奇跡の光(前編)
中間テストまで残り6日。
今日からの授業は、学校の方針で1日自習という形の自主訓練に回される。午前中は各チーム事に好きな場所で魔法実技の練習をして。午後からは通常通り各実技訓練棟で担任の指導のもと自主訓練を行う。
午後から担任の指導のもと行うのは、下手に無理をしないためと授業の一環として、出席をつけるためである。
そして、俺のチームはというと……。
学校所有の森に来ていた。
「それじゃあ、訓練を始めるぞ」
一応チームを結成した者としてリーダー扱いされているので、仕切ることにした。
「とりあえず二人の得意な戦闘スタイルを教えてくれ」
「私は刀と魔法を併用した近接戦闘だよ」
「俺は、遠距離からの支援魔法と狙撃だ」
ふむ、なるほど。俺は自由戦闘だからどこでも良いとして。
この二人は普通に自分の得意な距離で戦ってもらっても問題ないな。
「良し、なら。火恋と水原は各々(おのおの)好きなポジションで戦ってとらって構わん。俺は、中距離での支援と前線が火恋一人ではキツイと思ったら前に出るとする」
「「了解」」
この作戦が無難と思ったのか、火恋と水原からは反論が飛んでこなかった。
「それじゃあ、次は魔法属性の確認だ」
ここで、魔法属性について説明しておこう。
属性には火、水、土、風、空の五種類がある。
一つ一つ大雑把に説明すると。
火は、お察しの通りその熱量と破壊力の力押しで。魔力を火に変えたり、物質の温度を変えたり、その場にある火を使ったりと破壊力だけなら魔法属性の中で随一の威力を持つ。
土は、一言に土と言っても様々な使い方があり。足元の土を利用したり、地面から砂鉄のみを集めて鉄の塊を作ったり、土と言いながら木々を利用したりと魔法属性の中でも最も使い勝手のいい部類になる。
水は、空気中の水素分子を酸素と結合させて水を作り出したり、相手の体内の水を蒸発させたり、水の温度を下げて氷を作ったりと水に関わることなら大抵の事はできる。
風は、魔法属性の中では最弱の部類になる。唯一の長所といったら5属性の中で結界やシールドなどの防御の強さは一番である。ゆえに、よほどの使い手でもない限りチームには入れてもらえないなどの迫害を受ける。
空は、基本的に攻撃系の魔法はなく付与や増幅などの支援魔法を得意とする。他の属性にはない回復魔法も使える。だが、圧倒的に空の属性の人間は少なく100人に1人、下手をしたら1000人に1人の割合でしかいない。魔法学校でも全校生徒に1人いれば良い方だ。
このほかには飛脚などの無属性しかなく大体の人間は1属性しか使えない。極稀に複数の属性を使えるやつもいるがそれも空の属性を持つ人間並みに少ない。
あとあるとするなら、お伽噺や伝説などで出てくる光と闇の属性ぐらいだ。まあ、大抵の人間はその存在を信じない。所詮はお伽話なのである。
さて、程よく説明が戻ったところで話を先に進めるとしよう。
「私は火よ」
「俺は水だ」
なるほど。火恋は火、水原は水、俺は風と………。俺以外は名前に属性の名前が付いているな……偶然か?
