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エリート高校の落ちこぼれの転校生  作者: うしやき
第一章 悪魔騒動編
5/80

災いは突然に(中編)

俺は今窮地に陥っている。


今いるのは、橘魔法学院の職員用宿舎、本校舎を基準に学生寮とは反対側に位置するこの場所。


場所の説明が終わったところでもう一度。


俺は今窮地に陥っている。


後ろはドアノブのない扉、前は児童ポルノ法に引っ掛かるんじゃないかと思うような、ネグリジェ1枚の幼女。


そう、我らが担任愛澤瑠璃先生である。


「どうして…こうなった……!」


・・・・・・


話はさかのぼること約10時間前…。


実技の授業からだ。


「で、なんで俺とこいつはここに集められたんだ?」


周りのやつらは飛脚による準備運動が終わり各々決められた課題にそって練習を始めた。


その頃一方、俺と女子生徒1名は瑠璃に呼ばれて他の生徒たちが練習している所とは反対側と言っても良いような所にいる。


「えっと、2人は飛脚が使えないってことなので私が直接マンツーマンで指導するのですよ」

「まさか、こいつも使えないのか?」

「悪かったわね…」


隣の女子を指差しながら俺は驚愕した。


俺の場合は冗談とカモフラージュのために使えないっことにしたが、まさか本当に使えないやつがいるとは思っても見なかった…。


「ていうか!あんたも使えないんだから私のこと馬鹿にするんじゃないわよ!」


馬鹿にはしてないが、面倒くさいことになったとは思っている。


「まあまあ二人も喧嘩は止めてはやく練習を始めるのですよ」


と言って瑠璃は張り切って橘の指導を始めた。


「…………先生」

「なんですの?」

「なんであいつは練習しないんですか?」

「………………え!?」


その頃俺はというと、寝不足と食後、午後の授業の3コンボにより。眠気がピークに達していたので。適当なところに寝転がっていた。


「ちょっと!陽翔君!なに堂々と寝てるんですか!速くこっちに来て練習してください!」


そんなことはお構いなしに、俺は深い闇へと堕ちていく………。


寸前だ叩き起こされた。


「全くなんだ、人がせっかく気持ちよう寝ようとしているときに。無粋なやつだな…」

「授業中に堂々と居眠りしてる人が言う台詞ですか!ほら君、飛脚使えないって設定なんだから練習しないと怪しまれますよ?」


後半は小声だった。


「わかってないな、逆に練習をしないで諦めた姿を見せるとこによって劣等生としてはさらに際立つと言うものなのだよ」

「また変な屁理屈こいて……!このままじゃ、来週の中間テストが思いやられます」

「ん?今テストは関係ないだろ…?」


何を言っているんだ?この幼女は?


「やっぱり、その話も聞いていなかったんですね…。今日、教室まで案内するときに言いましたよ。陽翔君が聞いていないときに」


まさか、また重要なことを聞き漏らしたのか…俺は?


「来週、テスト最終日に。学級対抗の対抗戦があるっていったんですけど…(ジト目)」

「対抗……戦?」

「はい、クラスで二人以上五人未満で行われるチーム戦なのですよ」

「チーム………戦?」

「はい、だから速くクラスに溶け込んでくださいって言いましたよ?」


クラスに溶け込む?劣等生を強調しすぎて周りからは馬鹿にされ蔑視の目線を受けている俺が?クラスに溶け込む?


「無理じゃねえか!!!」

「ちなみに、チーム申請の申し込みは今日の午後5時までなんですよ……?」

「午後5時!?あと4時間無いじゃねぇか!」

「はぁ~、だから言ったのに。聞いとかないと困るのは陽翔君ですよって」

「二人以上集まらない場合は?」

「そんな事態、前例がありません!」


なんてこった…、おそらくだが二人以上集まらない場合はまず対抗戦に参加できない→つまりテストを受けれない→単位を取りこぼす→落第or留年→落第の場合は一族もろとも打ち首……。


