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白子だか、色ぬけ子だか、村の子どもたちに気味悪がられているのを知らない。
両親がわざと少年の耳に入れないようにしているのだった。
村の大人たちはお世話になっている薬師の父の手前、少年のことを表だって気味悪がりはしなかったが、内心は敬して遠ざけているのが実情だった。
それ以来、少年は父に言われたことを繰り返し考えるようになった。
何とか自分の体の治療法はないものかと考えるようになった。
そんな折、どんな病にも効く万能薬がある、と言う噂を村で聞いた。
新月にだけ花咲かす山に生える薬草が、どんな病もたちどころに治してしまうという噂。
父はそんな薬草は聞いたことがない、と信じていなかったが、少年はその薬草に一縷の望みをかけた。
もしかしたら自分のこの体を治すことが出来るかもしれない。
少年は噂を頼りに、新月の夜だけに花咲く見たこともない薬草を探すことを決意した。
石段を登り終えた少年は、ふうっと長い息を吐き出した。
夜風は冷たく、少年がうっすらかいた汗も見る間に引いていった。
境内にたどり着いた少年は、朱色の鳥居をくぐり、苔むした石畳の上を歩く。
夜目の効く少年は足元に不自由しなかったが、夜の不気味な空気を肌に感じていた。
昼間は村の信心深い大人たちや老人たちが頻繁に出入りしているのだが、夜はひっそりと静まり返っていた。
少年は社の前に置いてある賽銭箱の中にわずかばかりの小銭を入れ、手を合わせる。
「山神様、山神様、これから山に入るのをお許しください」
声に出してお参りすると、静まり返った夜の空気に音が吸い込まれていった。
少年は合わせていた手を離し、目を開ける。
すると目の前に見慣れない少女が立っていた。
「何だそれぽっちの賽銭で、これから夜の山に入ろうとするのは、あまりにも無謀だと言うものだぞ?」
「わっ!」
少年は口から心臓が飛び出すほど驚いた。
飛び上がって、石畳の上に尻餅をつく。
まじまじと目の前の少女を見上げる。
少女は少年と同じ年頃のように見えた。
「何だ、人を幽鬼のような目で見て」
少女は不満そうに唇を尖らせる。
少年は地べたに尻餅をついたまま問う。
「あ、あんたは誰だ? どこから現れた」
暗闇に白く浮かび上がる少女は、少年の目から見てさながら幽鬼そのものだった。
闇夜に少女の緑の目が妖しく浮かび上がっている。
「どこって」
少女は神社の社を振り返る。
「あそこが私の住処だからな。お前こそこんな闇深い新月の夜に、何の用があって山神の祭られている神社までやって来たのだ? それにこれから山に入ると言っていたな。どういう理由があって、こんな闇深い時に山へ入るのだ?」
少年は返答に詰まる。
緑の目の少女は尻餅をついている少年に歩み寄る。
少年は閉口していたが、少女に嘘を吐いても仕方がない、いつかばれることだと腹を括り、正直に話すことにした。
「新月の夜にこの山にだけ咲く花を取りに来たんだ」
少女はその花に心当たりがあるのか、緑の目を大きく見開く。
「金竜草か? あれは確かに新月の夜だけに咲き、光を発するが」
少年はゆっくりと立ち上がる。
ようく見ると少女は幽鬼の類ではなくただの少女ではないか、自分は何を怖がっていたのだろう、と腹立たしく感じる。
少年はうなずく。
「そう、その金竜草とか言う花を、僕は探しに来たんだ」
少女は目を細め少年を見つめる。
「何のために?」
鋭い質問が少女の口から発せられる。
少女の不思議な緑色の瞳と相まって、有無を言わせぬ雰囲気を感じさせる。
少年はぐっと言葉に詰まる。
結局は諦めて少女に理由を話すことにした。
「その金竜草とか言う花が、どんな病にも効く万能薬だと聞いたんだ。だからその花なら僕の体を治すことが出来るかと思って探しに来たんだ」
少女は興味深そうに少年の話を聞いていた。
少年の話を聞き終わった少女は開口一番そう言った。
「それは何か勘違いをしているようだな。確かに金竜草は様々な病気を治す効能があるが、体を作り返るほどの効果はない。お前の日の光に当たると火傷する体質を治すことは、どんな薬草の効能をもってしても不可能だ」
「どうして?」
少年は淡々と話す少女に、むきになって噛みつく。
「それが自然の摂理だからだ。お前の体を治すと言うことは、例えば女である私が男に変ずるほど難しいと言うことだ。お前はその姿で生まれ落ちたのだから、その姿で生きていくことを自然によって定められた。お前がどう足掻こうが、その宿命は変わらない」
「なんだよ、それ」
何をわかった風の口を、と少年はよっぽど文句が言いたかった。
しかしここで少女の機嫌を損ねては、後々面倒なことになる。
少年は渋々少女の言葉に従った。
「わかったよ。それじゃあその金竜草を探すのは、諦めるよ。今夜は闇も深いし、家に帰って大人しくしているよ」
少年は少女に背を向ける。
元来た道を戻ろうとする。
「待て」
少女は少年の背に呼びかける。
「その金竜草は、確かにお前の体を治すことが出来ないが、代わりに様々な病に効くと言っただろう? お前はその金竜草が欲しくはないのか?」
少年はのろのろと振り返る。
「あれば便利だとは思うけれど、僕の体を治すことが出来ないのに、こんな広い山を夜に探せって方が無理だよ」
諦め半分で答える。
少女は少年に歩み寄る。
「私は金竜草の咲く場所を知っているぞ? こんな夜に神社を訪ねたお前の勇気を評して、場所を教えてやらないこともないぞ」
少年は露骨に嫌な顔をする。
「別にいいよ。特に今、村に緊急の病人もいないし」
「そう言うでない。本当は金竜草の場所は秘密中の秘密なんだぞ? お前に特別に教えてやろうと言っているのだぞ? 私が直々に案内してやろうと言っているのだぞ? こんなこと、滅多にないのだぞ?」
少女は少年の着物の袖をぐいぐいと引っ張る。
そう言えば、少女がどうしてこんな夜中に神社の境内にいるのか聞いていなかったが、今の少年にはどうでもよいように思われた。
少年はうんざりしながらも、少女に向き直る。