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思いつき短編集

戻りたい。あの大切な時間

作者: 棘田 清棘

これは【第十一回:持ち回り短編企画】peixe杯参加作品です

興味がある人はpeixeさんのマイページをご覧ください。

こんな底辺な作者だけでなくすごい人も参加してますので

 今日は3年間通った高校の卒業式である。

 特に大きな問題や、事件があったわけでもなく、ごく普通の高校生活だった。

 それなのに思い返すと感慨深いものがあり、複雑な気持であった。


 長い校長の話も終え、卒業証書ももらった。

 今は卒業生代表として宮野みやのれいが別れの言葉を述べている。

 あぁ、そんなに涙を浮かべやがって、それじゃあなんて言ってるかわからねぇよ。

 宮野には一度告白して振られてたなぁ。

 すでに彼氏がいるので付き合えません。もう少し早くに声をかけてくれたら付き合えたって。

 あれにはかなりのショックを受けたなぁ。

 おいおい、目の前にいる倉坪くらつぼ俊成としなりはそんなキャラじゃねだろ!?

 お前は俺が深夜アニメの話をしてたら馬鹿にしてきやがって、それがなんだ? いつの間にかお前の方が深夜アニメを見てたじゃねか。

 もっと豪快に笑ってろよ、そんな風に涙を浮かべる奴か?

 っち、小学校からの付き合いの春野はるの美紀みきなんて号泣じゃねぇか?

 あれ? くそ、俺はこういうのを馬鹿にして空気を読めって怒られる役目じゃねぇか、自分で泣いてちゃせわねぇな。


 いよいよ最後として、校歌斉唱だ。

 これが終わればいよいよ卒業である。


 高校生活。

 後悔したことはたくさんあった。

 宮野にもっと早く告白してれば、俊成とは一度すれ違いで大ゲンカしたことがあった。

 一度大切な書類を忘れて先生にかなり迷惑をかけたっけ。

 春野だって俺が原因で彼氏と大ゲンカしたり、犬塚や鳥居だって……

 後悔ばかりだけど楽しかった。


「また高校生を最初からやり直したいなぁ……」


 思えば口からそんな言葉がこぼれていた。


『その願い叶えてあげようか?』


 それは幻聴だったか定かではない。

 しかし、その少年とも取れるような少女とも取れるような声ははっきりと聞こえた。





「なーによ。こんなところで突っ立て、さては新生活に怖気づいたかぁ?」


「春野、そんなわけねぇだろ……ぉ?」


 反射的にそう返したが言ってるうちに違和感を覚えた。

 俺は今まで卒業式のために体育館にいたはずだ。

 それなのに今は校門前に突っ立ていた。


 今は椅子に座って次の校歌を歌うために身構えていたはずだ。

 それに春野もどこか変、なんか幼い気がするのだ。


 そして思い出した。


『その願い叶えてあげようか?』


 願いとはなんだ?

 願いを叶えてあげようということは何かを願ったはずだ。

 その声の前、俺はなんて考えていた?


『また高校生を最初からやり直したいなぁ……』


 つまりは……。

 俺の考えてることが真実だとすれば――


「おーい、出夢いずむ? 菊川きくかわ出夢いずむぅー?」


 春野が俺の目の前で腕を振っていた。


「いや、大丈夫だ。ちょっと立ちくらみしただけだから」


「ならいいんだけどね。先入学式行ってるよ」


 入学式と春野は言った。

 ならばと思い、校門の前に出されてる看板を見る。

 卒業式と書かれてたはずの看板には入学式と書かれていた。

 ポケットを探ると携帯が入っていた。

 しかしその携帯は3年前に使っていたものであり、日付も約3年前を示している。


 そうか、俺は3年前に戻ってきたのか……。

 全ての内容は覚えてないが、勉強内容や、これから起こる事件。

 さらには宝くじ……は当選番号とか覚えてないので無理だろうが、ヒット商品を飛ばす会社の株ぐらいならどこが上がるか分かる。


 なんだよこれ、すげぇ夢が膨らむじゃねぇか!

