豪華な料理が無料で食べれるので、一人暮らしが苦にはなってない。


 ただ……そう、いつも1人のボッチ飯だってのが、結構ストレスだ。


 実家に居る時は家族揃っての夕飯が当たり前だったから、尚更だ。


 久し振りに家族でご飯が食べれると、喜び勇んだ俺の気持ちが台無しになる瞬間は、直ぐであった。



 家に着くと、玄関に鍵がされていた。


 それ事態は特に変な事では無かったので、持っている鍵で扉を開けた。


 しかし、家には誰の気配も無い。そろそろ夕方の5時過ぎだ。普段なら母親が、夕食の準備をしている時間だが……。

 キョロキョロと辺りを見回すと、居間のテーブルの上に紙が置いてあった。その紙には、


【セッカへ。ママとパパは、鳳寒三のディナーショーに行ってきます。因みにシギちゃんはお友達と一緒にお出掛けしてます。皆帰るのが遅くなるので、先に寝ても大丈夫だからね。それとセッカのご飯は用意してあるので、レンジでチン☆して食べてね!】


 と、書いてあった。



 おいぃぃぃ~!!何だそれっ!俺は皆と一緒に飯が食いたいから帰って来たのに、誰も居ないって何だよっ!!

 しかも今時なんで置き手紙?メールかライソしてくれれば良いのに……ちくしょう……。

 俺が今日家に帰ってくるって連絡しておいたのに……うぐぐうぐぐぐ……。


「あっ!サトルならばっ!サトルならば居るんじゃ無いのか?」


 俺はダッシュで、家の裏にあるサトルの自宅まで向かい、インターホンを連打する。


 ピポピポピポポ~ン…ピポピポピッポ~ン………………。


 連打後に数分待ったが、応答が無い。サトルまでもが留守なのか?


 俺の全身を絶望が包み込む。


 誰も居ない…俺と一緒に飯を食う人間は…誰も……。


 うわぁぁぁぁぁ~!!!



 ちくしょう~ちくしょう~ぢぐじょう~うえ~ん。



 俺は大泣きしながら近くのコンビニで、大量に酒を購入すると、昔良く遊んでいた公園のベンチに座りながら、買ってきた大量の酒をグビグビと飲み始めた。



 数十分後………。



 俺は初めて飲んだ酒だったため、自分の許容範囲が全く分かっておらず、ものの数十分で、ベロベロに酔っぱらってしまっていた。


 何だか楽しくなってきた~♪


 目に写る全てのものがグラグラと揺れてるし~!

 意味も無く笑いが込み上げてくるし~?


「あっはっはっはっ……あっはっはっはっ~!!」


 愉快愉快…。もうボッチでも何でも掛かって来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!


 その時、酒に酔って気が大きくなり、ハイになってしまった俺に天罰が下ったのです。


 ドンッ………。


「いってぇな、コラッ!」


 ひゃあ……。俺はがらの悪い兄ちゃんに、ぶつかってしまったのです。


 片腕でシャツの胸元を捻りながら絞められてしまい、弁解出来ない。てか、寧ろ苦しい。


「あぐっ………ひ……あ……ああ……」


「こんのガキ……。謝りもしねぇのか?アアン?」


 いえいえいえ、滅相もない。貴方が掴んでいる、俺の胸元の手を放して頂ければ、直ちに土下座をさせてご覧に入れますからっ!!


 土下座の歴史上、類を見ない程の美しく完璧なDOGEZAが出来る気がしますからっ!ねっ?放してっ!


「俺がこれ程言ってんのに……無視かぁっ!良い度胸だっ!歯ぁ食いしばれっ!!」


 えっ?なになになに?なっ…なんっ…………。


 バキッ………。


 あぐっ!


 殴られた…。


 すげぇ……。


 痛いな……。


 ガクッ……。



 ――――――――――………暗転。




 ***




 そして現在に至るという訳です。



 ――――――…………うん。がらの悪い兄ちゃんに、殴られた後の記憶がサッパリだ。


 いろんな箇所が痛いんだが、その内のひとつ、頬が痛い以外の痛みの理由は不明だし、そもそもここは何処なんだ?


