チョロインではない私!
彼の名前は、保険医。平野るい。白衣は特に意味はなく、武器(魅力)は注射器とメス。
「こんな所にいたとはな。私はついている」
眼鏡を人差し指でおし上げて輝かせる彼に、何故か周りで軽快な音楽が流れ始める。
何処にスピーカーがあるのか探してみるが、その発生源の特定は、百菜には出来なかった。
ついでに目の前に、銀色の枠で囲まれた、ゲームなどで表される体力のような表示と、上に魅力と書かれている体力と似たような表示が現れる。
今までの話から考えると、この体力がゼロになると恋に落とされて、この魅力のエネルギー化何かがこの武器の使える量なのだろう。
そこで浩斗が、
「百菜、武器(魅力)を取り出して攻撃しないと!」
「ははは、そんな事をさせるものか! 行くぞ!」
襲い掛かってくる白衣を着た保険医。
「貴様の心を奪ってみせよう!」
「……年齢的に何かに引っかかりそうな気もするけれど、深く考えないようにしよう」
そう言って、百菜の目の前に攻撃、防御といった画面が現れる。
その中で頭の中で武器を選択すると、百菜の腕の中に、持っているんだかいないんだかわからない機関銃のようなものが現れる。
それを容赦なく百菜は、引き金を引く。
大きな音を立てて、打ち込まれる球に、一気に保険医の恋愛のゲージが下がっていくが、
「貴様の力は効かん! 大人の魅力を教えてやろう!」
突然、その減少が止まる。
保険医の体から金色の光が溢れだし、同時に、その恋愛ゲージの上に、第二形態といった表示が現れる。
これはもう恋愛でも何でもないんじゃないか、という気が百菜はしなくもなかったが、こんな所でゲームキャラとの恋人になって元の世界に戻れなくなるのは御免だった。
だから再び機関銃を構えるが、
「遅い!」
保険医の動きが、先程よりも早くなる。
球は容易に避けられ、一つもかすりはしない。
後少しで倒せるのにと、百菜は舌打ちしながら振り注ぐメスと注射器の嵐を避けて行く。
けれどそのうちの一発が、百菜の腕に刺さる。
その時百菜は痛みを感じなかった。代わりに、
「このドキドキは何?」
「百菜、動きが止まってる! 早く避けろ!」
「……なんだろう、この気持……」
浩斗が、百菜を抱きしめてかばう。
同時に、防御を行って浩斗はかばう。
「防御のやり方を教えておかなかったのが不味かった。おい、百菜、大丈夫か?」
「……大人の男性っていいかも」
ぽやんと百菜はつぶやいて、確かに年上の大人だしカッコイイという気持ちにもなってくる。
そんな百菜に浩斗が、
「おい、起きろ! 正気にもどれ百菜! ……あのメスの方には、魅了で麻痺状態にする効果があるのか? えっと解毒法は……」
そんな焦って何かを浩斗だが、その間にも二人に保険医がゆっくりと近づいてくる。
「やはり子供はチョロいな」
ゲスい顔で笑う保険医。
こんな悪役な顔をしているのに、百菜にはそんな顔も素敵と思えてくるのだが……そこで。
「……百菜、明日までに戻らないと、アニメが見れないぞ」
「! それは困るわ! 続きが気になっているんだから、邪魔なんてするな!」
がばっと百菜が起き上がり、自分から近づいてきた保険医に機関銃を向ける。
それに保険医は驚愕して、
「馬鹿な、あれを喰らって起き上がるだと!」
「残念ね、消えろ、ロリコン野郎ぉおおおおおお」
百菜が引き金を引いて、球をぶつける。
至近距離の攻撃で、それを避けるすべのない彼は苦悶の声を上げながら……倒れた。
恋愛ゲージは完全に空になり、完全に彼は恋に落ちました、魅了ポイント追加しますという表示が浮かぶ。
「助かったわ、浩斗」
「いやいや、俺も戻りたいし。でもロリコン野郎は酷いと思う」
「でも心を落とすんでしょう? 私の年齢的に考えて……」
「因みに保険医を落とすと、仲の良いお兄さんとのお友達みたいな関係で終わるらしい」
「……ロリコンはひどかったかな」
「そうだな、これからは味方になるんだし、ロリコンと言わない方がいいかもな」
倒れた保険医を見て、百菜と浩斗は、記念すべき第一次戦闘を生き残れたと安堵する。
「そういえばこいつ、放っておいてもいいの?」
「多分。次に俺達が保健室に行くと、そっちに瞬間移動していると思う。友好的になっているだろうから見に行くか?」
「疲れたから今はいいかな。でもこんなのどれくらい倒さないといけないの?」
「レベルに合わせて挑んでくる相手や、挑める相手が変わるし、ライバルもいたはずだし、軽く10人以上はいるんじゃないか?」
「面倒くさいわ」
「でも倒さないと帰られなさそうだし、俺も協力するから頑張りましょう。百菜ちゃんに弱みも握られているしね」
浩斗がそう笑って百菜に手を差し伸べる。
それを掴んで百菜は立ち上がる。
こうして、百菜と女装少年である浩斗の乙女ゲー脱出のための戦いが始まったのだった。




