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4・神童の始まり

 ごめんなさい。一週間勝手に遅らせて、本当に申し訳ございませんでした。

 お詫びにこの話を含めて三話連続投稿させて頂きます。明日と、明後日の同じ時間に投稿します。今後このような事が無いよう、気をつけます。ごめんなさい。

「ではグレイキン様! 魔力測定をいたしましょう!」


(また唐突だな、おい)


「アウー!」

「おっ、肯定でございますね? それでは少々お待ち下さい、測定器を持ってまいります……戯れに炎の命を駆ける狗よ」

「アー!」


 クーメスがいつも見せてくれる炎の犬が出てきた。これで遊んで暇を潰せって事だな。よぉし、こうなったら俺もう自重しないよ? 俺の可能性を、無限に試すのだ!


 とはいえ、まずは公に実験できなかった諸々が先だ。

 俺の調べによると、火、水、土、風、氷、回復、これら六つの魔法術は問題なく使える。どちらも極少量なら隙を見て生み出せるからな。火は昨日のアレで出していたし、回復も問題なく出来たようだった。氷は水の中に含まれるかもしれんが。


 だったら、次は闇だ。

 闇。これを聞いて真っ先にイメージするのは暗くて冷たくて拒絶的……と言いたいところだろうが、俺はるっくんから聞いて知っている。闇ってのは冷たくも包み込んでくれる物だって。光という存在は常に光源が全方位に光子を放出している。つまり光の源はあらゆる方向に対して拒絶的な性質を持っているって事だ。その反対に、光速で動く光すらも受け入れる事が出来る闇は、とてつもない包容力があるんだ。それはもう、一度掴んだら二度と放さないほどに。


 この闇の性質を強くイメージして、掌に集める。形としては闇の手袋って感じだ。きちんと魔力がそれっぽい形になったので、それを右手に装着するようイメージすると、俺のちっちゃなベイビーハンドは薄っすらと紫がかった闇色に染まる。おおう、これは中々……あれだ、闇騎士の篭手をイメージしたらとっても格好良くなりそう。


 今度からそういうイメージにするとして、俺はクーメスが呼び出した炎の犬を右手で撫でた。普通だったら俺の右手は火傷して包帯を巻き、「くっ! 静まれ、俺の右手!」とか言って遊ぶ事になるのだが、俺の右手は(実際に)全てを包容する闇に包まれているので、炎の熱が手に届く事無く炎の犬に触れるれる。やべぇ、少なくとも炎の魔法術に対しては無敵じゃね? 貫通してきたら意味無いだろうけど。


 ちなみに、実験が失敗したら回復の魔法術を使うつもりだった。


「お待たせいたしま……したっ!?」


 と、何やら六角形の水晶っぽい物を抱えて戻ってきたクーメスがびっクリたまゲタとでも言い出しそうな程の動揺っぷりをみせ、危うく測定器と思われる水晶を落としてしまうところだった。まったく、気をつけろよ?


「なぁっ、なぁッ、なぁっ!? や、や、や、闇の魔法術!?」


(う~む、どうやらマズったらしいな)


「マズったらしいどころじゃありません! そもそも、どうやって使っているのですか!?」


(どうやってって……普通に闇をイメージしただけなんだが。これって排斥対象になるとか?)


「い、いえ……んっふぉん!! はっはっはっ! なるほど! グレイキン様に常識は通用しないという事でございますね! 分かりましたとも! このクーメス、もう滅多な事では驚きま……」


(クーメス! 足元! ムカデ!)