 鈍く痛む身体をベッドからゆっくりと起こし、辺りを見回すが、全く見覚えは無い。


 俺の現在の回らない頭で分かるのは、超絶に高級そうな部屋に居るって事だけだった。



 そして…もうひとつ早急にお伝えせねばならない事がある。

 それは俺が素っ裸であると言う事だ。そう、生まれたままの姿……真っ裸とも言う。




 一体何があったんだぁ~!!全く覚えて無い~!ここは何処なんだよぉ~!!


 こんな意味不明な事態になるのならば、もう絶対に酒は…酒は飲まないから、家に帰してくれ~!


 ハッ……家で思い出した……。あれっ?俺、家の玄関の鍵……閉めたっけ?

 えっ…えっとぉ……家に誰も居なくて…それで…サトルの家にインターホン連打しに行って……………うん……玄関の鍵、閉めるの忘れちった。


 怒り狂う母の顔を想像して、ブルリと震えが走る。今度は家に帰りたく無くなってきてしまった。



 俺が暗澹たる思いで、ベッド突っ伏していると、背後でドアの開く音がした。


 ガチャリ………。


「あれ?セッカ……目が覚めたのかい?」


 ホワイ!?聞いた事の無い男の声だ。

 えっ?ちょっと待てよ?じゃあ……やっぱ俺……男と……?


 ……………いやいやいや!!


 俺ノンケだからっ!過去に彼女も居たし、その彼女とやることもやってるからっ!!


 誰ともなしに言い訳をしつつ、ベッドの中で青ざめながらガタガタ震える俺に、男は静かに近寄って来て、ベッドの端に座ると、馴れ馴れしく俺の頭を触りながら、話し掛けて来やがった。


「お~い?起きてるんだろう?返事ぐらいしなよ」


 何だ…これ。俺にどうしろってんだよ?平凡な一般人の俺には、この状況はいろんな意味で荷が重い。だが、このままでは拉致があかない。

 ここは素直に相手に状況を確認すべきだろ?


「あの……。貴方はどこですか?それにここは誰ですか?」


「ん?何だいそれ?一体何を言っているんだい?」


 怪訝そうなイケメン顔しやがって!俺が今居る場所と、あんたが誰を聞いただけだぞ?

 コイツ……そんな事も理解できないとは、相当頭が悪いんだな?ご愁傷さまだ。


 俺がナムナム拝んで居ると、イケメンがちょっと怒ったような声で話し掛けてくる。


「おいおい、セッカ?気付いて無いみたいだけど、君は今、僕に対して変な質問をしたからね?」


 へ?そうだっけ?


 ってか、俺はそれよりこの見知らぬイケメンが、俺の名を呼んだことの方が、数倍ビックリしているけどな。


 何度確認しても、コイツは知り合いじゃ………無いな。

 俺の身近にこんなイケメンが居たら死ぬ。そういう病を俺は患って居るのだからな。


「…………今度は何だい?僕の顔をジロジロ見て…」


「何で!……何でだよっ!!」


「はっ…はあっ?」


「何で俺の名前をお前が知ってるんだよっ!」


 イケメンは、えっ?マジか?みたいな表情で、俺を見て来やがる。

 イケメンは特だな……そんな驚いた間抜け顔でも、イケメンなんだから。


「どうやら全然覚えて無いみたいだね?あんな…あんな事を僕にしたのに…………」


「なっ…ななな何を言ってんだ?」


 今度は俺の方がギョッとした顔をしちゃったよ。

 あああ…あんな事って、何だよっ?もっ…もももしかして……あれか?一夜の過ちってやつか?どどど…どうなんだ?


「僕は…あんな事されたの……セッカが初めてだったのに……忘れたって言うのか………酷いな」


 ぎょえぇぇぇぇ……。


 俺……一体コイツに何を仕出かしてしまったんだろうか?

 身体の節々の痛みから、俺がヤられたと勘違いしちゃったけど、今の話を総合すると、どうやら俺がヤっちゃった方であったらしい。


 それならばまだ……男としての矜持は保たれた。俺、ヤられて無い……ふぅ~そこは良かった。


 でも…そうすると…覚えて無いけど、俺がこのイケメンの初めてを奪っちゃったって事だよな?