「助けてドラ○もん~(涙)」


情けないことに俺は、目の前の幼女に泣きついた。


「ちよっと、だれがドラえ○んですか!そんなに丸々してませんよ!もうしりません!先生のことド○えもんなんで言う人は先生嫌いです!」

「そこをなんとか!落第or留年だけはご勘弁を!」


恥を一切捨て泣きついた。ちなみに、他の生徒は離れすぎて見えてないようだ。橘は練習に集中していてこちらの状況に気がついていない。


「お断りします!どうぞご留年くだー、ん?……………まてよ?」

「え?心変わりしてくれたのか?」


何かに気がついたようで急に考え出す瑠璃だった。


「陽翔君以外に約2名、まだチーム申請をしていない生徒……、というか相手がいない生徒がいるんですが……。陽翔君がどうしてもと言うのなら紹介しないこともないですが……」

「ぜひ、ぜひ頼む!いえ、お願いします」


俺は、勢いよくその場で土下座した。


「なんでもしますから!」


おそらくこの台詞は余計だった。というか、この台詞が災いの始まりだった…。


この時、俺は下を向いていて気づいていなかった…。俺の目の前で仁王立ちした悪魔の口元が口裂け女のごとく歪んでいることに。


「今……なんでもするって言いましたよね?」

「ああ、なんでもします!いや、やらせてください!」


そんなこととは露知らず、俺は失態を犯しつづけるのであった。


「なら、良いでしょう。紹介しましょう。でも、それで組めるかは別ですよ?あくまで相手の了承が必要ですからね?」


「ああ、ありがとう。恩に着る」


「いえいえ~」


この時の瑠璃は妙に楽しそうだった…。


・・・・・・


と、一通りのボケが済んだところで橘の練習しているところに戻った。


「橘さん、どうですか?できそうですか?」

「ぜんぜん」


なんだよその強すぎる否定は…。


「うーん、ここまでやって出来ないとなると先生お手上げですね…。ちょっと、隣の第3実技棟にいって他の先生に聞いてくるのですよ」


そう言い残すと、パタパタと出口まで走っていった。


そして気まずいことに2人きり。


普通の男子なら「やべぇ、美人と2人きりだよ。どうしよう、なんか喋らなきゃ…」とそわそわするのだろうが俺は違う。


ちょっと、腕も触ったぐらいであんな罵倒されるとは思ってなかったし。それに、下着泥棒はさすがにカチンときた。


そんなことを考えていると、聞き間違いかと思うぐらい小さな音が聞こえた。


すすり泣く声だった。


横を見てみると、橘がアッガ○のように体操座りをして膝に顔を埋めていた。


「…おい、大丈夫か?」


さすがに心配になり声をかけてみた。


「うるさいわね、黙っててよ」

「いや、さすがに横で泣かれたら心配するわ」

「泣いてなんかないわよ!(鼻声)」

「いや、泣いてるじゃねぇか……」

「あんたに何がわかるのよ!お父様とお祖父様のようにならないといけない私はこんなことで足踏みしてられないのよ!」


お父様とお祖父様…?


今の言葉に引っ掛かる部分があったので。


少し考え込んだ。


父親は誰かはわからんが…お祖父様ってなるとあれだよな……理事長だよな?


理事長……橘……橘………はっ!?


まて、まさかこいつ……。


「お前……橘流魔法剣術の正統後継者…!?」

「…………そうよ。私は強くならなくちゃいけないの、こんなところで足踏みするわけにはいかないの…!」


橘流魔法剣術、それは200年近く続く伝統ある剣術で。剣を扱う人間なら大抵のやつは知っている。といっても俺の場合は、師匠が話してくれたからだけど。


師匠のことは今はおいといて。


実際、橘流魔法剣術が有名になったのは確か6代目当主からだったはず。まだ、無名の剣術だったころ町を襲った龍種を一太刀で屠ったとかなんとか。尾びれがついている可能性はあるが、それにより国王自ら感謝状と6代目に聖人の称号、そして剣聖の称号を与えられた。


橘秀…聞いたことのある名前だと思ったら、当代最強と謳われる剣豪じゃねぇか!たしかに、由緒正しい剣術の家柄と実の祖父が当代最強剣豪とくれば、そりゃあプレッシャーもあるだろうよ。