まあいい。
「ちなみに俺は風だ。それで、二人はどれぐらい属性魔法を使えるんだ?」
「う……、私は初歩の魔法と、刀に火を纏わせるぐらいしか……」
「俺は一般学生よりも少し多いぐらいだ」
水原は問題ないな。逆に頼もしいぐらいだ。でも、不良が一般学生よりできるってどういうとこだよ……。
さて問題は…。
「火恋が一番のネックになりそうだな……」
「ごめんなさい……」
初歩の魔法しか使えず、近接戦闘しかできなくて、その近接戦闘も未知数と…。
こんな状況で勝つ方法は……、あれしかないか。
「よし、大体の考えはまとまった。今から二人のこれから5日間の課題を言い渡す」
「ちょ、ちょっと待って!5日間?6日じゃないの?」
「ああ、あと1日はなにをするんだ?」
やっぱり食い付いてきたか。
「その辺は気にするな、ちゃんと考えてある」
まあ、その1日が一番大事になってくるんだけど。
「では、話を先に進めるとしよう。まず火恋!」
「はいっ!」
「お前は俺とマンツーマンである魔法を習得してもらう。ついでにどれ程剣術が使えるかも確認する」
「はいっ!」
「次に水原!」
「ああ」
「お前には特別講師をお呼びしたから、その人と訓練してもらう」
「具体的には?」
「大まかな訓練内容は説明したが、さじ加減はその人に一任している」
「了解、だが誰なんだ?」
「まあ、少し待てそろそろ来るはずだ。お前は二人も知ってるから安心しろ」
と言っていると、近くの木の方からガサカサと人の歩く音がした。
どうやら、特別講師のお出ましのようだ。
「遅れてごめんなさいですの~」
「え?……愛澤先生?」
「マジかよ……」
火恋は少し困惑したように、水原は少し嫌そうなリアクションをした。
「では、ご紹介しよう!こちらが、今日から5日間、水原の特別講師を勤めてくれる。愛澤瑠璃先生だ!拍手っ!」
最後にフザケてみたが、拍手をしたのは瑠璃1人だった。
「どうした二人とも?なにか不満か?」
少しおかしく思い聞いてみた。
「いや、おかしいとか言うより。先生って一部の生徒だけを指導に回るよはダメなんじゃなかったですっけ?」
火恋がずっと困惑していた理由がわかった。
「その辺は先生が説明するのですよ。教師が一部の生徒だけを指導するのは原則OKなのです。ただ、他の先生方がしてないだけで問題はありませんよ」
「あ、そうだったんですか」
火恋はやっと納得したようでそれ以上の追求はしてこなかった。問題は…。
「おい水原。そんなに不満か?」
「………不満もなにも、こいつは学園の教師の中では一番の若手で、経験も少ない、正直不安しかないんだが…」
なるほど、そこか。別に若いから経験が少ないとかそんなことはないんだが。まあ、その辺は今は置いておこう。
「その辺は安心しろ。こいつは俺の折り紙付だ。お前の指導役にはうってつけだ。」
「……………わかった」
少し不満そうだったが、納得してくれたようだ。
「てなわけで、早速訓練を開始する。火恋はこの場で俺とマンツーマン。水原は少し離れた崖で瑠璃と一緒にやってくれ」
「あの……陽翔はどうするの……?」
「そういえば、陽翔君の訓練はどうするんですの?」
「その辺も問題ないな。いざとなったら火恋と組み手でもするよ」
一番言いにくい質問が来たので適当にはぐらかしておいた。
「今は1分1秒が惜しい。早速訓練に入ってくれ」
そういって、俺たち四人は二人いとく一組となり1度別れた。
・・・・・・
「とりあえず今の火恋の実力が知りたいから早速打ち合いをしてみるとする」
「わかった」
「ちなみに刀は持っているのか?持っていないなら貸すが?」
「大丈夫だよ。私の魔導具は刀なの」
そういって、火恋は胸ポケットから1枚のカードを取り出した。
「なんだそのカードは?」
「あ、これはねうちの学校が導入してるシステムで魔導具って大きいのもあれば小さいのもあって持ち運びに不便な場合があったりするから、そのために最低限持ち運びできるサイズに魔導具を別の物質に変化させることができるの。そういえば陽翔の魔導具ってなんなの?」
「ああ、俺の魔導具か?俺はなんか作れないみたいだからオーダーメイドで今作ってる最中らしい。中間テストに間に合うかはわからないってさ」
とりあえず、理事長と瑠璃から魔力測定後日に説明されたことをいった。
「え?じゃあ、かなり不利になるんじゃないの?」
「その辺は安心してくれ。なんとかなるから」
高等部の生徒まではほとんどが、魔導具を媒介に魔法を発動する訓練をしている。なかには、使わなくても発動できるやつはいるが魔導具があるのと無いのでは大きく発動速度も威力もかわってくる。
「ふーん、まあいいや。それで?どうやって打ち合いするの?」