「え? うぎゃ!? び、びっくりさせないでください……」


 ムカデはクーメスが呼び出した炎の犬によって跡形も無く焼き殺された。炎の魔法術って便利だな。炎の結界とか作ってみよう。そして草原で寝るのだ。


「き、気を取り直して……グレイキン様、万が一にもその魔法術は他者に見せてはなりません! 闇の魔法術の才能を持つ者は少なく、その大半が狂人や大量殺人鬼であるため、半ば禁術指定されているのです!」


(マジか)


「マジでございます。過去に闇の魔法術を習得してしまったがために王家から追放された王子もおります」


(う~む、色々と便利そうだと思うんだけど……仕方ない、自重するか)


「そうすべきでございます。ささ! そんな事より魔力を測りましょう!」


(そうだな。出来ない事より出来る事を探した方が建設的だ)


「この計測器は本来なら三歳の子供に行わせる物ですが、グレイキン様ならばなんらかの結果が出ることでしょう!」


 そう言いながら、クーメスは六角柱の水晶を俺の前に差し出した。位置的に手を置けという事だろうか。


「これは触れた魔力によって色を変え、魔力の量によって光を放つという性質を持った水晶でございます! ささ、お手をどうぞ!」


 なるほど。手袋をしている理由はそれか。じゃあ触ってみるか。

 水晶の上部に手を置くと、今まで無色透明だった水晶に色と光が映し出された。面白い事に、それぞれの面によって色と光が違う。俺の場合、それぞれ赤、緑、黄、青が一面で、黒が二面となっている。そしてよく見ると、上部と下部の平行の面とは違う小さな面も光を放っていて、緑と若草と金と紫と橙と淡い青と白だ。

 クーメスは頭を抱えて蹲ってしまった。その拍子に水晶が床に零れ落ちたが、何故か色も光も元に戻らなかった。一度変わると二度と戻らないのか? いや、それよりクーメスの態度だ。


(どうした、クーメス)


「グレイキン様……ああ、なんという事ですか……その水晶の正式な名前は虹水晶と言い、肌から離しても色と光が変らない物は身分証明書の代わりになるのです。しかし、グレイキン様の虹水晶は闇の魔法術の才能がとても大きいと示されております」


 あ、なるほど。黒は闇の属性なのか。それで、面積の広い色が最も才能を持っている、という事か。


(つまり、俺が大量殺人鬼や狂人扱いされるって事だな?)


「その通りでございます……この虹水晶は様々な場面で使われる物なので、もう引き篭もりましょう!」


 極論でちゃったよ……


(う~ん、まあその方が頭良いよな。差別される身になると苦労も多いし、父さんや母さんやクーメスはそんな事で差別なんてしないだろうし)


「勿論でございます! 私も以前は呪い子等と呼ばれ、忌み嫌われてきましたから!」


(そうだったのか。でも、やっぱり俺は引き篭もらんよ)


「な、何故でございますか!?」


(色々と理由はあるが、あえて言わせてもらうのならば……法律がダメと言わなければそれは合法なのだ!)


「以前お会いした事がある密売人と同じセリフでございますね!」


(そうさ、なんてったって……法律は正義だからな。しかし、決め事なんてのは例外が生まれちまったら役に立たんのよ)


「それでも! 差別というのは生まれるのでございます!」


(分かってる。でもよ、父さんや母さんは俺と同じ差別される身のクーメスを雇った……ばかりか命まで助けたんだろ?)


「それはベルネルト様とフリスチーナ様のお心が広いからでございます! 法律上に問題が無く、ベルネルト様とフリスチーナ様に名誉があったから、というのもありますが……」


(だったら、話は早い。クーメスは有名な父さんと母さんに保護されたから半ば認められた。ならば、俺だって同じ条件だ。むしろ実子である分、余計と恩恵は大きいだろう)


「し、しかし! ベルネルト様とフリスチーナ様にも限界という物がございます! お二人のお子だからといって、必ずしも恩恵がある訳では無いのでございますよ!?」


(そんなの分かりきっている事だ。俺が言いたいのは、差別なんかどうでもいいって事なんだよ)


「な、なんですと!?」


(まあ聞け。俺は変人だ。普通の人間とはどこかズレていて、そういう意味では狂人と言っても過言じゃないだろう。だからどっちにしろ人に避けられる道を進むしかないんだ。人付き合いも嫌いだし。でも、人間として、この国の一員として、ヴァルゲン子爵の跡継ぎ(仮)として、この世に生まれたのなら必然的に社会と関わりを持たなくちゃならない。だとしたら、俺は差別されるとしても人間の社会に適応できなきゃダメなんだ)