 ここは素直に相手に謝っておこう。うん。


「………覚えておらず…ほっ本当に申し訳無い!」


 俺は鈍く痛む身体を叱咤し、ベッド上でイケメンに土下座をした。


「えっ……。いや…別に…そんな……土下座までしなくても…」


 ふっ。この俺の完璧な土下座を目の当たりにして、流石のイケメンも動揺を禁じ得ない様だな?


「酒が悪いんですっ!もうこんな事が無い様に、今後は一切、酒を飲みませんので、どうか許して頂きたい!まあ…その…貴方の大事な初めてを奪ってしまって、謝るだけでは許されないのは、重々承知の上ですが…何卒!何卒~!!」


 俺はさっきよりも更に深く頭を下げる。


「いや、そんな大事な初めてでは、決してないし………」


 はあっ?そんな大事にしてなかった?どういう事だ?誰でもいいから、初めてを奪って欲しかったって事か?それってつまり…コイツって淫乱?


「大事じゃないって、何だよ?誰でも良かったって事か?」


 俺が土下座を止めて詰め寄ると、イケメンは何故か焦った表情になった。


「いやいやいや!!流石に誰でも良い訳じゃないよ?……ボソッ……というか、実際セッカのも嫌だったんだけどね……」


 うん?何だ?最後の方が良く聞こえなかったが?


 でもまあ…誰でも良かった訳じゃないのか。

 良かった良かった…………ん?良かった…のか?


「それよりもっ!セッカ……これ、君の着てた服。うちのメイドにクリーニングに出してもらったから。流石に裸のままって分けにはいかないだろう?」


 イケメンから渡されたのは、俺が着ていた服であった。



「洗ってくれたのか~。どうもありがとうなっ!」


 わざわざクリーニングに出してくれた律儀なイケメンに、俺はニコリと笑いながらお礼を言った。


 その瞬間、何故かイケメンの頬が若干赤くなった。

 お礼を言われた位で赤くなるなんて、コイツ案外ピュアなんだな…。


「………っ!それと…これ、セッカのスマホと財布!」


 確かに俺のスマホと財布だ。

 おもむろにスマホの画面を点けると、そこにはあり得ない程大量の着信履歴が。


 母→103件 父→10件 妹→318件 サトル→30件


 合計461件……。この数字……軽くホラーだろ?


 うう……母さんは多分…あれだな?家の鍵を閉め忘れた件だな。多分。


 父さんは純粋に心配して…でも息子だし、そこまで心配はしてないってとこだな。多分。


 シギはただ単にワン切りしまくった結果……みたいな感じだろ?多分。


 サトルには、うちから連絡が行ったな。それで気にして掛けてくれ来てくれたんだろ。多分。


 スマホの画面を見たまま、固まってしまった俺に、イケメンは慰める様に、優しく肩を数回叩いた。



 俺は大丈夫…。ははは…。力なく笑ってやったさ。




 それから俺はノソノソと服を着た後、イケメンと何故か飯を一緒に食い、イケメンに一応のお礼を言って別れた。

 結局どういう経緯で、イケメンの家に居たのかは定かでは無いし、何で俺の名前を知ってたのかってのも不明だが、悪い奴では無かった……と、思う。


 だがそれよりも、俺は家に帰るのが億劫だった。

 このままバックレたら、母は必ずアパートの方にまでやってくるだろう。

 こういう時は実家から電車で1時間しか離れていないのは、マイナスポイントでしか無いな。


 ここは素直に帰るのが吉だな?

 そうだ……シギ…は、駄目だな。サトルに一緒に謝ってもらおう。母はサトルに甘いからな。


 俺は名案を思い付き、まず最初にサトルに電話をしたのであった。








 ※イケメンこと、宝生院マサムネ視点




 僕は世界有数の医療機器メーカーのバイオニック社の社長令息です。


 今年から皇鵝ノ宮学院の大学1年、経営学部に進級しました。


 本当は海外の大学に進学したかったのですが、両親と兄が許してくれなかったので、渋々諦めました。

 いや、まさか泣きながら引き留められるとは、思わなかったものですから……ふぅ…。


 まぁ皇鵝ノ宮学院は、母の弟で僕の叔父のタダヒトさんが理事長を勤めているので、何気に融通が効くから良いんですけどね?