意地悪だとわかってはいるが、少し聞きたいことがあったので聞いてみた。


「なあ橘。お前さ、まさか自分のじいさんが世界で一番強い剣豪なんて思ってないよな?」

「なに言い出すのよいきなり?お祖父様が最強に決まってるでしょ。橘の元当主よ?」


はあ~、やっぱりな。こいつ世間を知らなさすぎる。たしかに、当代最強の剣豪と謳われてはいるが実際世界中の剣士と戦って勝ったわけでもなく、あくまで世間が勝手にそう言っているだけなのだ。俺の師匠達がいい例だ。人里離れた山奥に住んで隠居してるくせに、本気出したら山肌削るわ滝は真っ二つにするわ無茶苦茶するくせに。


自分達は弱いだの言い出すし。


まあ、ある意味人間じゃないからな、あの人たちは。


そんなことを思いながら、俺は橘に自分の考えをオブラートに包まず言った。


「橘、お前のじいさんは世間が勝手に最強と言ってるだけで、別に世界中の剣士と戦った訳じゃない。世界にはお前のじいさん以上に強いやつなんてゴマンといる。お前みたいなやつを井の中の蛙って言うんだぜ」

「な、何を偉そうに!お祖父様と戦ったわけじゃないくせに!偉そうなことー」

「だがらさ、そんなに気負うなよ。もっと楽にやれよ、別にお前が弱くたって世間はなんとも思わないんだから。ゆっくりでもいいからさ、もっと肩の力抜けよ。そんなんじゃ上手くなるものも上手くならないぞ」

「なによ急に……。あんたも落ちこぼれのくせに………。」


ふぅ、説得がうまくいったようだ。肩の力が少し抜けてるな。さて最後に仕上げだな。


「橘、飛脚をするときはもっと膝を柔らかく使うんだ。魔力も足全体に纏わせる必要もない高速移動に使うなら足の裏だけで十分だ。そして準備ができたら、目的地まで力業で跳ぶんじゃなくて、魔力で薄く道を作るんだ、自分の行き先に魔力で線路のようなものを作りそこを摺り足で移動するように足を運べばいい」

「えっ?ちょっと、どう言うこと?」

「いいから、一回やってみろ。大事なのは足の魔力よりも、道を作る方に魔力を集中させるんだ」

「いや、待ってってば。道を作る?そんなの、初等部でも聞いたことないわよ!?」

「初等部で聞いてできなかった知識と、初対面のやつがいった言葉、どっちを信じる?」

「そ、…そんなの。わかったわよ、やってみる」


渋々だが納得したようで。とりあえずやってみるようだ。


実際それでいいんだ。半信半疑の方がいい完全に理解できる事なんでない、分からないことの1つや2つあるものだ。第1、俺が教えたのは俺が考えたオリジナルのやり方で普通の教師レベルじゃ絶対に知らないことだ。


「えーと、魔力は足の裏だけに集中して……。行き先まで、魔力を薄く広げて線路を作る………」

「そうだ、できるだけ薄く広くするんだ。」

「わ、解った」


こうしてみてみると、魔力の質は悪くない。魔力の使い方もそこそこ出来ている。こいつができない原因はおそらく初等部、中等部の頃の担当教師だろう。ハズレを引いたみたいだな。これならおそらく…。


「よしっ、やってみる!」

「イメージは剣道の摺り足だ、わざわざ走ったり跳んだりする必要はない。滑るように進め!」


最後のアドバイスを言い渡し。いよいよ、その時がきた。


「え?」


次の瞬間、橘は10mほど移動していた。


距離的には普通だが問題はそこじゃない。


時間にして約0,02秒秒。あくまで勘だか、普通の飛脚ならこの10倍はかかる。


「なに、いまの…?え、いつの間にこんな動いたの?」


それもそのはず、厳密に言えばこれは飛脚では無いのだから。


飛脚とは足に魔力を附与させて脚力を増加させる技。


しかしこれの厳密な仕掛けは、魔力を集中させるのは足の裏だけで実際の移動は魔力でつくった道にある。魔力で道を作る際必ずしも自分側から目的地に魔力を流す、つまり、魔力の流れが目的地に向かって行くから道に足を乗せた瞬間に勝手に移動しているわけだ。