 もともと非現実的なことなどに憧れを抱いていたのだ。

 その非現実的なことを目の前にしてテンションが上がっていた。

 そして俺は意気揚々と入学式の会場である体育館へ向かった。




 前回の入学式では、心の余裕がなく新しい生活に緊張してガチガチだったが、現在はひどく落ち着いていた。

 そしてひたすら話を聞くのもつまらないので仲が良かった人を探すことにした。

 女子はしっかり真面目に聞いていたが男子の中では一部寝てるやつもいた。

 前回の時ガチガチだった俺がバカみたいだ。


 そして入学式が終わり、教師の指示に従い新たな教室に戻る。

 最初は名簿番号順であり、俺は8番で倉坪が9番であった。


「このクラスの担任になった神崎美穂です。皆さんよろしくお願いしまつぅね」


 見た目的にはしっかりした女性なんだが、初担任ということもあり緊張している。

 その証拠に今も最後の最後で噛んだ。

 俺は一年の最後の方に2年次の就学支援金の書類を忘れてあの時は大変だった。

 その時一緒に頑張ってくれてすごいまっすぐで熱心な先生だなぁと思った。


 さて、一年ということでこれからのことや学費などの紙が配られる。

 俺は某とあるゲームのスピンオフ作品だった魔法少女のファイルを使っていた。

 複数のファイルを持っていたがその時はこのファイルを使っていた。

 よく覚えている。なぜならこれが後ろの倉坪がオタクの世界に足を踏み入れるきっかけになったのだから。


 そして連絡事項も終わり、入学式のみってことでみんなが帰る支度をしている。

 神崎先生もすでに連絡事項も終わり職員室で他の教員に噛んだことを慰めてもらってるはずである。

 そうやって2か月後ぐらいに授業中の雑談でどの先生かは覚えていないが教えてくれたはずだ。


「おい、おれ知ってるぜ? それって深夜アニメだろ。お前オタクかよ、キモいわ」


 来た。

 できるだけあの時の会話を思い出しながらそのまま話す。


「深夜アニメってだけでオタク扱いかよ。知ってるか? 某少年誌だって深夜アニメやってるぜ? ゴールデンタイムや朝やってるのは社会的大人気の作品だけだろ。実写映画にもなった名前を書くと死ぬってやつも深夜アニメだよ。だから深夜アニメってだけでオタク扱いもおかしい」


 この時は中学卒業したばかりで妙に潔癖だったからオタク扱いは許せなかったのだ。

 今は許容できるし、オタクと言われてもその通りだと思うから問題ないのだが、こいつはいい奴なので仲良くなりたいし、アニメの話をする相手がほしいのである。

 相手が言葉に詰まってるさらに詰まっている。


「まぁ、一般的にこれはオタクっぽいアニメかもしれないけど……」


「なら――」


「でも」


 くい気味にさらに言葉を重ねる。


「お前は電車が好きなだけで鉄道オタク扱いするのか? 漫画ぽい絵を描いてるだけで漫画オタク扱いするのか? 野球見てるだけで野球オタク扱いするのか?」


「それは極論すぎだろ?」


「お前の言ってることも十分に極論だ。だから極論には極論で返しただけだ」


 それでも何か言いたそうにしている。

 次のセリフは決まっている。


「何か言いたいなら作品を見てからにして来い。オタクだろうがなんだろうが好かれる作品ってことはいいところがあるってことだ。それも分からずに批判だけしてるのは小学生がやることだ」