 タダヒトさんは破天荒な性格で、ほぼ理事長の仕事はしないで、世界を飛び回っている。いわゆる名前だけの理事長というやつです。

 しかし毎回特待生枠の生徒を選ぶ時だけは、学院に顔を出すらしい。本当に自由な人です。



 そんな自由人のタダヒトさんから、クラシックの鑑賞チケットがペアで贈られてきた。


 チケットに添えられていたメモには【愛する(笑)婚約者とでも行けば?】と、書かれていた。


 冗談じゃない。確かに僕には建前上、婚約者が居るのだが、僕にもましてや相手の女性にも、全くその気は無く、寧ろ仲は悪い。


 タダヒトさんは知ってるくせに、こんな嫌がらせじみた事をしてくる。


 ―――――……ただ、このクラシックの指揮者は、前々から僕が好きな指揮者だった。

 チケットが手に入らなくて、諦めていた物であったのに、タダヒトさんは簡単に入手していたのには、心底驚かされる思いだ。

 あの人の交遊関係は、一体どうなっているのだろうか?謎です。



 ****



 そんな素晴らしいクラシック音楽に、酔いしれた後、僕は迎えに来てもらった車に乗り込んだ。


 長年家に使えてくれている、運転手の倉崎さんは僕の事をよく知っていて、クラシックを聞いた後の僕が、余韻を大切にすることを知っているため、無駄に話し掛けたりはしてこない。