摺り足のイメージは、この技の短所は足が離れると動きが止まることにあるから、足を離さず動かすためのものだ。


足の裏の魔力は移動の際にかかる抵抗を0に近づけるためにやっているので、実質必要最低限でいい。


俺はこの技を、『無歩むほ』と呼んでいる。


「すごい、やった!できた!」


橘は無邪気に喜んでいるが少し申し訳ない気がする。飛脚とは全く原理の違う技なのだから、飛脚が出来たとは言い難い。


まあしかし、多分これが『無歩』だとわかるやつはこの学校にはおらんだろ。わかるとしたら、聖人クラスぐらいなはずだ。


「ありがとう。陽翔!できたよ!いままでぜんぜんできなかったのに、たった一回アドバイスされただけでできた!」


うむ、こんなに喜んでるやつに現実を教えるのは酷だから黙っておこう。まあ、最低限の口止めはしておくか


「橘」

「火恋でいいよ?」

「は?」

「いや、だから。私も陽翔って呼ぶから、火恋ってよんでいいよ?」


何この可愛い生物!?頬赤らめながらモジモジしていうとか反則だろ可愛すぎるぞ!?


「じゃ、じゃあ火恋?」

「うん…」

「出来たことはできるだけ黙っておいた方がいい」

「え!?なんで?」

「いままで全くできなかったやつが、急にできたら怪しまれるだろ?いままで落ちこぼれのふりしてたとか、何かズルしたんじゃないのか?とか」

「なるほど、うーん、わかった。皆には内緒にすればいいの?」

「ああ、やり方についても黙っておくんだぞ?」

「わかった」


見た目のわりに、随分とピュワで物わかりのいいやつみたいだ。結構結構。


「あら~、随分と仲良くなってみたいですね~」


タイミングを計ったかのようた場面で瑠璃が帰ってきた。


「まあな、少しアドバイスしただけだ」

「見てましたよ~。後で詳しいこと聞かせてくださいね?」

「ああ、あんたならいっても構わんか」

「先生!私、飛脚できましたよ!」

「本当ですか~?良かったですねぇ~、C組の先生に聞きに行ったのが無駄になっちゃいましたのですよ~」


瑠璃のやつも、感づいているのか追及はしてこなかった。


「うん!お互い仲良くなったみたいなので話も上手く進みそうですね!」

「「なにが?」」

「橘さん、まだチーム組んでないよね?」

「はい…、というか組んでくれる人がいませんでした……」


まさか…………。


「陽翔君、橘さんがさっき言っていたまだチームを組んでいない人の内の一人です」


やっぱりか、そんな気はしてたよ。


「と、言うわけで。橘さん陽翔君とチーム組んでくれますか?」

「えっと……、私が戦力になるかはわからないけど私なんかでよければ……」