「……ご立派な考えでございます。しかし……」


(いいから聞けって。俺は差別をするような奴と深く関わるつもりはない。そんな奴の能力などたかが知れているし、一緒にいて気分のいいモンじゃ無い。でも、そんな人たちだってパンを作り、犯罪者を捕まえ、愛を紡いでいる。それは社会の一部であり全てだ。拒絶して良いものじゃない。じゃあどうするかって? 簡単だ、差別される身が差別を気にしなくなればいい。力を持てば自信も生まれ、優しさを限れば人恋しさも薄れる。必要な物なんて身内で用意すれば良いし、絡んでくる馬鹿や理不尽なお上は大義名分を持ってぶっ飛ばせばいい。権力が襲ってくるのならその全てを跳ね返し、庇護なんて与える側になっちまえ)


「それはとてもお難しい事です。全ての除け者がそのように出来るのなら……」


(島国育ちの黒髪黒目を舐めるなよ。それとも、クーメスは凡人が天才に勝てないような事しか経験していないのか?)


「…………いえ、必ずしもそうとは言い切れません」


(だったら簡単だ。俺がクエレブレになればいい)


「クエレブレ……とは、どのような方でいらっしゃるのですか?」


(……前世の世界に伝わる、神話の一種に出てくる英雄だよ)


 神話なんて信用度の高いラノベみたいなもんだし、ラノベとアニメは根本が同じだからそう間違ってもいないだろう。

 ちなみに、ラノベより登場人物が色々と酷いのにラノベより重視されている神話に、俺とるっくんはいまいち納得がいっていない。


(クエレブレ・フォン・ヴォルケンゼルベリオス。建国二千年の統一国家の腐敗から恋人を助ける為に反政府組織と手を組んで救国の為に戦った戦場の貴族で、最初は貴族という事で反政府組織の下部メンバーに嫌われていたが、伝説の銀鎧ノブレスオブリージュを着用して何度も統一国家を攻撃していた為に認められ、最終的には新国家の国王に最も近しい貴族として恋人と幸せに暮らしたんだ)


 戦場の貴族ノブレスオブリージュ。親父が子供の頃に放送していたアクションアニメだ。某宇宙の騎士に名前とデザインが似ているために良き物を分からん馬鹿共がやれパクリだなんだと叩く事の多いアニメだが、俺は大好きだ。特に第四十五話で、女の尊厳を踏みにじるような状態(流石に放送規制が入っていた)にされていた恋人、シャナが汚れた自分にクエレブレは相応しく無いと言って拒絶した時、周囲から敵兵の攻撃を受けていたにも関わらず無言でキスをしたシーンが好きだ。思い出したら体の奥がキュンとしてくるほど好きだ。


 ちなみに、その直後にノブレスオブリージュの不思議能力でシャナは半ば妖精に近い存在へと転生し、生まれ変わった事でようやくクエレブレを受け入れる事が出来た。クエレブレ自身もノブレスオブリージュの影響で長寿になっていたから、その後二人は永遠に幸せに暮らしたのだ。この良さをご都合主義だと言うヤツはきちんと見ていない証拠だ。なんせ、ノブレスオブリージュには遺伝子改造レベルの肉体再生機能が……


「……様! グレイキン様!」


 ……しまった。自重しないオタク精神が久しぶりの暴走を。


(す、すまん。俺はその神話が凄く好きで、ちょっと耽っていた)


「そのお気持ちは分かりますが、話の途中で、というのは感心しませんな!」


 怒られた。まあ、当然だわな。今度から気をつけよう。


(コホン……ともかく、俺がクエレブレのような英雄になれば俺自身はもちろん、俺の主張だって尊重……はされなくても、無視はされなくなるだろ? まあ俺、女だけど!)


