03 旅立ち
翌日、鬼退治にふさわしい着物に身を包み、桃太郎は外に出た。
「すがすがしい朝ですね。旅立ちにはぴったりです」
「何もこんな急に出発しなくてもいいのに。寂しいねえ」
「のんびりしていると決心がにぶりますから」
ぎりぎりまで引き止めたそうにしているばあさんの手をやんわりと腕からほどくと、桃太郎はにっこりと笑った。
「こんな服、どうしたんです?まさか一晩で仕立てたわけではないでしょう?」
「与作さんとこの孫のをゆずってもらったんだよ。あんたは村の誇りだからね、二つ返事で差し出してくださったよ」
「食べられないまんじゅうをちょいと分け与えてな」
余計なこと言うんじゃありませんよ、とばあさんがじいさんの耳をつねる。
「いててててっ、桃太郎、早いとこ帰ってきてくれ。ばあさんと2人っきりの生活なんて、想像しただけで皺が増えそうだ」
「ええ、なるべく早く帰ってきます」
桃太郎は笑いながらその様子を目に焼き付けた。
「黍団子はいつもより多めにこしらえておいたからね。足りなくなったらいつでも補充しに来ていいんだよ」
「これも持っていけ。わしが一晩かけてつくった」
じいさんは「日本一」と書かれたのぼり旗を桃太郎にわたした。
「なんかこれ、思い切りしなってますね」
「釣り竿でつくった。与作がまた勝負しろとうるさいからな。持って行ってくれると助かる」
「いやですよ、こんなみばの悪いもの。邪魔だしおいてきなさい」
「でもせっかくですから。いざとなったら釣りもできますし」
それでは、と桃太郎はきりっと顔を上げる。
「おじいさん、おばあさん、行ってまいります」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「達者でな」
ふたりは遠くなっていく息子の背中をいつまでも見送っていた。




