時間制限があるから
しかしここでガイドブックが手に入らなかったのは痛いと百菜は思う。
けれどだからと言ってあの、本を操る敵との遭遇は避けたい。
「やっぱりレベルアップしないといけないかもしれないわね」
「そうだな、恋愛スキルを身につけて、魔性の女にまで上りつめれば、怖い物は無いんだろうけれどな」
「魔性の女って……まあ良いわ。それで次に弱そうな相手はいないかしら」
「……あの、“スリー・フラワーズ”という学園の美しき花々と呼ばれる男達、あいつらを倒すにはどう?」
それに浩斗は少し黙ってから、
「一人くらいは、百菜でも倒せるかもしれない」
「そう、どの子?」
「鮫島洋一、ワイルドな魅力の優男で、俗に言うチャラい男だ。そしてチャラいので、力関係は特に得意じゃない。だが……」
「だが?」
「女を口説くのに慣れているんだ」
「つまり言葉で攻撃するの?」
「いや、周りに女がいたら、付随能力である“口説く”で、傍にいる女の子達を戦闘要員として使えるんだ。理論上、ここの学校の女子生徒ほぼ全員を味方につけられる」
この学校に何クラス教室があるのかは分からない。
けれど100人は下らないだろうと百菜は溜息をついた。
「人海戦術で、そのまま押しつぶされそうね」
「そうだな……数の暴力は怖いぞ? 俺だって何人もの女の子に箒とかモップを持って追いかけ回されて、酷くて怖い目に……」
「彼氏を寝取っているんだから仕方がないでしょう」
「寝とってないよ! むしろ興味ないどころかお断りだよ! 俺は女の子と、女の子と……」
切なげに呟く浩斗だが、理由があれなので放っておく。
代わりに、周りに流れる音楽が変わり、現れるはノートとペンを持った集団……ではなく三人組だ。
ちょっとした恋愛ポイント稼ぎの弱い相手。
良く見るとすぐ隣の教室が文芸部の部室だった。
部室の前を通ると現れるらしい。
次からは戦闘がしたくなったら部活漁りでもするかと思いながら百菜は、
「とりあえずは雑魚を倒しましょう。全く、弾が足りなくなるのは面倒だわ」
「そうだな。購入できない状態にじり貧になる前に、少しは稼いでおいた方が良いかもしれないな。さてと、今回は弱小文芸部だから三人みたいだな。でも、気を抜くなよ?」
「もちろん」
そう答えて百菜は駆け出す。
軽やかな戦闘の曲が周りで鳴り響く。
士気を高めるには丁度いいと思いながら、火を吐いてミサイルのように飛んでくるペンを手持ちの機関銃をバッドのように振り回して叩き落とす。
落ちた場所で爆音がするが、その程度で一瞬その文芸部員の三人に好感を持ってしまうが、それを振り切り彼らの懐まで入り込む。
茫然とした彼らを見上げながら百菜は笑う。
「これで、お終いよ」
引き金を引き、こうして部員達を倒したのだった。
そして恋愛ポイントを手に入れた百菜だが、そこである疑問を覚える。
「何だか恋愛ポイントが多いような気がするけれど」
「レベルが上がったから貰えるポイントが増えたんだろう。最終的には弾を気にせず使えるようになるかも」
「それは良いわね。でもそれぐらいまで上り詰めるのはラスボス一歩手前じゃない?」
「確かに。でもそこまでいけば少しは楽だろうな」
「それとこんな風に突然襲い掛かってくる一般生徒は、どの程度の頻度で倒せばいいの?」
「んー、キャラぐらが同じ相手は、少しくらいなら復活していた気がするな。でも、時間に対してのコスパが悪いと思う」
時間制限があるからいつまでも、とはいかないたと百菜は舌打ちする。
そうでなければ延々と雑魚を倒して最大のレベルにしてから、倒しまくる方法もある。
そこで浩斗が、
「やっぱり時間を考えるなら、大物……メイン攻略対象をひねりつぶした方が良いかもしれない」
「となるとさっきのチャラい男ね」
百菜は先ほどの男を思い出して小さく笑う。
そこでふわふわと流れる音楽に百菜は眉をひそめる。
「この何処からともなく流れてくる音楽はどうにかならないかしら」
「ゲーム画面でなら、後三種類くらい変えられたか、無音も選べたはず」
「……何処にゲーム画面があるのか分からないから無理ね。いいわ、諦める」
音楽は気が散るが、仕様だから仕方がない。
そもそも前はこんな音はしなかったはずと百菜は思っていると、その先からゲーム部の男達が数名現れた。
そこでようやく百菜は気づく。
「なるほど、彼らが現れる寸前だから音楽が流れたままだったのね」
「……そこはゲームと違うな」
「そうなの? でも目の前の敵を倒す事には、関係ないでしょう?」
違いないと浩斗が答え、再び百菜は駆け出したのだった。
さて、新しく一般生徒を倒した所で百菜は思いついた。
「浩斗は男にもてるんだったわよね」
「……百菜、俺は嫌な予感がするのですが」
怖気づいたような浩斗に百菜は勘が鋭いわねと思いながら、
「女の子がいない所に、その鮫島君を誘い出して欲しいの」
「……百菜は駄目なのか?」
「私は、草むらか何かに隠れて暗殺出来るかどうか試してみたいの」
今まで一対一の戦いばかりしてきたが、彼らの見えない場所から倒してしまった方が楽だし安全だと百菜は思ったのだが、それに浩斗は渋る。
「多分無理だと思うけれどな、一対一の対決みたいな形になるし」
「やってみてから考えましょう、リスクは最低限にするべきだから」
「……嫌だけれど、仕方がないか。百合本のために俺も一肌脱ぐわ」
そう、浩斗が肩を落としながら告げたのだった。
pixivの方に投稿していた非公開を解除して、公開に変更しました。もともとpixivの方でやっていた賞への応募に投稿したものです。こちらで完結まで持っていき、あちらに移植しようかなと思っております。