「だそうですよ?陽翔君。こう言うときは何て言うんですか?」

「はぁ…、わかったよ。火恋、よろしく頼む」

「うん!」


この日俺は、一人目の仲間を見つけた。


「あ、あと一人ですが。陽翔君放課後一人で生徒指導室に来てください。そこにであってもらうので」

「生徒指導室?わかった」


なぜ生徒指導室なのだろう?なにか引っ掛かるがまあいい、人間が見つかるならそこにいくまでだ。


「それじゃ、授業を終わるので皆のいるところに戻るのですよ~」


こうして、俺の学園生活初日の全ての授業は終わった。


・・・・・・


放課後、俺は生徒指導室に向かっていた。なぜかって?3人目の同胞を探しにいっているのだよ。


瑠璃に大体の場所は聞いていたのでするなり着くことができた。

どんなやっだろと、まあ誰でもいいか。


ガラガラ、俺は生徒指導室のドアを開けた…、そしてそこにいたのは。


「あん!?なんでテメェがここに居やがる!」


今朝の不良君でした………。


はーい、フラグ回収お疲れさまでーす…。


「こらこら、水原くん。そんなこと言っちゃダメでしょ」


めっ!といった具合に不良君(水原)の正面に座っていた瑠璃がいった。


「おい、瑠璃…まさか……そいつが…?」

「はい、陽翔君の3人目のお仲間の水原雄二みずはら ゆうじ君なのです」

「たがら、俺は嫌だって言ってんだろうが!」


まさかとは思ったが、本当にこうなるとはな…。さて、どうするよ。


「おい、水原」

「なに、偉そうに呼び捨てしてんだよ」

「はあ、話が進まなくなるからそのまま続けるぞ?お前、なんで俺と組みたくないんだ?」


いけ好かないとか、気に食わないとかそんなことだろうと思ったが、帰ってきた答えは予想外のものだった。


「別にお前と組みたくないとは一言も言ってねぇだろうが。俺が嫌なのはこの学園だよ」

「は?」

「お前は知らないだろうがな。この学園の中間テストのチーム対抗戦は、実力試験に見えて実は違うんだよ。その実態は、才能のない生徒を一方的に叩き潰し、才能のある生徒はそれを楽しみ、才能のない生徒はそれを見て絶望する。そんな、糞みたいな企画なんだよ!」


なるほど、この学校も奥に根付いているものは神聖高校とほとんど変わらないと言うわけだ。


「俺が嫌なのは晒し者になることじゃない!一方的にいたぶり、成績優等生はやられる様を笑い、なじり、罵倒する。教師も一緒になってバカにする。それが本当に教師の学校のすることかよ!」


これは、こいつの悲痛の叫びだった。おそらく中等部の頃にも同じようなことがあったのだろう。自分の不幸を嘆く叫びではなく、理不尽を差別を心の底から許せない、正義の叫びだった。