 そうお茶ら気て、あるはずのモノが無い下半身に意識を向ける。

 これ、TS(チェンジ・セクシャル)転生というヤツなんだろうけど、まあ、受け入れるしかない。大丈夫大丈夫、こんな事もあろうかとるっくんから女体の注意事項を聞いていたのだから。

 何聞いてんだ、というツッコミは潔く認める。


 意識をクーメスに戻す。


(俺は父さんと母さんの子供だからきっと美人になるだろ。そうするとか弱い俺を襲ってくる屑があらわれるだろ。なら、そういう理不尽すら吹き飛ばす力を得なくちゃならないだろ。だから俺自身は力を付けなくちゃいけないんだよ。例え差別される身でなかろうとな。それに……)


 一旦言葉を切ってクーメスを真っ直ぐ見る。

 …………ちなみに、クーメスって狼顔なのにイケメンで俺の命の恩人だから俺の女の部分が反応すんだよな。いずれ受け入れないといけない事とはいえ、なんか複雑。あれだ、興味本位で乙女ゲープレイした時の感覚と似てる。


(俺以外にも差別されるヤツっているんだろ? だったらテンプレにそいつら集めて、俺は国を作る)


「……!」


 クーメスから制止の言葉が消えた。よほど驚いたのだろう。


(嫌われ者って訳だから当然国民が少なくなるのも分かる。だがよ、俺の前世にはたった500にも満たない人数で国家として認められている国もあるんだ)


 宗教的なアレコレが主な理由だから俺が作ると言っている国家とは違うが、そこらは言わぬが花だろう。


(それに……俺は天才だから、滅茶苦茶困難なくらいの目的が無いとつまらないからさ)


 それはもう、誰にだって自慢できるくらいの天才だよ、俺は。その事実に奢らず、小さい頃から色んな事に手を出し、練習をして技術を磨いてきた。全てはるっくんみたいな失敗者にならないように。


 だから、か。

 将来の夢とか、なりたい職業とか、逆に興味無くなったんだよな。興味を持ちそうな物は見つかるんだけど、調べる度に不可能だって分かったからな。世界征服とか、共通言語創造&普及とか、ジェラシックパークとか。そもそも一人じゃ出来ん。でも俺は誰かとつるむ気は無いし、そもそも根気が続かんだろう。やだよ、よぼよぼの爺さんになってから夢が実現しても。


 しかし、だ。

 この世界ならば、俺は夢を持ち続けることが出来る。しかも魔法術がある。未だ解明されていない分野だってあるだろうし、個人で『皆』を黙らせる武力を持つことができる。やりたいことが見つかって、誰にも止められない力を持つことが。


 なら、やるしかない。

 まずは建国。その後のことは、今考える必要は無い。


「……いやはや、まいりましたな。どのような崇高なお考えをお聞かせ願えるかと思えば、天才だから、ですか……」


(否定はさせんぞ。現に俺は炎の魔法術と治療の魔法術、闇の魔法術を実戦レベルで使えるんだからな。この肉体年齢に似合わず)


 もちろん、この世界でこの程度の力なんて蚊ほどの物ではないだろう。しかし、足りなければ補えばいい。才能でダメなら道具で。道具でダメなら努力で。努力でダメなら才能で。それでもダメなら築いた人徳で。そして全てを幼少期から意識出来るのなら、俺が世界に勝てない道理は無い。


(クーメス。お前が俺じゃなくて父さんと母さんを優先するのは分かっている。だから無理強いはしないし、なんなら無茶を止める為に報告をしても構わない)


 本気の言葉として、クーメスの眼を見つめながら……やべ、トキメキかけたせいで視線を逸らしかけた。コホン、テイク2。


 本気の言葉として、トキメかないように覚悟を定めてクーメスの眼を見つめながら、言う。


(だが、俺はやめんぞ。このまま子爵家ご令嬢グレイキン・ヴァルゲンとして生きれば、俺は前世みたいに失敗をしないだけの人生を歩み続ける事となる。そんな一生、俺には絶対耐えられん)


 前世では時代の力を持っていなかったがために出来ないことが多すぎた。勿論、そんなものは一般人にとって必要の無いものだろう。だが俺は天才だ。しかもある程度の理性があり、無力に縛られてしまう程度の本能しか無かった。そんな俺は、結局全てを成し遂げることなんて出来なかった。


