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  作者: 深江 碧
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「へええ、金竜草の場所を知っているんだ。君はすごいねえ」

 どうでもいいような声で応じる。

 少年が興味を向けたので、少女は胸を張って答える。

「そうだ、私はすごいのだ。何と言っても山神様のお使いだからな。もっと崇め奉ってくれてもいいぞ? 私は寛大だからな」

「はいはい、ありがとうございます。山神様のお使い様」

 少年は気のない返事をする。

 それから少女の言った山神のお使い、という言葉に引っ掛かりを覚える。

「ついて来るがいい。特別に、金竜草の咲く場所を案内しよう」

 少年がそれを問いただすよりも早く、少女は前に立って歩き出す。

 渋々ながら少年は少女の後をついていく。

 少女は迷いのない足取りで社の隅にある山に続く上り道を上っていく。

 そこから少年は山道をどこをどう通ったのかよく覚えていない。

 目の前には草深い藪の中に金色に光る花が一輪咲いている。

 少女は金色に光る花を指さす。

「これが金竜草だ。今回は私に免じて金竜草を取るのを許してやる」

 少女にうながされるままに、少年は花のそばにしゃがみ込む。

 金色に光る花の茎に手をやり、そっと手折る。

 金竜草の金色の光は手折った後も消えず、少年の手の中で光り続けた。

「次からは、小銭などとケチなことは言わず、どんと大金を賽銭箱に入れるのだぞ」

 少年にとっては瞬きするほどの時間に感じられた。

気が付けば少年は神社の境内に立っていた。

辺りを見回しても緑の目の少女はどこにもいない。

少年を置いてどこかに行ってしまったのだろうか。

少年は社に一礼して、家への道を戻り始めた。

手の中の金色の光のおかげで、足元は不自由しなかった。

家へ戻る途中、少年は神社の方角は一度も振り返らなかった。




 金竜草は思いの他、早く役に立った。

 村人たちの間に流行っていた咳の病のために、父が金竜草から薬を作ったのだ。

 村人たちは父にとても感謝して、以前よりも頻繁に家を訪ねるようになった。

 ことあるごとに野菜や米やみそを持ってきて、薬と交換していくようになった。

 家の外に出られない少年は父のそばにいて、少しずつ村人たちと打ち解けるようになった。

 家を訪ねて来る村人の一人に、アサと言う少年と年の近い少女がいた。

 アサはたいそう親思いの娘で、村の端にある家から少年の家まで長い間歩いて来る。

竹籠いっぱいにその朝畑で採れた野菜を入れ、薬と交換して帰っていくのだった。

ある時、父からその娘を紹介された少年は、同じ年頃の娘にどう接すればいいのか困っていた。

「この子は賢い子でな。昼間に外に出ることは出来ないけれど、おれが教えたことはみんな水を飲むようにするすると覚えてしまうんだ」

 アサの前で、父は少年を褒めちぎった。

 少年はその大人しそうな少女を見て、神社で出会った尊大な態度の少女とは大違いだ、と心の中で思った。

 父が去った後、少年は神社で出会った少女のことをアサに聞いてみた。

 代々この村に住んでいるアサやその家族なら、少女がどこの誰なのか知っているのではないか、と思ったのだ。

 新月の夜に、と聞いたところで、アサは青白い顔になった。

「新月の夜に神社に行ったのですか? あの夜は山神様や異形のものたちが村を闊歩すると伝えられているので、村の人たちはそろって家に閉じこもっているのですよ」

 少年は驚いた。

 そんな言い伝えがあるなど聞いたことがなかった。

 と同時に、妙に納得した。

 道理で山の獣の気配が全くしないと思ったのだ。

 それに神社の石段を上がっている途中に感じた嫌な寒気。

 あれは異形のものか、それとも山神の気配だったのだろう。

 どちらにしても、もうあの神社には近付かない方がいいだろう。

 少年はそう結論付けた。

「じゃあ、あの神社の境内にいた緑の目の少女は」

「それは」

 少年が問うと、アサは言いにくそうに口ごもる。

 部屋の中を見回し、少年に顔を寄せる。

 ロウソクの明かりに照らされたアサの顔は、深刻な表情を浮かべている。

「このことは、絶対に他の人には話さないで下さいね」

 少年はうなずく。

 アサはぽつりぽつりと話しはじめる。

 昔、この村の人たちがここに居を構えたばかりの頃、村に災害が頻繁に起こった。

 山崩れや、川の氾濫、大風など、村人たちの間に多くの死者が出て、村人たちは困り果てた。

 しかしその当時の村人たちは、せっかく切り開いた田畑を、この豊かな山や川の実りを、みすみす手放すことは出来なかった。

 それを山神の怒りだと感じた村人たちは、緑の目の娘を山神のいけにえに捧げた。

 いけにえを捧げて以来、災害は収まり、娘を捧げた場所に神社を作り、毎年娘と山神を祭る祭祀を執り行った。

「じゃあ、あの少女はいけにえに捧げられた緑の目の少女なのか?」

 少年はアサに問い返す。

「おそらくは」

 アサはうつむき、青白い顔で口元を押さえている。

(やはりあの少女はこの世のものではなかったのか)

 最初に感じていた違和感の正体が解け、少年は不思議と納得がいった。

 アサは震える声で尋ねる。

「彼女は、わたしたちのことを怒っていましたか? いけにえに捧げたわたしたちの先祖を恨んでいるんじゃないかと思って」

 アサの問いに、少年は首を傾げる。

「そうは、見えなかった。むしろその少女は」

 少年は目を細める。

(寂しがっているように見えた)

 次の新月の夜、少年はいてもたってもいられず、気が付けば神社の境内に立っていた。

 社の賽銭箱の隣に、緑の目の娘が座っている。

 少年に気付いた少女は、勢いよく立ち上がる。

「また、来たのだな。今度は賽銭をたっぷり持ってきたのだろうな」

 少女は腰に手を当てて胸を張り、緑の目で少年を見据える。

 少年は賽銭を入れた布袋を手に、じゃらりと音を立てて少女に見せる。

「この通りだよ。今度はたくさん持ってきた」

「うむ、感心感心。その賽銭を賽銭箱に入れて、これからも山神様を敬うのを忘れないようにするんだぞ」

 少年は賽銭箱にお金を入れ、手を合わせる。

 山神への参拝の済んだ少年は、そばに立っている少女を振り返る。

「君は、その昔山神に捧げられたいけにえだったんだね。山神様のお使いだと言っていたのだけれど、それは君が死んでからなったものなんだね」

 少女は驚きに緑の目を見開く。

「村人たちから聞いたのだな。彼らはまだ私をいけにえに捧げたことを忘れてはいなかったのだな」

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