そんな、こいつを救ってやりたい俺は心底そう思った。こいつを理不尽から救ってやりたい、こいつの正義は死なせてはならない。そんな思いから口が勝手に動いていた。


「……かえしたくはないか?」

「え?」

「強者と言う立場に胡座あぐらをかき足元を見ず、弱者を貶し(けな)踏みにじる、そんなやつらを見返したくはないか?」


俺は何をいっているのだろう、本当は関わりたくないはずなのになぜか口が動いてしまう。こいつに、明るい現実を、笑顔を取り戻させたいと思ってしまう。


「見返したい……」

「そうか……、なら俺に付いてこい、俺がお前を救ってやる……!」



俺はこの日二人の仲間を得たのだった。


・・・・・・


一通りの話が終わり瑠璃にチーム申請の書類も提出いた。あとは、帰るだけなのだが……。


「それじゃあ陽翔君、帰りましょうか」

「やっぱり、同じ部屋なのか…?」

「はい、当たり前です。ちなみにベッドも1つしかありません」

「は!?バカじゃないの!?もう一回言うぞ、バカじゃないの!?」

「仕方ないでしょう、元々一人部屋だったのをわざわざ二人部屋にしたんですから」

「ソファーは?」

「ありますけど寝かせませんよ?」

「なぜに!?」

「もちろん一緒に寝たいからなのです!」

「いやだから、それが不味いんだって!」

「どうしてですの?まさか陽翔君……ロリっ子とか言ってた先生に欲情したんですの?ちまたで言うロリコンってやつですの?」

「ち、ちげぇよ!」

「ならいいでしょう?」

「くっ!」


こんなところで、ロリっ子扱いしていたことが仇となった。

そんなやり取りをしているうちに、お待ちかねの職員用宿舎についた。


外装結構きれいだった。築三年ぐらいだろうか?つい最近建てたばかりのようなものだった。


「結構新しい建物なのか?」

「はいです。つい二年前に建ったばかりの新築なのです」

「へぇ、まあボロいよりかはましか」


内装はいったって普通の宿舎だった。


シンプルなデザインで、ドアはオートロック式、廊下は土足のようだ。


「先生と陽翔君の愛の巣は105号室なのです。1階の一番奥になります」

「他の部屋にも誰か住んでるのか?」

「いえ、基本的に住んでるのは私だけなのです」

「なら、俺があまりの部屋使えばいいだろ!」

「基本的にって言ったじゃないですか…。あまりの部屋は全職員に一部屋づつ与えられて夜勤や当直の時などに使うのです。だから、実質の空き部屋は1つもないのです」

「なら他の男子職員の人と相部屋にすればよかったんじゃ…」

「男性の先生方が全員断りましたよ。女性職員は良いと言う人もいましたが、担任である私が相部屋になりました」


まるで最初から用意していたような回答が飛んできて、反論できなかった。


「ほら、グダグダ言ってるうちに着きましたよ」


そういって、部屋のドアを開けた先に写った光景は……。



ビールの空き缶の山だった…………。



「………………………………おい」

「ごめんなさい、先生、お掃除だけは苦手なんですの…」

「そんなんで、よく高校時代から一人暮し出来たもんだな…」

「高校時代は仲の良い友達に手伝ってもらってたんですの」


とにかく酷かった。リビングには一面ビールや酎ハイやらの空き缶が散らばっており、サキイカやあたりめ、ビーフジャーキー、スモークチキン等々ツマミのゴミや脱ぎ捨てられた服、しまいには下着までもが無造作に散らかってた。


「はわわ!見ちゃダメなのですよ!」


と、散らかした本人は自分の酷い私生活を覗かれて慌てふためいていた。


「はあ、仕方ない。俺が片付けたおくから、お前は風呂ためて先に入ってろ」

「うー…、ごめんなさいですの……」


瑠璃俯きながら渋々と風呂場へといった。


さてと、じゃあ始めるか。


とりあえず空き缶やゴミはしっかりと分別してごみ袋へと叩き込み、散らかった服や下着は瑠璃に風呂場の汚れ物入れを持ってきてもらい放り込んだ。


大きいものは一通りの片付いたから次に掃除機をかける。最後、仕上げに雑巾かけをして終わった。


瑠璃が風呂からでる頃に終わるかと思ったが、大きなゴミの方が多く、実際そこまでの時間はかからなかった。


まだ、風呂も沸いていないようなので飯でも作っておくか。


勝手に冷蔵庫を開いたら。


まあ、予想はしていたが酒ばかりが入っていた。


食材もありはするが、タッパに入った冷飯、卵、ハム、鶏肉、野菜がグリーンピースに人参と。


調味料は、醤油とお酢、マヨネーズにケチャップ、塩コショウ砂糖、まあ普通だな。


さてこんだけあれば、オムライスぐらい作れるか。


卵は2つあるからちょうどいいか。


作るものを考えているうちに風呂は沸き、瑠璃が風呂に入り始めていた。どのくらい風呂にはいるかわからないが。あまり時間はかけられないな。


そう思いパッパと作ることにした。


食事を作るのは師匠達のお陰でずいぶん馴れた、物心ついた頃には師匠達に育てられており掃除、洗濯、食事の準備は子供の頃からやらされていた。


普段はズボラなくせに、飯には細かい師匠だとか、姑かよと思うぐらい部屋の汚れを気にする師匠、茶を入れろと言われて入れたら「まずい!でも、もう一杯」とか言う師匠と自由人ばからだったので気づいたら家事が出来るようになっていた。


(俺がいなくて、あの人たち大丈夫かな……?)