 この世界なら、立場とか言葉とか性別とか、そんなの一切合財に関係の無い武力を背景に全てを成し遂げることが出来る。

 やらない手は、無い。

 ていうか我慢出来そうに無い。


 クーメスと俺は二十秒だか二分だか見つめ合っていた。クーメスが切り崩す隙を見つけようとする矛の視線なら、俺は己の主張で全てを認めさせる盾の視線。

 ……表現が寒い系中二病疾患者のようになってしまったが、どうせ誰が聞いている訳でも無い。


 やがてクーメスは何かを諦めたように目を伏せ、一つ溜め息を吐いた。


「お覚悟は定まっておられるようですね……ならば! このクーメス、全力でお手伝いいたしましょう!」


 あら? ここは相互不干渉を貫くとか言い出すと思ってたんだが……


「あ、その目は訝しんでますね? 何もおかしな事はありませんぞ、何故ならヒツユギンイ様はグレイキン様の恩人も同然なのですから!」


(意味が分からん)


「聡明なヒツユギンイ様にしてはお粗末でございますね! そもそもグレイキン様には闇の魔法術の才能がございました!」


(あ、そういう事か! つまり、俺という理性が出来ている記憶持ちの前世がグレイキンとなったおかげで、グレイキンが辛い思いをする事が無くなったのか!)


「その通りでございます! 魔法術の才能が魔法術の存在しない前世を生きたヒツユギンイ様の影響を受けたとは思えませんし、どのみち闇の魔法術に大きな才能を持つグレイキン様は悲劇の主人公となってしまわれたでしょう」


(だが、グレイキンを救った……いや、庇った俺に恩を抱く理由にはなっても、ヒツユギンイを止める理由にはならないだろ?)


 クーメスは妙に腹立つドヤ顔でハイテンションに叫んだ。


「そんなもの! カッコイイと思ったからに決まっております!」


 …………は?


「まさか、どのような方が思い浮かべるのでしょう! 忌み嫌われ、希少さ故に狙われ、強大すぎるが故に排斥された者達全てを救うなど!」


(……そこまで言った覚えは無いが、考えているのはその通りだ)


「ベルネルト様とフリスチーナ様は他者に偏見を持たないお方ですから、その分見過ごしたくない光景と何度もお会いしてきた事でしょう! そのお二人の娘であるグレイキン様が理想を叶えてくださるのですから、さぞお喜びになるでしょう!!」


(おい、その気持ちは分かるが、父さんと母さんにはあくまでグレイキンとヒツユギンイが別の人格だって言えよ。いくらクーメスの考えに二人が納得を示したとしても、得体の知れないガキが自分の子供に乗り移るっつうのは親として気持ちの良い事じゃないだろうからな)


「お任せ下さいませ! 虹水晶の件もなんとか誤魔化してみせましょう!」


(……まあ、感謝するよ。今の俺にとってはクーメスだけが頼りになるからな)


「身に余る光栄でございます! ああ、私は幸せな呪い子でございます! 我らのような日陰者の歴史に終止符を打つようなお方に仕えることが出来るのですから!」


(おい。お前は父さんと母さんの執事だろ、不誠実は良くないぞ。どうせならクーメスの子供か何かを付けてくれよ。流石に父さんと母さんからクーメスを取るのは気が引ける)


「お、お恥ずかしながら……私は独身でございますので!」


(結婚すれば? クーメスイケメンだし、一応貴族に仕える身なんだから収入も安定してるだろ)


「いえ、その……私は忌み子ですから。誰も私のような者など……」


(お前……ヘタレだな)


「ぐぬっ!? こ、これは手厳しい……」


(そんな事言って、本当は自信が無いだけだろ。大丈夫大丈夫、良い女は懐が広いもんだ。クーメスが誠実さと優しさを見せれば堕ちない女なんていねぇよ)


「そ、そうなのでございますか?」


(クーメスが駄目女好きじゃなければな。自慢じゃないが、前世では恋のキューピット紛いの事をやっていたから、相談くらいなら乗れるぞ)


