可憐でおしとやかで不思議なお嬢様…美月千聖
続きです。
麗良に良きパートナーが出来ます。
実は…私の持っている強い正義感が、後々になって大きく飛躍する事になってしまう。
そのキッカケは今の薔薇ヶ丘高校に入って1年後に、或る女のコと出会って親しくなってからだった。
そのコは2年E組の美月千聖。
身長164㌢の私より小柄(158㌢)の抜群ボディにシンプルなポニーテールが良く似合う可愛い女のコで、見たところ性格は凄くおしとやかで控え目。
同じE組の男子から聞いた話しでは、千聖はセレブで良家のお嬢様だと言う事。
なるほど、見ただけでもお嬢様って言う雰囲気を感じてしまう。
美月千聖は入学して2ヶ月ぐらいしてから目にするようになった。
登校する時も見かけるし、全校集会等で講堂に集まる時でも移動中に見かける事も有った。
よく目にするのは、昼休みの時かな?
学園内の中庭で1人、ベンチでノンビリと読書しているところ何度も目にするのだ。
私だけの時や、杏奈と美代子たちとお喋りしながら通りがかっている時にも目にしちゃう。
ベンチでのんびりとくつろいでいる時は黒縁の地味なメガネを掛け、あまり目立たない雰囲気を漂わせていた。言っては何だけど、ハッキリ言って気持ち悪いぐらい物静かな印象を受けてしまっていた。
誰も来ないし、彼女だけぽつんと1人だけその場に居る状態だったから、イヤでもマイナス的な印象は拭い切れなかった。
時々、同じクラスのコと思われる女子と楽しそうにお喋りしている光景を目にする事も有ったけど、基本的には1人で過ごす事が多いようだ。そんな千聖を最初、私も杏奈も軽い気持ちで遠回しで見るだけだった。ところが、美代子は千聖を特別な思いで見ていた。
「あの人…、確かに地味だし…、あまりパッとしないよね? でも…、どこか…温和な雰囲気を感じるのよね。人を惹きつける何か不思議なオーラを感じちゃうし」
初めの頃は意識しなかった私は日が経つにつれ、千聖に話しかけてみたい衝動に駆られるようになって来た。美代子が先に声をかけて親しくなり、続いて杏奈も千聖と接して親しくなった。
そして、この私も…
金曜日の夕方、急用で薔薇ヶ丘市内中心部・カリン繁華街の某所に出かけていた私は用事を済ませ、夜遅くになって帰宅の途に付いた。そして繁華街裏通りの一角で怪しげな男連中に絡まれている美月千聖を目撃した。男連中はこの辺りでは名の知れた札付きのワルグループである事は私も知っている。
どんな理由でそうなったのかは分からないけど、とんでもない連中に絡まれてしまっているとは千聖も不運と言える。
言い争いの内容から、どうやら千聖が表通りで連中とすれ違いざまに1人と肩がぶつかった事が絡まれ事態の原因となったようだ。千聖は何度も頭を下げて謝るけど、連中は許してくれない。
なのにだ。
連中は怒っているどころか、ニヤけるばかり。
この連中は落とし前を付けてもらうと言いがかりを付けて、変な事をするつもりなのだろう。
下心はもう、ミエミエである。どうせ馬鹿面してフラフラして歩いていたから女のコと肩がぶつかってしまったのだろうと推測出来る。
千聖ちゃんの身の危険を感じた私はその場に割って入り、連中の話し相手になってやった。
ジックリと話しを聞いて上げた後、私は何度も深く頭を下げた。
「このコ、十分に謝っているから許してやって下さい。お願いします」
そして土下座もして許しを乞うた。
「俺らをナメているんじゃねーよ。簡単に許してやると思っているの?」
相手側のリーダー格の男は許す気はなさそうだし、聞く耳さえ持たない。
私は立ち上がり、それまでの弱々しい態度から強い態度に変えた。
「あっそう。だったら、実力行使かな?」
「ああん? 実力行使だぁ?」とリーダーは顔をしかめた。
「お前ら、私たちが女子高生だから、女のコだからと言ってナメないでよね?」
「ハァ? 何言っているんだお前?」
超人的な運動能力を持つ私は格闘にも大いに自信を持っている。事実、私は連中と立ち回りを演じ圧倒的な強さを見せてやった。ヒロシと名乗るリーダー格の男が私に手を出してきたのがケンカの始まりである。
私は怯む事無く、素早く応戦した。ヒロシを投げ飛ばしたのだ。
周りの連中が私に向かって襲い掛かって来る。手際良く連中を次々と打ち負かす私。
連中の中には腕っ節も強い男がいるけど、それほど大した相手ではない。
ところが連中に楽勝して気分が高まっていたからだろう。
私はスキを見せる羽目になり、連中の1人から長い棒のような物で右足を打たれてしまった。
これは相当、痛い! 私はその場で倒れ込んでしまい、痛む足を押さえてもがき苦しんだ。
連中は私を女のコだからと言って容赦はしない。
集団…人数にして4人で私の身体を足蹴りして来る。
このグループには私と同年代の女のコがいる。制服を着ているけど薔薇ヶ丘の人間ではない。何と、地元薔薇ヶ丘では名の知れたお嬢様学校である聖乙女カトリーナ学園の人間である。制服はとてもお洒落だけど、人相は悪そう。
後で分かった事だけど、そのコはヒロシの恋人である姶良だった。
「お前って結構、やるじゃーん」と言って、姶良は長い棒で私の身体を滅多打ちし始めた。
コレって、下手すれば殺人である。私は殴打されるがまま何も抵抗出来ずに苦しむだけ。
このまま、あの世へ旅立ち。…だと思いきや、状況が変わって来た。
何と!
