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勇者になんて……

作者: 長井瑞希

久しぶりに長い(と言っても他の人と比べるとだいぶ短いようですが)文章ですね


「……なんで勇者なんかになっちゃったかなぁ〜」

 そう呟くのは、一人の若い女だ。

 全身こそ覆われていないものの、要所要所は金属のプレートで守られており、しかし動きを制限するものではない。

 腰には平均よりやや長い、しかし女性が持つには大きすぎる剣があった。

「……私だって普通に恋とかしたかったのになぁ……」

 別に、特別な家系というわけでもない。

 普通の女の子だったのだ。

 だが自分の村が魔物に襲われ、剣を手に取ってから彼女の人生は変わったのだ。

 そう、この世界には魔物がいる。

 心の中だとか、そういうことではなく現実にいる。

 人間とは比べ物にならない力を持つ個体も存在し、人類は滅亡の危機に瀕していた。

 そんな時に、勇者の登場である。

 人々は彼女を祭り上げ、大切にし、だが死地へと追いやった。

 そして、彼女は1人で旅を続けている。

 魔物の王、魔王を倒すための旅を。

「あれ? 魔王城って、もしかしてこれ?」

 いきなり城が空から降ってきた。

 看板には大きく『魔王城』と書いてある。

 あからさまな罠のようにも思えるが、そこは勇者。

 なんのためらいもなく一歩を踏み出し、扉を開ける。

「たのもー!」

 しかしその声は城内に響くだけで変化はない。

 しっかり細部まで観察してみると、そこにはまた看板があった。

『魔王はこちら』

 どう考えても舐めてるとしか言いようがないその内容に、しかし勇者は素直に従う。

 流石は勇者といったところだ。

 やがて看板もなくなり、大きな扉の前に出た。

「ここに魔王が……」

 看板に書いてあったことが本当ならば、この奥に魔王がいるはずだ。

「……よしっ!」

 軽く気合を入れてから、勇者はその大きな扉を開け放った。

「よく来たな勇者よ! 我の仲間になると言うのならこの世界の半分を貴様にくれてやろう!」

 定番のセリフだ。だから勇者も返す。

「断る! 私は人類の代表としてここに来たのだ! そのような言葉に惑わされる勇者ではないわ!」

「うむ。まあ実際は我がそなたを迎えに行ったわけなのだが、些細なことよな」

「それは……うん、まあそうだ」

 気の引き締まらない最終決戦だ。

 人類の存続を賭けた戦いになるというのに、どうも緊張感が足りない。

「我は魔王である。故に魔族の味方であり人の敵である。そしてそなたは勇者である」

「何を今更言っている!」

 そう、これは当たり前の事だ。

「運命が我を魔王にし、またそなたを勇者にした。その運命を決めたのは誰だ?」

「それは……神かな」

「そう。神が、我らに人としての、また魔族としての幸せを奪ったのだ」

「……」

 勇者はただ聞く事しかできなくなっていた。

 それは彼女に知識がないからというわけではない。

 魔王が悲しそうな顔をしていたからだ。

「……いや、勇者に言っても意味のない話か」

「いや、意味くらいはあるんじゃないか?」

「……優しいな、勇者は」

「ばっ、やめろよ!」

「……でもやっぱり意味なんてないんだよ。これから戦うわけだしな」

「……そうだな」

 両者がこれから起こる事を想像して身構える。

 これから、最終決戦が始まる。

 だというのに、魔王からは魔力が欠片も感じられない。

「どうした? もしかして魔王はすっごい弱いのか?」

「ん? いやいや違うよ勇者」

 やはり悲しそうな顔で魔王は言う。

「我は既にやるべきことはやった」

「……!?」

 その直後、床が、壁が、天井が、そして勇者が光り輝いた。

「な、何だこれは!」

「魔法だよ。我の、我にしか使えない、な」

「効果は!?」

「我の全てを託すものだ」

「私を次の魔王にしようというのか!!」

「いやいや、それはないぞ?」

「ど、どういうことだ!」

「魔王軍は、本日をもって本国に強制帰還させたからな」

「な、なぜ!?」

「それは君の知らなくていいことだ」

 これ以上語ることはないという意思表示だろうか。魔王は言いたいことだけいうと後ろを向いて勇者に顔を見せない。

「なにがどうしてこうなっているんだ?!」

 理由はわからない。だが尋常ではない量の知識が、魔力が勇者に流れていく。

 と同時に、魔王城の崩壊も始まった。

 知識のある勇者にはすぐに理解することができた。

「魔王がいなくなるから城もなくなるということか!」

 だが、理由はやはりわからないままだ。

「答えろ魔王! どうしてこんなことを!」

 別に戦いたかったわけではない。ただ、納得できないだけだ。

「……」

 それでも魔王は口を閉ざす。

 勇者が問いかけているというのに、だ。

 今の勇者には、力尽くで聞き出すことだってできる。だが、しない。

 それは死ぬ運命が待っている魔王には効き目がないから、というわけではない。

 なぜだか殺したくないと思ったからだ。

「……あ、一つだけ伝え忘れてたことがある」

 不意に魔王が口を開き、言う。

「……勇者の記憶、消えるから」

「……え」

 瞬間、あたり一面が真っ白になった。

 残ったのは記憶をなくした勇者と、魔王城だった瓦礫。それだけだ。

 魔王はどこにもいない。

 もう、この世界には。


 それからしばらくがたったある日のことだ。

 家庭を持った勇者が家事をこなしていた時に、それは起こった。

 記憶が戻ったのである。

 だが家庭を持った勇者にはどうすることもできない。

 今は、まだ。

ね、寝るまでが今日だしっ

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