 人嫌いだから匿名な上に捨てアカ使ったラインでやり取りしてたから誰も正体なんて知らないけどな。

 ちなみに、一度捨てアカの名前が何かのスレッドの話題に上って相談者が増えまくったせいで捌ききれずにアプリごとアンインストールした事がある。どうせ知り合いで登録してたのはるっくんだけだったし問題は無かったが。


「そ、そこまで仰られるのなら……実は気になる女性がおりまして」


 獣人って顔を赤らめる代わりに鼻がピクピク震えるんだな。その様は例えイケメンといえど可愛い物がある。これに惚れない女っておっぱい付いてないんじゃないの? ほら、男の玉無し的な意味で。ありゃ、これも少し意味違うか?

 実にどうでもいい。


(なんだよ、言ってみろよ。どんなカワイコちゃんだよ)


「それが、ですね……ここより六百キュビットほど離れたケナートという町の喫茶店で働いている少……」


(ロリコンは死ねば?)


「ろ、ロリ? 死ね?」


(すまん、言葉を変える……よ、よ、幼女……偏? 愛家、は死ねば?)


 流石に普段使わないような言葉を流暢に喋れるほど異世界の言語に慣れた訳ではない。


「そ、そのような事実は決してございません! そもそも、私はまだ二十八でございます!」


(ロリコンじゃ――待てよ)


 よくよく考えれば、相手が少女だからといって幼女な訳じゃ無くね? 例えば、その子がエルフだとかなら別に少女の姿でも十分恋愛対象になるし。

 どちらにしろ、話を最後まで聞かずに結論を出す奴はゴミだ。ここは素直に謝ろう。


(……話の腰を折って悪かった。続けてくれ)


「いえ、私の言い方が悪かったのです。申し訳ございません」


 深々と頭を下げるクーメス。なんだか悪いことをした気分だ。


 薄っぺらい罪悪感はともかく、クーメスの話を纏めるとこうだ。

 父さんと母さんの噂を聞きつけてケナートまでやってきたクーメスは、しかし。呪い子だという事が早々にバレ、不当な扱いを受けている内に人気の無い区画へと追いやられ、途方に暮れていたところを件の少女、ナジェに拾われて色々とお世話になった事が原因で惚れるも、もともとの目的である父さんと母さんへ仕える為に別れて来たのだとか。


 ちなみに、クーメスが惚れたナジェはクーメスと同じ狼の獣人で、獣人にとってティーンとアラサーは恋愛的な意味ではさほど離れた歳でも無いのだとか。やはりロリコン扱いは俺の早まりだったか。いや、クーメスが騙っている可能性……は無さそうだな。どう見ても嘘付いてる感じがしない。尻尾とかたまにピクピク震えてるし。


 さらに言うと、執事教育はナジェから受けたそうだ。その間僅か三ヶ月。それにはさすがの俺もビックリだ。言葉遣い以外完璧だからな。執事の仕事じゃない奴もあったが。


(なるほど。事情は分かった……とりあえず告って玉砕して来い)


「砕けるのが前提でございますか!?」


(だってクーメスの話、クーメス視点ばかりであんま参考にならなかったんだよ。まあ、話を聞く限り不義理を働いた訳じゃ無さそうだし、クーメスが呪い子だって知っても拒絶しなかったんだから脈はあるんじゃないか? 獣人って良くも悪くも単純なら、告るのも単純である方が気持ちも伝わるだろ。拾われて、お世話になっている内に惚れてしまいました。お願いです、私と付き合ってください! くらい言えば、コロッと落ちるかもよ?)


「うぐっ……威勢の良い事を言った手前でなんなのですが、気恥ずかしいものでございますね!」


(あるいは、好きだ! 私と結婚してくれ! って超シンプルに纏めるのも良い。その時に宝石の付いた指輪か綺麗な花でも贈ってやれ。喜ぶぞ)


「な、なるほど……確かに、彼女はどちからと言えば小食な方でしたから、食べ物を贈って喜んでもらえるとは思えません……しかし」



 その後、半日ほど説得して分かった。

 クーメスって、意外に意気地が無かった。

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