火星行き、片道切符
アポロが月に行って百余年。人類は失敗と反省を繰り返し、科学を発達させてきた。
そしてついに火星調査団の一般募集が始まった。テレビもネットも気味が悪いほど宣伝している。十二名の狭き門だ。
俺も応募したが倍率はおよそ二万倍。とても無理だろうと考えてはいたが、なんと俺は調査団の一員に選ばれた。
俺がどうして火星調査団に応募したのか、話をしよう。ちょっと聞いていてつまんないかもしれないけど。
人類が躓きながらも進歩してきたのに対して俺はというと言うまでも無く酷かった。
大学は辞めた。就職したけどすぐクビになった。借金は重なり彼女に見限られ、親に縁も切られる始末だ。
もう何も失わない、ってのは俺のようなやつのことを言うのだ。
ところで夢と希望の溢れる人類の火星調査は片道切符らしい。
つまり火星に行ってしまえばもう二度と地球へは帰れないということだ。きっと、どうしようもなく地球が生きづらいやつや、宇宙の夢とロマンを求めてるような変人が応募したに違いない。
もちろん俺は前者だ。
昨日の晩、地球の英雄になることを家族や元恋人、古い友人に告げた。
これまで散々俺を見下し、見限り、絶望した連中が手のひらを返すところを見るのは本当に爽快だった。そうでなくては火星でのニューライフを人類のために頑張ろうという気にもならない。
「火星調査団一般部のみなさん、こちらへ」
科学者達に通され、俺や他の十一名が奥の部屋に入るとそこには大きなカプセルが人数分用意してあった。
身体検査をする装置だろうか?
にしてはデカすぎるのが気になるが、今回調査団に選ばれてから訓練なんかで宇宙開発の科学力のトンデモないところをいくつも見てきた。案外、人類の技術は凄まじい。
しかし出発まで時間が無いのに、これから新しい装置を説明するということは無いだろう……。
「それではそちらのカプセルに作業着を脱いで入ってください」
ここで脱ぐのか?と言う疑問はあったが、契約書に『全ての指示に従う』というようなものがあったのを思い出した。
結局、わけもわからぬまま、十三歳くらいの女の子や六十歳を越えていそうなお爺さんもいたが皆、お互いを見ないで脱ぎ始めた。全員がカプセルに入ると自動で閉まり、ロック音のようなものがした。
だいぶ時間が経った。確か今日の正午にロケット発射では無かったか?もうそろそろロケットに移らなければならない時間なはずだが……。時計も外したので確認のしようがない。
プシュー……という音と共に気体がカプセルに流れ込む。
急激に眠気が襲ってきた。麻酔でも入っているのだろうか?
嫌な予感がする。
待て、火星に行って帰って来ないってことは調査団に何があっても誰にもわからないってことじゃないか?
……つまり。
もし仮に火星に行くのは嘘で、本当は俺達が研究者どもにとって都合の良いモルモットになるのだとしても、もう誰にもわからないのではないか?
焦燥と睡魔で混沌とした意識の中、誰かが何かを言ったのが聞こえた。
「それでは、スタン……相対……実験……始します」
***
「たった今、火星行きのロケットが発射しました」
「そうか」
「それにしても素晴らしいアイデアでしたね」
「おっと、違うぞ。やつらは火星に行ったんだ。あのロケットでな」
「表向きは、ですね」
「本当に馬鹿なやつらだ。なんで火星の開拓に能無しの一般人が必要だと思ったのやら」
「だめですよ。彼らは人類のために頑張ってくれるんですから」
「カプセルの中でな」
初投稿でした。小説はちゃんと書いたことないので変なところあると思います。指摘していただけたらうれしいです
このサイト自体どうやって使えばいいのかよくわかってないので良かったら教えていただけたらなと思います