 僕は余韻に浸りながら、ぼんやり車窓を見詰めていると、車が信号で停まった。


 何の気なしに横の公園に目を向けると、そこには柄の悪い男に殴られている何者かの姿が目に入った。


 その途端に先程まではあんなに気分が良かったのに、その気分を害させた気持ちに陥った。


 普段ならば別にどうともしないのだが、その時はやけに気に障ったのだ。


「倉崎さん……」


「はい?坊っちゃま?如何されたのでしょうか?」


「少し…車を降りるので、待っていてもらえませんか?」


「はい……畏まりました」


 倉崎さんは、怪訝そうな表情をしていたが、それは

 そうだろう。

 いつもならば家に着くまでは一切口を開かない僕が、喋った上に車から降りると言い出したのだ。

 不審に思うのも無理は無い。

 しかし倉崎さんは余計な事は聞かずに、車を路肩に停めてくれた。素晴らしい…出来た人だ。



 僕はスタスタと公園の中に足を進める。


 すると先程目に入った柄の悪い男が、倒れた人物に蹴りを入れてる最中であった。


 俺は静かに近寄ると、蹴りを入れるため足を上げていた男の前に出た。


 その男は驚いた表情をしていたが、急には止まらないらしく、僕の膝に蹴りを入れた。


「あっ?あんだよ、てめぇは?」


 顔を近付けて来た男の呼気からは、物凄くアルコールの臭いがした。


「それ以上は、止めておきなさいっ!」


 僕がそう強く良い放つと、カチンと来たのか今度は僕を殴ろうと、拳を振り上げて来た。


 しかし酔っているせいか、その拳はスピードも無くフラフラしている。

 こんなパンチでは僕はおろか、普通の人でも当たらない。


 軽やかに男の拳を避けると、反対に殴りかかってきた男の手を掴み、捻り上げる。


「あででっ…いでででででっ……。くそっ!放せよっ!うぎゃっ………」


 パキッ………。


 この期に及んでまだ暴れるので、軽く肩を外しました。どうやら激痛に気絶してしまったみたいですね?ふふふ。


 気絶してしまった男を、ベンチに放り投げると、僕は倒れたまま動かない人物を助け起こした。


 うん?想像していたより若いな。それこそ高校生位の少年だろうか。


 その少年からもアルコールの臭いがした。


 こちらも酔っていたのか……。だた、少年であったし、殴られたのか、頬が真っ赤になって口元も切れて血が出ていた。

 普段だったら警察に電話して、後は捨て置いても良かったのですが、何故かこの少年は放っては置けなかった。


 身長の割には細い少年の身体は、楽に抱えられた。


 そのまま少年を横抱きにして倉崎さんが待っている場所まで戻ってくると、流石の倉崎さんも驚きを露にして、どうするのか尋ねて来た。


「ぼっ…坊っちゃま?そちらの方は、一体?」


 う~ん……説明が面倒くさいな。


「拾った」


 簡潔に言ってみた。


「は?」


 聞き返された。


「だから……そこで拾った!」


 公園を顎で差し、告げる。


「……それで…?坊っちゃまが連れてこられる理由が御座いますまい?」


「いいから車のドアを開いてはくれないかい?見て分かるように、現在僕は両手が塞がっている!」


 倉崎さんはまだ何か言いたそうにしていたが、僕が少し強く睨むと、ペコリと頭を下げると、車のドアを開けてくれた。


 少年の頭を僕の太股に乗せて横にしてやると、少年は楽になったのか、僕の太股に頭をスリスリと擦り付けて来た。


 うん。少年であっても男にこう言うのは変だが、その仕草は可愛らしく、つい微笑んでしまった。


 その間に倉崎さんは何も言わず、静かに車を発進させた。


 車に揺られること数分……段々と少年の顔色が悪化していき「うううっ……あううううっ…」と、唸り始めた。


 気分でも悪くなったのかと、心配になって抱き起こした瞬間、ケポケポと間抜けな音を出しながら、少年が吐いた。


「………っ!」


 他人に吐瀉物を吐き掛けられたのは初めてで、驚きすぎて固まってしまった。


 その間も少年はケポケポと、吐き続けていた。

 吐瀉物は僕の履いていたスラックスと、少年自身の着ていた服に掛かってしまっていた。


「坊っちゃまっ!大丈夫で御座いましょうか?窓は開けましたが、臭いは我慢して下さいませっ!もうしばらくすればご自宅に着きますので!」


 倉崎さんが焦りながら叫ぶ声で、硬直が溶けた僕は、少年の顔をシャツで拭ってあげたのであった。




 自宅に戻った僕は、倉崎さんに手伝ってもらいながら少年を風呂に入れる事にした。


 少年は自身が吐いた物の臭いで、朦朧としていた。


 少年の服を脱がせ終わり、倉崎さんには車の中の処理に向かってもらった。

 間違いなく革張りのシートは張り替えでしょうが。

 僕は朦朧としたままの少年を、抱えながらバスルームに入ると、軽くシャワーで身体を綺麗に流して、バスタブに浸かると、ジャグジーのスイッチを起動した。


 バスタブの下から、細かい気泡がシュワシュワ音を立てて出てくる。


 その中にいつも気にいって使用している、ライムの香りのバスキューブを溶かすと、やっと人心地がついたらのであった。


 少年も吐瀉物まみれだったのが、すっきりした柑橘系の香りに変わったのが分かったのか、呼吸も落ち着いてきた。


 そして何やら小さく呟いているので、耳を少年の口元に寄せた。


「一人は嫌だ……嫌なんだ…ううっ…」


 何ですかねぇ……この可愛い生き物は?