千聖が姶良の腕を掴み、棒を取り上げたのだ。更に相手の頬を激しくバシーンと平手打ち!
激怒した姶良は千聖に飛びかかろうした時に足が止まった。
私の目に映ったのは目をカッと見開き恐怖におののく姶良の表情。しかも金縛りに遭ったかのように身体が動かないでいる。千聖は姶良の顔面に向けて手をかざしているだけ。私の目に映るのは手のひらで輝く金色の丸い形の光である。
これって、ハンドパワーってヤツ? それともヒーリング?
美月千聖ってエスパーか魔法使いなのだろうか?
ヒロシが千聖に背後から襲い掛かって来る。背後の気配を察知したのか、千聖はもう一方の手を男にかざした。同じように反対側の手のひらにも丸い形の光が輝いた。
姶良とヒロシ相手に両手をかざす美月千聖の表情は今まで見た事もないマジ…、凛とした表情でサマになっている。2人はそれぞれ、そのまま硬直状態で立ち尽くしたまま。
他の男連中も千聖に襲いつつも、いとも簡単に意識朦朧状態にされてしまった。
私の方に茶目っ気にウィンクした千聖。
連中1人1人の額にキスするとは私は呆気に取られちゃった。
「麗良さん、参りましょう」と言って、千聖は私の腕を掴んでこの場を去ろうとする。
「え? え? 何? コイツらは?」
戸惑う私。
「このまま放っておいても大丈夫ですわ」
千聖は余裕の表情で私を連れてこの場を去り始めた。もう片方の手を挙げるなり、指をパチンと鳴らした千聖。
悲鳴を上げる声を耳にして背後を振り返った私の目に映ったのは、怯えて逃げ去る連中の姿だった。
それから私は千聖と一緒にクルマで帰宅の途に着いた。
さすがはセレブであり金持ちの家柄。千聖は運転手付きの自家用車での帰宅。私も乗せてもらった。
「私を助けてくれて、ありがとうございます麗良さん」と、私の両手を取って礼を言う千聖。
車内のゆったりとした後部席での語らい。私は初めて千聖と会話するようになったのだ。
名前を呼ばれて私は驚いた。何と名前を知っているのだ。理由を尋ねると何の事はない。
杏奈や美代子から私の事を色々と教えられていたからだった。
私とも早く友達になりたがっていたようだけど、なかなか触れ合う機会が無くてずっと心待ちしていたと言う。
「やっと、こうして私と語り合えたってワケだよね?」
「佐々木杏奈さんと米林美代子さんとはお友達になれましたし、後は神奈木麗良さんだけですわ。私とお友達になって下さらない?」
「こんな私でイイ?」
「宜しいですわ」
「じゃあ私で良ければ」
「ハイ」と千聖は、満面の笑顔を見せてくれる。
このコがこんなに明るい顔を見せるのは私にとっては初めてである。こうして私は千聖と友達関係になったのだった。
又1人、友達が増えて私はワクワクして来ちゃった。
ところで気になる事が有るから、質問してみよう。
ワル連中と格闘していた時、千聖ちゃんが見せた不思議なパワーの事だ。
「あの、ハンドパワーみたいなのは何?」
「話すと長いですから、あとからゆっくりとお話ししますわ」
「どんなパワーなのか知りたいよね?」
千聖は私の方に顔を寄せてソッと小声で言った。
「実は…私の持つ不思議な力、杏奈さんや美代子さんにも見せていませんし話しさえもしていませんの」
「理由は?」
「理由?」
私の目を見つめた千聖。説明するにもチョット戸惑い気味。
私は一瞬、考えて言葉を発した。
「…ってか、教えなくてもイイっか。理由は大体、想像付くし」
つまり自身の不思議な力を話してしまうと特別な目で見られてしまうかもしれないし、噂が広まってフツーに学園生活が送られないって事なのだ。
「私の事は他の人たちには内緒にして頂きたいですわ。杏奈さんや美代子さんにも」
「オッケー、オッケー。これは2人だけの秘密だね」
続きます。