奇跡の光(後編)
訓練2日目
火恋の省略魔法式は昨日に比べて少しはましになっていた。スピードの方はまだまだだが、威力と効果範囲は普通の発動方法とさほど大差ないぐらいにまでレベルアップしていた。だが…
「う~ん、やっぱりスピードがまだ遅いな……」
「う……、ごめんなさい…」
「いや、謝らなくてもいい。第一に5日でこれをマスターして煉獄を修得するなんて普通じゃ絶対に不可能なことをやってるんだ」
実際その通りだ、俺もこれの発明に1年半かかったとはいえ、開発段階は1年ほどで終わり、修得に半年近くかかっている。作り出した本人ですら半年かかったのを、ざっと1/30の時間で済ませようと言うことが無理な話なのだ。そうだな、少し裏技になるが『あれ』を使ってみるか。
「おい、火恋」
「う?なに?」
「ちょっとこれを使ってみろ」
そういって俺が出したのは、魔石だ。
「ん?なんで魔石?」
「単独発動が無理なら魔石を媒介に魔法を発動させたら少しは発動速度がはやくなるかもしれない。まあ、魔石も消耗品だから連発はできないけどな」
「わかった、やってみる」
そういって魔石を受け取り、すぐさま魔法の発動を開始した。
指先に魔力を集中し、魔方陣を描く、ここまでの手順は完璧と言ってもいいぐらいだ。問題はそのスピードだが、これも魔石を媒介にしたことにより解消された。威力の方も問題なし。魔法式が完成し火恋の描いた魔方陣から紅蓮の炎が顕現した。前方の木々をなぎ倒し一瞬で灰燼へと変えた。
「ほ~、威力は格段に上がったな。魔法式の構築もさっきとは比べ物にならないぐらい早くなっている。よし、これなら問題ないな」
「ということは……」
「ああ、これから煉獄の練習を始める」
正直、魔石一つでここまで変わるとは思ってなかった。威力は通常の2倍近く出ていたし、発動速度もプロの魔法使いかそれ以上のスピードだった。
「ていうかさ?どうやって煉獄の練習するの?私は知らないし、陽翔の属性は風だよね?」
「それなら問題ない、とある伝からこんなものをもらっている」
そういって、俺は仮想空間から一冊の本を取り出した。
「これって……。魔導書!?」
「そうだ、歴史上で国王陛下から著書を認められた優秀な魔法使いのみが書くことのできる、後世に自分の魔法を伝える書物、各属性世界に1冊~2冊程しかない。そしてこれは、火属性のそのうちの1冊だ」
「な、なんでこんなもの持ってるの……?下手したら国宝級の代物よ!?」
「だから言っただろ、伝だって」
「伝って……。陽翔って本当に何者?」
「そんなのは今は置いといて」
追求されると面倒なので徐に魔導書を開き煉獄の項目を見せた。
「ここに煉獄詳しいことが書いてある。時間が来たから今日はここまでにするが、帰って暇なときにでも読んでおけ。明日の朝にも読む時間ぐらいなら作ってやるから無理はするなよ?」
「わ、わかった…」
「あと、お前がいった通りこれは国宝級の代物だから絶対に自室以外では出すなよ?見つかったら奪われる場合もあるからな」
「同室のルームメイトがいるんだけど…」
「誰だ?」
「恵だよ」
恵か…。正直あいつは謎が多いからな……あまり不用心にするのは得策じゃないんだが…。
「わかった、恵の方には俺から説明しとくからお前は気にするな」
「わかった、お願いするね」
「よし、キリも良いし実技訓練棟に行くか」
「うん」
こうして、2日目の魔法訓練は終わった
・・・・・・
実技訓練棟にて
今日のメニューは、昨日と同様素振りを1000本×5セットやってから、居合いの稽古だ。
「どうして居合いなの?」
「理由は、まずお前の剣にはまだ剣速が足りないからな、抜刀から納刀までの一連の動作を速くするのをかねと行う」
「そんなに遅いの?私の剣速……」
「一般の剣術からすればさほど遅くない、むしろ速いかもしれないが、魔法込みの戦闘となると自己加速魔法とかもあるからな、用心に越したことはない。よし、説明している時間もないからさっそく始めるぞ」
「はい!」
・・・・・・
「恵、少しいいか?」
俺は今、恵の所属しているチームを訪れていた。