「君は誰だい?僕は宝生院マサムネですよ?」


 僕がそう聞くと、うっすらと目蓋を上げた少年は、グスグス泣きながら答えてくれた。


「俺は……セッカ……晴海セッカ…ぐすっ…」


 セッカか……。本当に凄く可愛い。男に可愛いって何か違和感だけど、セッカに使うのは変じゃない。


「そう、セッカって言うんだね。セッカはどうしてあんな所に居たんだい?」


 頭を撫でながら聞いていると、それが気持ち良かったのか、無意識に僕の手に頭を擦り付けて来る。


 うっ!何だろうか?胸がバクバクいっている。


「………う…ん。一人でご飯を食べるの…寂しくて…皆でご飯を食べたかったから……家に帰った…でも家には誰も居なくて……ううっ……」


 そうか……セッカは寂しかったんだな?それにしても、食事を一人で食べられないなんて、そんな所も凄く可愛いな。


「泣かないで。寂しいなら、僕が一緒に食べて上げるから……」


「ぐすっ……。ほんとうか?嘘だったら怒るからな~!」


 嬉しそうにふにゃりと微笑み、甘えるように抱き付いて来るセッカに、僕は無言で頷いた。


 この時の僕の胸の高鳴りは、心臓が壊れたと勘違いしてしまうほど、ドキドキしていたのであった。




 ***


 その後バスルームから出ると、湯中りを起こしたのか、グッタリしたセッカをバスタオルで拭いてあげながら、自分の部屋のベッドに寝かした。


 他人の身体を拭いて上げたのも初めてであったので、勝手が分からず苦戦した。


 服は着せなかった。着せたことなども無いので、着せかたが分からず、早々に諦めた。

 部屋は空調管理が徹底されているから、風邪は引かないだろう、多分。


 それに、あれ以上可愛らしく甘えられたら、僕の理性が持たなかったしね。


 そんな僕はセッカを見て居ると、胸のドキドキが何なのか、気付いてしまって居た。



 そう…………僕はセッカに一目惚れしていたのだ。



 セッカをベッドに寝かせ終わると、僕は急いで部屋の外に出て、さっきまで目の前にあったセッカの裸身を思い浮かべながら……その…スッキリしてしまった訳で…。


 童貞でも無いのに、何この覚えたてっ!みたいな感覚はっ!自分で自分が信じられなかったけれど、これは夢ではない、現実だ。



 凄く気疲れした僕はソファに倒れ込んで、目を閉じたのであった。





 僕は翌日おひるすぎに、セッカの叫び声で目を覚ました。


「どっ…どうしようっ!どうすればいいんだ?何で…何でこんな事になったんだぁぁぁぁぁ~!!」


 どうやら昨日の二日酔いも特に無く、セッカはすこぶる元気な様子だった。


 メイドにクリーニングを頼んでおいたセッカの服を手に持ち、わーわー騒いでいるセッカの元に向かった。


 そこで絶望を味わった。


 セッカは昨日の僕との会話を覚えておらず「お前、誰だよっ?」的な目で見てくる。

 昨日はあんなに僕に甘えて来たのに、今日は手のひらを返した様な警戒の滲む固い態度になっていた。


 思い出してほしくて、つい馴れ馴れしく頭を撫でてしまったが、セッカは一行に昨日の事を思い出してはくれなかった。




 しかし昨日泣きながら、一人でご飯を食べるのが寂しいと言っていたので、一緒にご飯を食べた。

 セッカは終始不思議そうな顔をしていた。不快げな表情では無かった事だけが、せめてもの救いだった。



 セッカはそのまま家に帰るそうで、ションボリと肩を落として出ていった。


 本当は直ぐに追いかけて、連絡先の交換などをすればよかったのだが、僕はセッカが初恋でして……その時はそこまで頭が上手く働かなかったのであった。


 まあ…財布に入っていた免許証で、住所は確認済なので会いには行けるが……それは世にいうストーカー行為ではないだろうか?



 僕の恋路は、今始まったばかりであった。







 破天荒理事長、タダヒト視点




「理事長っ!本日は今年度の、特待生の選出をお願いしていた筈ですわね?」


 私の補佐を勤める、松平女史の眼鏡がギラリと光る。


 毎度思うのだが、松平女史の迫力には恐ろしいものを感じる。


 彼女には相手に有無を言わせない特殊な能力が備わっていた。


「えっ……いや……やってるよ?やってたよ?うん、でも今はちょっとだけ……休憩?みたいな?」


 私は息抜きの間遊んでいた、某猫のモンスター討伐アプリゲームを掲げてみせた。


 松平女史は、大きな溜め息を吐きながら、眼鏡のつるを軽く押し上げ、こう言った。


「理事長が速く選出をして下さらないと、次の仕事の時間に間に合いません。後15分以内にお決めください」


「ええっ?後15分以内にだって?それは……無理だよ。だって後ちょっとでこのボス倒せそうだし」


 松平女史は私の最後の一言が、お気に召さなかったらしく、書類を持つ腕がブルブル震えていた。


 うっ……こっ…恐い。


 この松平女史が補佐に付いてからというもの、私の仕事をトンズラ出来る回数が極端に減ってしまった。


「ストレスで私の頭部の毛根が死滅したら、責任を取ってくれるんだろうな?」と、冗談で言ったら無表情で「お断りします」って言われたのが地味にショックだったのは記憶に新しい。




「うっ…うそうそ冗談っ!冗談だよぉ~。アハハ…すっ…直ぐに選ぶからねぇ…ハハハ……」


「因みに、残り時間は後11分です」


 うぎゃぁぁぁぁぁぁ~!時間数えてたんだぁ!やばっ…やばい!ちゃんと書類を確認してたら、絶対選び終わらないっ!