自分勝手だが、弟子思いの甘い師匠達の事を思い出して少し不安に思い寂しくなった。


などと感傷に浸っていると、瑠璃が風呂から上がってきた。


「うわっ、すごく綺麗になってるのですよ!」

「まあな。あと、酒ばかりじゃなくてちゃんと食材も買い込んどけよ?もう、ほとんど食べ物が入ってないぞ…」


はんば呆れつつ、瑠璃が風呂から上がるタイミングで出来上がったオムライスを机の上においた。


「ご飯まで作らせちゃって、ごめんなさいなのです」

「気にするな、時間が余たから作っただけだよ」

「それじゃあ、頂くのですよ!」

「はいはい、召し上がれ」


一応は全力でつくったので、瑠璃の反応が気になりどんな顔をするのか観察していると……。


「え?」


瑠璃の頬に一筋の涙が流れた


「お……、おい。そんなに不味かったか?」


さすがに泣かれるとは思ってなかったのでかなり焦ってしまった。


「い、いえ。気にしないでください…。あれ?なんで私泣いてるんです?」


と、とぼけたことをいいながら瑠璃は涙を流しながら、鼻水を垂らしバクバクと食べた。


なんのことかさっぱりわからず。俺は、その場で呆けていた。


意識が戻ってきたのは瑠璃が完食した時だった。


「ごちそうさま……」

「あ、………お粗末さまです…」


お互いに気まずい沈黙が流れた。


理由を聞いて良いものなのか。デリケートな問題だったら、あまりデリカシーのない質問は出来ない。悶々と考えていると瑠璃の方から口が開いた。


「ごめんなさいなのです……、本当に気にしないでほしいのです」

「気にするなったって……」

「本当、大丈夫ですから…。言う必要があるならちゃんと話しますので」

「ああわかった」


少し納得はいかなかったが流石に行きなり踏み込むのもよくないと思い、そこで追及をやめた。なぜか、食欲が失せたのでオムライスにはラップをして冷蔵庫に入れることにした。明日の朝にでも食べるとするか。


「風呂、借りるぞ」

「あ、はい。どうぞなのです」


二人きりの状況が気まずく、そそくさと風呂場にいった。


それ以上は考えないことにして風呂に入った。


・・・・・・


風呂で一日の疲れを洗い流し仮想空間より着替えを取り出して着た。


リビングに行くと、瑠璃の姿はなかった。


すると


「お先にベッドに入ってるのですよ。あと、絶対に来てくださいね?来なかったらもっとスゴいことするのですよ?」


リビングのゆかに寝転がるつもりだったが先に逃げ場を失い、最後にはかなり恐ろしい脅しを突きつけられた。すごく嫌だったが、仕方なく瑠璃の声のする部屋へといった。


部屋の中には机と本棚、一人用にしては少し大きく、二人がギリギリ入るか?と言うサイズのベッドがあった。


予想していたよりかはかなり質素な部屋だった。


中を観察するのに夢中で俺は、自分の後ろで起こっていることに気がつかなかった。


「ほら、突っ立ってないで早く来るのですよ」

「床じゃ……だめか?」

「ダメなのです。ほら早く」


腹をくくりベッドへと近付く。


あと、1mと言う所で俺は目を見張った。


「お、おま。何て格好してやがる!」


部屋が薄暗くて気がつかなかったがベッドの縁に腰かけていた瑠璃の格好はと言うと……。


透け透けのネグリジェだった!


「ふふふ、もしかして先生の体に興奮しちゃいました?」

「な、馬鹿か!誰がお前の幼児体型なんかに…」


そうは言ったが、瑠璃の体は幼児体型とは程遠く。女性らしかった。


胸は真っ平らかと思っていたが、そんな事もなく、腰も程よくくびれており、ヒップは大きすぎず小さすぎない。童顔で小柄な身長と組み合わせるとなんとも色っぽく、そしてエロかった。


流石にこのままじゃ本当に俺の息子が覚醒しかねないので。慌てて外へと出ようとした。そこで、俺はあることに気づいた。


「ど、ドアノブが……ない!?」

「へへへ、間違いなく逃げると思って予めドアノブは外しておいたのですよ~」


何て策士!俺の挙動を完全に把握された……。


「さあ、早くベッドにはいるのです」

「いや、流石にそれは不味いって!」

「仕方ありませんね、奥の手を使わせもらうとしますか…」


お、奥の手だと…!?いったいどんな……?


俺は瑠璃の怪しげな台詞に恐怖しながら、脱出の手段を考えた……。

ロリっ子かと思いきや以外とエロティックなボディをしていた瑠璃。

そして、火恋と不良君とのご都合主義の王道展開!

ベタベタだが、それがいい!

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