「あれどうしたの?さっきまで火恋ちゃんと一緒にいたのに、私に何か用?」
「ああ、ここじゃ話しづらいから少し歩かないか?」
「別にいいよ」
ともめるかと思ったが案外すんなりと了承してくれた。そして、二人で歩いていると。やはりとしか言えないが突っかかってくるやつがいた。
「ちょっと恵!そんなやつの相手してないで速く練習始めようよ!」
「おい土屋!そんな落ちこぼれと一緒にいるとバカが移るぞ!」
「おいおい!さすがに感染症扱いは酷いだろ!せいぜい、伝染病ぐらいだろwww」
「それ、どこが違うんだよwww」
「さあなwww」
「ちょっと皆!そんな言い方ないよ!」
「あれ?土屋はそいつの肩を持つの?」
「お前をこのチームに入れてやったの誰だと思ってんの?」
「それは……」
「別にいいんだぜ?お前がそいつに付いていきたいなら。まあ、帰ってきたときにお前の居場所があると思わない方がいいけどな?」
ふむ、恵のチームもなかなか複雑なようだな……。ここは無理につれていって内輪揉めを起こすのは得策じゃないな。一旦退くとしよう 。
俺は、恵の耳元でボソッといった。
「恵…、練習が終わったら…職員用の宿舎に来い……いいな?すぐに来いよ?」
「え……?うん…わかった」
そういって俺は、恵の背中を押してまだ蔑視の視線を送ってくるやつらの方に行くよう促した。
面倒事を避けるため俺はそそくさとその場を離れた。
・・・・・・
その後、午後の訓練も恙無く終わり俺は今職員用宿舎の玄関前に立っていた。するとそこに…。
「ごめん遅くなって」
待ち合わせをしていた恵がやって来た。
「いや、気にするな。さほど待ってないからな。じゃあさっそく本題にはいるとしよう」
「うん」
「斯く斯く然然」
説明は長くなるので以下省略。
「と、言うわけで。面倒事を避けるために他言無用としてほしい」
「……………………………………」
等の恵はといえばうつ向いたまま黙りこんでいた。
「おい…?どうした?」
「えっ!?いや!なんでもないよ」
「そうか……?」
なんかありそうだな……。
まあ、あの皆伝書にはもしもの時のための物はつけてるから安心なんだが…。
「でもビックリだな…。火恋ちゃんが魔導書をねぇ……」
「その辺はあまり口にできないから、聞かないでくれると助かるんだが……」
「大丈夫、聞かないよ。誰にでも言えないことの1つや2つあるよね」
ん?少し含みのある言い方だったような…?気のせいか……。
「まあ、用件はこんだけだ。帰ってもらっていいぞ」
「そう?じゃあ、またね」
「ああ」
軽く別れの挨拶をして、恵は生徒用女子寮に俺は後ろの職員用宿舎へと入っていった。
・・・・・・
訓練3日目
今日からさっそく煉獄の練習を始める。
「1度普通の方法で煉獄を発動させれみろ」
「普通にって、詠唱アリの状態で?」
「そうだ、時間はいくらかけても良いから確実にそして正確に発動させろ」
「わかったわ」
火恋は目を閉じ精神を統一し、魔力を練り始めた。
そして、魔導書の煉獄のページを開きゆっくり、噛み締めるように唱えた。
【燃え上がれ慈悲の炎よ……】
【全能の父よ罪深きものを赦したまへ……】
【燃えろ燃えろ燃えろ……】
【今、審判の時来たれり!】
詠唱を終えた瞬間、火恋の目の前に紅い炎が燃え上がった…。
「で、できた!」
等の火恋はと言うと、高等魔法を発動できたことに興奮ぎみだった。
(あれ……?紅い炎?)
魔導書を一度目を通してみたが。
(たしか……。炎の色は……蒼だったような……)
「ねえ!陽翔!できたよ!」
「え、うん……。そうだね……、できたね……」
まてよ……まさか。
(火恋の魔法センスじゃあ煉獄が正常に発動しないんじゃ……)
センスが無いとは思ってたがまさかここまで酷いとは思ってなかった…。確かに、誰にでも使える魔法じゃ無いが潜在能力は高いはずなんだが……。
「まさか一発目で成功するとは思ってなかったよっ!ねえ!次はなにをすればいいの!」
火恋は興奮が収まらないようで、速く次に進みたがっている。
「あ、あのな……火恋」
「ん?なに?」
(くそ!そんなキラキラした目をこっちに向けるんじゃねぇ!)