 私は物凄いスピードで、推薦書類を捲った。


 第一印象で決めました。


 ……そう推薦書類に附属されていた証明写真だ。


 特待生枠は全部で30人だ。急いで30人分をチョイスした…………顔で。


 選んだ書類を松平女史に手渡す。


 松平女史がその書類をチェックする、ペラペラという紙の音がやけに大きく部屋に響いた。


「これで本当に宜しいのですね?」


 何でそんな確認して来るの?だってどの高校だってそれなりの人物を推薦してくる筈だよね?

 僕は真剣な瞳で松平女史の瞳を見詰めると、力強く頷いた。


「うん。問題無いよ!それで面接しちゃってよ!」


「…………分かりました……。では次に…」


「ちょっと待って!休憩するからっ!ボス倒してる途中だったしね~」


 私はスマホを取り出すと、先程やっていたゲームの続きをしようとした…………が、しかし出来なかった。


 松平女史の般若の形相を視界に入れてしまったからだ。


 チビる……マジでこの歳で漏らすところだった。


「時間が………無いと………お伝え………致し………ました……よねぇ?」


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 私の断末魔が理事長室に響き渡ったのであった。








その後のキャラ達を簡単に纏めました。


セッカ→あの後、何もなかった様にノホホーンと大学生活を送るが、そこに現れる自分が初めてを奪ってしまった(と、セッカが勘違いしている)マサムネ。

責任を取ろうとするセッカを、これ幸いとゲットするマサムネ。


マサムネ→初恋のセッカが自らの勘違いで、責任を取ってお付き合いすると、言ってくれて有頂天に。

いつか罰が下るといいね?


サトル→本編では名前しか出てこなかったセッカの幼馴染みであり、実はかなりデカイ大企業の社長の妾腹から生まれた。

小さい頃は自分の生まれは知らなかったが、現在は後継ぎ教育の真っ最中で、留守がち。

小さい頃からセッカが好きで、セッカに悪い虫が付かないように、大学で孤立させていたのも実はサトル。(本当に本編には出さず、済みませんでした)


トンビが油揚げを………状態だが、今後このサトルが巻き返すかもしれない。


タダヒト→松平女史から逃げ回る日々に追われる。

度々漏らしそうになる、不憫な人。まぁ、自業自得何ですけどね?

それにしても、ぶっちゃけこの人が適当に選んだからセッカは、合格した。

運の強さもセッカの強さです。


松平女史→ドS

タダヒトを怒鳴るのは嫌いじゃない。むしろ実は楽しんでる。


シギ→兄が男と出来上がるとは露ほどにも、考えて無かったが、セッカからマサムネを紹介されて驚く。が、マサムネが金持ちのボンボンだと知ると、手のひらを返すように応援し出す、現金な妹。


セッカのパパ&ママ→パパはセッカが男と付き合ってるとの報告に、男泣き。全然認めてない。


ママは下衆い笑顔で大喜び。カメラを渡して、ハメ○りを要求してくる始末。

大歓迎のご様子。


倉崎→マサムネの父に報告すべきか悩んでいる。悩みすぎて最近頭部が薄くなってきた、可哀想な人。





位ですかねぇ。


まあセッカがどっちと最終的にくっつくのかは、お好きにして頂いて結構です。

(どっちともくっつかず、普通に女の子とゴールインしたら面白いんですけどね)

だとすると、女の子とゴールインしたのに、諦めきれない男二人に狙われる事になりそうですが。

マサムネに壁ドンされ、サトルには床ドンされ………「奥さんよりも、俺の方がセッカを愛してる!」とか言って迫ってきそうです。

奥さん形無しやんな?あっはっはっ!



拙い話を読んで頂き、有り難う御座いました。

またどこかで会いましょう。バイバーイ!












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