組織のお仕事4
その日から剛は、フリーラインスケートの猛練習を行った。もともと運動神経の良い剛はぐんぐんと腕を上げていった。
練習をはじめて一週間、剛はフリーラインスケートで時速35kmで乗りこなせるようになった。時速35kmでは、100m進むのに10.2秒かかる。100m走で10秒台を出せる人はめったにいない。ましてや動きにくい私服で10秒台で走れる人はいないに等しいだろう。時速35kmとは一般の人から逃げ切るには十分のスピードだ。
椛と鷹と約束した時間、22時は少し過ぎている。夏の夜、汗を滲ませながら急ぎ足で集会所に向かう。
「わりー、遅くなった。」
鉄のドアをぐっと引いて集会所に入った。椛と鷹はデスクに座ってお菓子を食べている。
「剛さん、待ってました。メールを見ましたよ。もう上手に滑れるようになったんですね。早速明日、作戦を決行しましょう。明日は日曜日なので最適です。」
「そうね、そろそろ報酬が欲しいわ。欲しいバッグがあるの。」
椛が目を輝かせる。光蝕では指令に応じて、行った行動や人に与えた影響などによって報酬が与えられる。光蝕のメンバーは与えられる報酬で生活しているのだ。一応はサラリーマンである。
「でもこの段ボールロボットを着てフリーラインスケートに乗るんだろ?今まで私服で練習しとったけぇよかったけど、段ボール着て上手く乗る自信はないわ。」
剛はどんと置かれたロボットを触りながら言った。
「この段ボールロボットは、動き易いように計算してつくってあります。なのでほぼ私服と同じように動けると思います。」
高畑はロボットの設計図を剛に見せながら設計図の説明をはじめた。それに対して剛は顔をしかめた。
「難しい事はよぉわからん。俺は言われた事をやるだけじゃ。明日、言われた通りにやってくる。じゃけぇ、俺がどう動けばいいか、そのへんを詳しく教えてほしい。」
椛と高畑は顔を見合せ、微笑みながら頷いた。それから剛がどう動けば良いか、ルートや時間などを話し合った。警察が話しかけてきた場合、ヒーローが現れた場合などを想定したシミュレーションも行った。作戦会議は日付がかわってからも続いていた。
そして、作戦を決行する時間、15時になった。