「とりあえず全力でかかってこい。俺の事は心配しなくていいから思う存分打ち込んでこい」
そういって俺は仮想空間から1本の刀を取り出した。
「へえ、陽翔も剣術するの?」
「まあな、かじった程度だか。お前の相手には刀がちょうどいいだろう?」
そういって俺は火恋から5メートルほど離れて刀を鞘から抜いた。
「じゃあ行くよ?」
火恋はそういってカードに魔力を注ぎ込んだ。すると、カードは形状を変えた。
刀は刃渡り70cmほどの普通のもの、装飾は施されておらずただ人を切るための物という雰囲気がある。
火恋はその刀を脇構えで持ち、先日教えた無歩を使って一直線に飛び込んできた。
スピードは先日より上がっており、少なからず練習したのであろう。
火恋はそのまま、上段に構え勢いよく降り下ろしてきた。
正直いって、太刀筋は申し分ないが、正直期待はずれだった。
俺は、片手に持った刀で受け流し火恋の刀を地面にめり込ませた。一瞬何が起きたのかわからない様子だったがすぐさま刀を地面から引き抜こうとした。だが、1テンポ遅く俺の左足が火恋の刀をさらに深くめり込ませた。想定外の事態に対処できず必死に引き抜こうとしたが遅い。俺は刀の切っ先を火恋の喉元に向けた。
「うーん、正直微妙だな。筋は悪くないんだが、まだ状況判断能力と戦術が甘い」
火恋は自分の剣術が通用せずあっさりといなされた事がショックだったのだろう。その場に座り込んでうつむいたら。
「まあ、これから5日間必死になればなんとかなると思うがな」
「………………ねえ、陽翔の流派って何?」
いきなりか……。
どうするか、下手に嘘を教えて看破されたら面倒だし正直に答えておくか
「今のは水燕流っていうか剣術だ」
「水……燕流?」
「ああ、知らないだろうな。そこまで有名じゃないからな」
まあ、「今の」はな…。
「さてと、大体の実力がわかったところで、本題に入ろう」
「本題?」
「ああ、お前が覚える魔法だよ」
火恋はさっきの話を今まで忘れていたようで。「あっ」という顔をした。
「お前が覚える魔法は………煉獄だ」
「れ、煉獄!?」
煉獄、それは火属性の魔法の中でトップ10入るほど強力な魔法だ。使える人間も日本ではごくわずかしかいない。
「む、無理だよ!煉獄って相当高い才能がないと使えないんでしょ!?私なんて無理だよ!」
と火恋は真っ青になりながら尻込みした。
「なら一言言うぞ?………お前は才能がない!」
おれは、今まで思っていたことを口にした
「!?」
「正直、ここまで酷いとは思っていなかった。魔法はからっきし、剣術も中途半端、今まで何してたんだってぐらい酷い!」
容赦なく怒鳴り付けた。
火恋は涙目になり今にも泣き出しそうだ。
「魔法の実力は下の下、剣術は下の上、良くて中の下、初等部のやつらの方がまだ良いかもしれない」
今の現状を言い渡した。酷い言い方かもしれないが、今火恋に必要なのは現実を見ることだ。自分の実力と向き合い、それからどうするかが大切になってくる。
ひどく突き放しすぎたのか、とうとう泣き出してしまった。
ふむ、ここで飴を出すとしよう。
「だかな!世間で才能があると言われるやつらには共通点がある……それは、努力と根性だ!」
自分でも無茶苦茶言ってるのは理解している。そんな精神論でどうにかなるほど現実は甘くない。だが、才能があると言われるやつらは等しく努力してきた。青春を捨て、血ヘドをはき、泣きながらでも努力した。それが、報われて才能があると言われるようになったのだ。
「才能がない?上等だ!才能があるやつが強いんじゃない!努力したやつが強いんだ!学生風情が…才能なんてものに頼ってんじゃねえ!」
学生の俺がいってると矛盾しているような気がするがそこはあえてスルーしておく。
「いいか!才能がないなら努力しろ!所詮魔法なんて、99%の努力と1%の才能だ!どれだけ、自分を追い詰めれるかで変わってくる。お前に自分を変える覚悟はあるか?」
火恋は涙を流しながら真っ直ぐに俺の目を見た。
「ある……」
「聞こえねぇ!」
「あります!!!」
火恋の心の叫びが木霊し、森中に響いた。
「私は強くなりたい…他の人たちを見返せるぐらい強くなりたい!」
火恋の言葉には静な、そして強い思いが秘められていた。
「そのためなら、何でもする……。青春を捨てでも、血ヘドを吐いてでも、誰かのバカにされてでも…私は強くなりたい!」
俺は、火恋の言葉に小さくも美しい光が見えた気がした。
「わかった、なら俺がお前の夢を叶えてやる!死ぬ気で付いてこい!」
「はいっ!」
これが、俺と火恋の師弟関係の始まりだった。
急いで書いたので誤字が多いかもしれませんが見つけ次第訂正していくのでご了承ください。
あと、参考のために感想などを書いてくれると助かります。