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  作者: 深江 碧
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そしてその薬草がとても見つけにくく、希少だということも。

 少年は逃げ出そうとする気持ちを抑え、ゆっくりと石段を登って行く。

 腰に下げた魔よけの鈴を握りしめ、上だけを見上げて歩いて行った。




 少年は生まれた時から、太陽の日の下で生きられない宿命を負わされていた。

 少年は生まれつき色素が薄く、肌も髪も真っ白だった。

 肌が白いため、極端に日光に弱く、日の光を浴びればひどい火傷を負い、昼間に外に出ることもままならなかった。

 瞳は金色に近い茶色で、生まれたばかりの少年を取り上げた産婆も腰を抜かしたほどだった。

 薬師の父は、まれにそういった子どもが生まれることを知っていたが、まさか自分の子どもがそうだとは思ってもいないようで、さすがの父もすぐには赤子を抱けなかったと言う。

 少年が生まれた時、父も母もとてもショックを受けたようだった。

しかし父も母もすぐに気を取り直し、生まれたばかりの少年をとても可愛がった。

 夜の世界でしか生きられない少年を哀れに思いつつ、精一杯育てようと決心したと言う。

 そんな理由から、少年は昼間は外に出られないものの、両親の愛情を一身に受けて成長した。

 同じ年頃の村の子どもたちが外で遊び回っているのを、少年は光の入らない暗い家の中から声だけを聞いていた。

 外に出られない少年のために、母は様々な話を聞かせた。

 旅先で出会った珍しい話、怖い思いをした話、人々の人情話など、母は様々な話を聞かせてくれた。

 一方の父は村人の診療の合間に、薬の練り方、薬草の見分け方、旅の間に収集した珍しい書物を読んで聞かせた。

 二人は我が子が昼間に外に出られない辛さや、友達のいない寂しさを紛らわせようとしてくれたのだろう。

 少年は両親の心遣いをうれしく思った。

 少しでも両親の役に立ちたい。

自分に出来ることをしたい。

 そんな少年の思いは日に日に強くなり、ある日両親の目を盗んで、夜に家を抜け出した。

 初めて目にする外の景色は、少年が想像していた以上に素晴らしかった。

 両親から外の様子は聞いてはいたが、草の匂いも、虫の音も、月の青白い光も何もかもが、少年には素晴らしいものに思えた。

 暗闇に沈む木々の緑も、月明かりに揺れるススキの穂も、良く手入れされた田んぼに実る黄金色の稲穂も、あぜの側を音を立てて流れる小川も、真っ赤に咲き乱れる彼岸花も、少年は目に映るものすべてが真新しく、輝いて見えた。

 少年は夢中になってあちこちを見て周り、気が付けば村の端までやって来ていた。

 ずいぶんと遠いところまでやって来たことに気付いた少年は、家に帰ろうと振り返る。

 その時山の端から朝日が顔を覗かせ、少年は驚いた。

 もう夜が明けてしまったのか。

 少年は慌てて家路をたどり始めた。

 村の中央にある家々の屋根に朝日が当たり始める。

 少年は半ば早足で家への道を急ぐ。

 山から差し込む朝日は家々の屋根を照らし、村の田畑を黄金色の光で包む。

 その神秘的にも見える光が少年にとっては害になることを、少年は知っていた。

 その光に短時間でも当たると、肌がひどい火傷を起こすことを知っている。

 少年は火傷の痛みを思い出し、ついには走り出す。

 まるで少年の背後から追ってくるように、朝の光が迫ってくる。

 少年は息を切らせて走る。

 朝の光はじりじりと少年との距離を詰めてくる。

 少年は汗だくになりながら、必死に家への道を急ぐ。

 あと少しというところで、少年はあぜ道にあった大きな石にけつまずく。

 あっ、と思った時には、少年は額を強く地面に打ちつけて、倒れていた。

 そこへ朝の光が少年を照らす。

 柔らかいはずの朝の光は、少年にとっては肌に差すような痛みを与える。

 少年はのろのろと立ち上がり、ゆっくりした足取りで家への道をたどる。

 額から血を流し、少年は痛みに耐えながら家へと向かった。

 家へ帰ると、両親はもう起きだしていた。

床にいない少年を心配して、外に探しに行こうとしていたところだった。

「どこに行っていたの、心配したのよ」

 少年の姿を見た母は、少年の体をぎゅっと抱きしめた。

「おでこに怪我をしているようだね。早く治療しないと」

 父がすり傷、切り傷に効く薬を持ってやってくる。

 母に抱きしめられていた少年は、家に帰ってきて気持ちが緩んだ拍子に目から大粒の涙がぽろりとこぼれる。

「お父さん、お母さん、ごめんなさい」

 少年は母の胸で泣き出した。

 母は少年の背中を優しく撫でる。

「外に出たいと言う気持ちが我慢できなかったのね。でも、夜に外に出る時はお父さんとお母さんに言ってから出かけてね。起きると隣に坊やがいなくて、お母さんたちとても心配したんだから」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 わんわんと大声を上げ、少年は母の胸にすがりつく。

「もう大丈夫よ。大丈夫だから。ほら、おでこに怪我をしているじゃない。お父さんに治療してもらいなさい」

 母は少年の涙を白布でぬぐいながら、父の方を向かせる。

「どれ、ちょっと見せてみろ」

 父はそう言って、少年のおでこの怪我の様子を見る。

「出血がひどいだけで、怪我の程度は軽いものだな。この塗り薬を塗れば数日で治るだろう。それに日に当たって火傷したところには、念のため火傷の薬も塗っておこう」

 父の作った塗り薬を塗り、少年は床に入った。

 布団に横になると、夜に外に出た時の興奮が蘇ってくる。

 まぶたを閉じると、夜に見た美しい景色が脳裏に浮かぶ。

(今度は、お父さんとお母さんに言ってから外に出よう。朝日が昇る前にはちゃんと家に帰って来よう)

 少年はそう心の中でつぶやき、安らかに気持ちで眠りに落ちた。

 それからというもの少年は両親に断り、度々夜へ出るようになった。

 最初の頃は父や母がついて来て、少年に様々なことを教えてくれた。

 植物の名前、動物の名前、月や星のこと、四季折々の自然のこと、山や川のこと。

 いつからか少年は父の手伝いをするようになり、様々な薬草の名前や効能を覚えていった。

 少年は父の代わりに夜の山に度々入り、薬草を探すようになった。

 薬の作り方や、治療の法も教えてもらうようになった。

 いつだったか父が苦笑交じりに言った。

「もしもお前が普通に日の光の下に出られるのなら、お前におれの跡を継いでもらったのにな」

 少年は笑ってごまかすことも、肯定することも、否定することも、何もできなかった。

「あなた、そんなこと言わないの!」

 母がたしなめたが、父の言葉は少年の心に棘のように刺さった。

 少年は自分の置かれた境遇を不幸だと思ったことはなかったが、不自由であるとは常々感じていた。

 もしも少年が普通の体だったならば、こんなにも日の光に怯えなくてもいいし、同じ年頃の子どもたちと遊ぶこともできただろう。

 村で子どもたちにどんな陰口を叩かれているか知らない。

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