人違いじゃけぇ
「ぼ、ぼくは山根じゃない、高畑だ。人違いだ。だ、だ、だから家に返してくれ!」
恐怖で声が震えている。気づけば知らない場所にいて、知らない男と女が目の前にいる。恐怖心を抱くのは当然である。
「一度ここに入った奴を簡単に返す訳にはいかん。人違いでもなんでもええ。お前には選ぶ権利はないんよ。」
「命が惜しければ大人しくこの組織に協力することね。」
この『組織』とは何をしているんだろうか、強盗か?まさか殺人までやらされるのか?
「組織って何の…?」
「悪の秘密組織じゃ。」
やっぱりだ。『悪の秘密組織』という組織が良いことをしている訳がない。この組織に協力すれば、ぼくは犯罪者というわけか。もしぼくがこの人たちに協力すれば、もう一生ヒーローにはなることは出来ないだろう。しかしぼくにはもうひとつの選択肢がある。たとえここで死んでもいい。この人たちを倒す!
高畑はヒーローを目指している。その思いはなみなまならぬものだ。悪の秘密組織に協力するぐらいならと、ここで命をたつ事を決意した。
ソファーから立ち上がりながら、ふたりを殺気のこもった目で睨み付ける高畑。
「あーら、怖い顔。これでも見て落ち着いたら。」
女は人差し指と中指の間に挟んでいた紙を高畑に向かって飛ばした。ひらひらと前に落ちた紙を拾い上げる高畑。
「みきちゃん…!?」
「あんたの部屋の引き出しのなかにあったわ。あんた、その子がどうなってもよくって?」
みきちゃんは高畑と5歳のころからの幼なじみた。その明るい性格から男女問わず人気がある。地味で冴えない高畑のことも気にかけることかできる思いやりのある女性。友達がいない高畑にとって、唯一の心を許せる人であり、想いを寄せる女性だ。
「わかりました。この組織に協力します。しかし僕は何の役にも立てないと思いますが…」
みきちゃんを犠牲に出来るわけがない高畑は、しぶしぶこの組織に協力することになった。