あまり正直に言って、落ち込ませるのも良くない…。だからと言って、そのままにするのも…。
俺はもう一度火恋の顔を見た。すると、火恋の顔色は先程と急変し、まるでなにかを恐れるかのように青ざめていた。
「ん…?火恋?どうした?」
「ひ…陽翔……。あれ…」
ビクビクと怯えながら火恋が指差したさきには。10匹以上の犬がいた。
(犬?まて、何かへんだ…)
犬は敵意を丸出しに唸り、ダラダラと止めなく唾液を流していた。その目は赤黒く、不吉に輝いていた。
(あれは……!?魔物か!)
といろいろと整理がつかずにやっとの事で正解に至ったが時すでに遅く、俺と火恋は犬たちに囲まれていた。
「くそ……!囲まれたか…」
「ど……どうしよう」
火恋は腰が抜けたようで、その場にへたり込んでしまった。
「火恋…。たって逃げれるか?」
「む、無理、足が震えて…力が入らない」
恐らく火恋は魔物と遭遇したことが無いのだろう。
(くそっ!どうする、俺だけ逃げることもできる、だがそれは、必然的に火恋を置いていかなくてはならない。『今』の俺の風の力じゃ、間違いなくこの数は捌ききれない………となると)
必死に打開策を考えるが、刻一刻と魔物達との距離は狭まっている。
(考えている暇はないか……)
俺は覚悟を決め、胸ポケットの中にいつも持ち歩いている。指輪を1つ取り出し右手中指にはめた。
「火恋……おれ!火恋!」
「あ……、え!な、なに?」
「お前はそこでじっとしていろよ?いいな、絶対に動くなよ?あと、今から見ることは誰にも言うんじゃねえぞ」
「わ、わかった……、でもこの数の魔物を一度に相手にする気?無茶だよ!下手したら怪我じゃすまないよ!?」
そんな火恋が必死の形相で訴えるなか、魔物は非情にもとうとう戦闘距離まで間合いを詰めていた。
「!?」
俺は魔物に背を向けていたから一瞬反応が遅れた。火恋はその瞳を恐怖に色を変えた。
(しかたない!やるか……!)
俺は指輪に意識を集中し力強く、声高らかに叫んだ。
「解放!!!」
次の瞬間、俺のなかで何かが弾けた。
・・・・・・
~火恋の視点~
何が起きたかはよくわからなかった。
いや、わからないと言うよりか理解できなかった。
陽翔が指輪を見つめ何かを叫んだ瞬間、太陽やフラッシュグレネードよりも強く、そして眩しい光が私の目を焼いていた。
あまりの眩しさに、目を瞑ってしまった。火に焼かれているような熱さを感じた。
眼を焼くかのように明るい光は、一瞬全体に拡散したのち、陽翔の回りに集まり、まるで祝福するかのように、天へと高く渦巻きながら昇っていった。
すると、黒かった陽翔の髪と目は。
その光を宿したかのように、美しい金髪金眼になっていた。
「火恋……すぐ終わらせてくるからな」
(え……。この感じ…、どこかで……)
魔物へと振り返る陽翔の横顔と後ろ姿は私の脳内を電流のごとく駆け巡りなにかを訴えかけてきた。
(なんだろう……この感じ。すごく懐かしくて……優しい温もりが…)
そんなことを考えていると、気づいたら陽翔が私の目の前から消えていた。
「え!?」
速かった、ただただ速かった。
それは、陽翔が教えてくれた飛脚よりも、音速で飛来する銃弾なんかよりも圧倒的に速かった。
それはまさに光速。
陽翔の速度は、人間が知覚できる速度を遥かに凌駕していた。
消えた陽翔は、すでに3匹の魔物を蹴散らし。さらに止まるところを知らず、5匹の魔物をまとめて光の槍で撃ち抜いた。
それは、戦闘ではなく圧倒的な力による虐殺。
一方的な殺戮だった。
戦闘時間はおそらく10秒とかかっていない。その魔物を蹴散らし、蹂躙する光景はお伽噺にでてくる、魔法使いが幼少の頃、一度は夢を見た。
(伝説の……光属性の魔法……)
過去、現代において一人としてその身に宿したものはいなかった、光の属性。
確証はないが、陽翔が魔物をまとめて串刺しにしたあの光の槍を見れば、火を見るより明らかだった。
私はこの時はまだ自覚していなかった。
この出会いが、私達の人生に大きな転機と災いを呼ぶことになるとは…。
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。