「そんなこと言うなら見てきてやるよ。そんでもって明日色々言ってやるからな! 覚悟しろよ」


 そう言って逃げるようにいなくなっていく。

 彼は律儀だから確実に見てくる。


「出夢ぅ、あんなこと言って大丈夫?」


 春野が話しかけてきた。

 この結末は知っているので、問題ない。

 奴は俺のファイルのアニメを見てきて、明日開口一番に「面白いな」と言うはずだ。

 だから


「大丈夫だよ」


 とだけ返した。


 そして翌日。

 俊成の第一声は俺の知っている通りになった。




 部活には入るつもりである。

 中高6年間卓球をやり続けたのでそのまま卓球を続けるつもりであった。


「今日は新入生の実力を見るためにランキング戦だ」


 そうやって顧問の教師が言う。

 別に強豪というわけではないが入ってきた者全員が少なくとも1年はやっている経験者なのでいきなり試合でも問題ないのだろう。

 俺はこの時は一年の中で半分ぐらいという可もなく不可もなくという順位であったはずだ。


 まず俺が当たったのは小学校から卓球を続けている鳥居である。

 小さいころからやっていることもあり、一年の中では一番強かった。


 試合は始まり相手のサーブはまともに返すことができずにどんどん得点を重ねられた。

 だが、俺はいくつかの違和感を覚えた。


 ひとつ、相手が想像していたよりも弱かったこと、強いのは強く、俺では手も足も出てないのだが……。

 ふたつ、自分の体がいまいち動きにくいこと、主にそれはイメージに体がついてきていないのだ。

 1セット目が取られ、2セット目のサーブ中に考える。

 おそらく一つ目は3年後の強さで考えてしまっていたのだろう。

 二つ目は3年後の体と今の体は結構変わっているのだろう。

 その試合は3-0で一セットも取れずに負けたが、今の試合でだいぶ今の体に慣れた。


 その日の結果は3勝2敗であり、その2敗は3年のレギュラーの人と鳥居の二人だけなので十分な戦果と言えるだろう。

 どうも6年間やっていた動きが脳に蓄積されていたようだった。




 それから3か月が過ぎ、7月となっていた。

 俺は宮野に告白するつもりである。

 聞いた話では宮野は2年になる前に告白されてOKを出したそうだ。

 それまでは彼氏がいたという話を聞かなかった。


 宮野のメールアドレスは既に交換済みであり、学校の人気のないところに呼び出してあった。


「すぅーはぁ―。すぅーはぁー……」


 心臓がバクバクなり、頭が真っ白になるのを深呼吸して無理やり押さえていた。


「あっ、菊川君……」


「よう」


 俺は平然を装いつつ返事を返した。

 って、こんなことを言いたいんじゃねぇんだろ。


「あのさ、宮野さん」


「はい……」


 俺の雰囲気を察したのか真剣な宮野も顔になった。

 これでいかなければ男じゃない。

 覚悟を決め、目の前に手を差し出す。


「俺と付き合ってください!」


 一度断られたこともあり、宮野があの時お世辞で言ってないとすれば成功するであろう告白も断られそうで怖かった。


「春野さんと付き合ってるわけではないの……?」


 春野とはよく一緒にいるがそういう関係ではなく、それは春野に彼氏がいることからも証明できる。


「春野とはただの腐れ縁です。付き合ってません」


「私はおっちょこちょいで何の取柄もないよ?」


「そんなことない。俺にとってはすごい魅力的だし、本気で付き合ってほしいと思う」


「菊川君は頭もよくて、運動もできて、人望もあるから私よりもいい人見つかるよ?」


 俺の頭の良さも運動も人望も一度高校3年を過ごした記憶があるからだ。


「そんなのは関係ないし、宮野よりも魅力的な女性は思いつかない!」


 俺は頭を下げ、手を突き出した体勢でずっと宮野の返事を待つ。

 そして突き出した手に柔らかい感触が来る。


「私こそお願いします。私と付き合ってください」


 俺が顔を上げるとそこには照れくさそうに笑っている宮野がいた。

 最高にかわいかった




 さらに3か月が経った。

 つまりは約半年である。

 勉強も3年までの記憶があり、テストの難しい問題も印象に残った問題などもあり好成績を残していた。

 宮野と関係は進み、順風満帆な日々を過ごしていた。

 運動も一年で鳥居と一緒に1年でレギュラーを張っている。


「なんか違う……」


 そう、なんか違うのだ。

 春野や俊成との大ゲンカも回避し、高校の時の記憶から神崎先生に迷惑をかけるわけでもないだろう。

 周りとの関係も嫉妬を除けばすごいうまくいっている。


 だけどなんか違うのだ。


「そう、俺じゃない……」


 そう、それだ!

 俺はこんなに勉強できなかったし、運動もできない。

 彼女もいなかったし、優等生でもなかった。

 周りとの関係もここまで順調じゃなかった。


 この凄い人物は俺ではない!

 いや、俺でもあるのだろうがそれでも俺はこんなにできる人物ではない。


「本当の俺は元の時間の俺だ……」


 そう呟いた時俺がいた世界は上下左右全てが真っ白に包まれていた。


『それは元の時間に戻りたいってこと?』


 その声は最初に聞いた声であった。

 そして突然のことに混乱している状態でもその返事は決まっていた。


「戻れるならもどりたい」


『本当にいいの? いまなら完璧ともいえるさっきまでの時間のままでいれるよ?』


「本当の俺は元の時間の俺だ」


『今の時間の君は本当の君じゃない?」


「言葉に表しにくいけど今の時間の俺だ。俺は、いや、人間はすべての経験からできている。つまりは今の時間の経験を含む俺も本当の俺だ」


『なら今の過ごしやすい時間の方がよくない?』


「いや、俺を構成するのは俺自身の過去だけでなく周りと築きあげた時間もだ。そして最初に築きあげた時間こそ俺本来の姿なんじゃないのか?」


『そこまでの意志があるのならあの卒業式の時に戻そう』


 その声と共に俺は卒業式の席にいた。

 相変わらず宮野も春野も俊成も全員泣いてる。

 頬に伝わる涙もそのままだった。


『それでは校歌斉唱です。皆さんご起立ください』


 司会がそのようなアナウンスをする。

 今まで見ていた別の時間軸は夢か本当に戻ったのかはわからない。

 しかしその経験も俺を築く大事な経験となった。




「それにしてもそこまでの意志があるならってなんだよ。元々そのつもりだったくせに……」




 俺は誰にも聞こえない声でつぶやき、最後の校歌を歌うために立ち上がった。

戻り「たい」。「たい」せつな時間

「タイ」ムスリップなど色々たいを使わせてもらいました

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いい話なんですが……、誤字やらなんやら多くて、ちょっと、そこが気になってしまうというか……。 最初の方に出て来た校歌合唱が最後の方は校歌斉唱に変わっているし(たぶん、斉唱の方が正しいか…
[良い点] ・主人公がイイ男。 イイ男キャラってなかなか難しいと思うんです。 [一言] 葛藤の部分が少々、あっさりしているかなとは感じました。その辺り、竹を割ったような判り易い好漢主人公では、さじ加減…
[良い点] すんなりと入り込め、とても読みやすいなという印象でした。 タイムスリップしながらの主人公の心理変化がわかりやすかったです。 [一言] はじめまして。 シンプルな文章なのに要点が明確で、どん…
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