第8話 あの人形に疑いを
「殺人事件があった日に、教室に殺人犯が来るなんて出来すぎてると思いませんか?」
何故だか分からないが、聖のその言葉はやけに頭に響いた。
「はは…。何言ってんだよ。犯人が来るのなんてあらかじめ分かるわけないだろ?」
俺は逆に質問してしまった。
「そうですね。少し整理しましょうか。」
聖は下駄箱にもたれかかった。少し長くなりそうだ。
「今日、枕谷先生から、殺人事件の事を聞きましたよね?」
「あぁ、聞いたな。」
「すぐ下校しろと言われたはずです。どうして、桐沢さんと教室に?」
桐沢とは亜門のことだ。
「すぐ大辻と帰ろうとしたんだが、駐輪場で鍵が無いのに気づいて教室に戻ったんだ。そうしたら、たまたま亜門がいて、たまたま、犯人が入って来たというわけだ。」
間違ってはおるまい。
「その話、おかしくないですか?」
いちいち、うるさい奴だ。最近の俺は『急』と『たまたま』が多いんだよ。
「いいですか?今日、僕が雪村君に忠告しましたよね?」
おそらく、朝の会話のことだろう。適当に相打ちをうっておく。
「失礼ですが、あれから雪村君を監視してたんですよ。一度も席を立っていませんよね?そして、鍵を落とした所も僕はみていません。」
「なるほど…。確かに、見落としがなく、お前が言っていることが本当ならば、俺はいつ鍵を無くせるんだ?」
何故だろう、だんだんと追い詰められている気がする。
てか、監視されていた事はスルーしている俺は偉いな。
話しているせいか、聖は目だけ笑っているようにみえた。
なんだか、中を見られている気がする目だ。
「鍵を無くせる時間は、つまり…。学校に到着して、僕が君の席に行くまでの時間と言うことです。そして、床に落としていたのなら、僕が気づきますし…。雪村君でも分かるでしょう?」
だんだんと嫌な気がしてくる。というか、そこまで来ると思い当たる節がある。
頭の中で何か、警告音が響く。
「じ、じゃぁ、いつだってんだよ!」
つい声を荒げてしまった。
「桐沢さん…。前の休憩に雪村君の席まで行ってますよね?」
体に悪寒が走るのが分かった。そうだ、さっきから感じていた感じはコレだったんだ。
否定しろ!頭の中で、何かが叫んだ。
「教室に着く前とか、駐輪場に行く間とかに落としたかもしれないだろ!?」
自分でも苦しいと思う。しかし、そうであって欲しかった。
聖は軽く頭を振るとつづけた。
「いや、それはないですよ。雪村君が一番分かってるんじゃないですか?」
聖の目だけが、異様に浮き上がって見えた。
確かに…。俺が教室に戻ったとき、亜門は俺の机の前にいた。
俺が戻ってくるのを分かっているかのように!
「鍵…探してるの?」と言った。
俺が戻ってきた理由が分かっているかのように!!
亜門が目の前にぶらさげた。
亜門が持っていたかのように!!!
「は、ははははははははは。嘘だよな?」
心の中では叫びたかったが、口からは渇いた笑いしかでない。
「俺に何か話すために、鍵を取っておいたのならまだ分かるけど、犯人が来ることまでは分からないだろ!?」
「さぁ、そこまではチョット…。」
聖は、貼り付けた笑いに戻っていた。
嫌な汗が噴出したように、背中はじっとりと濡れていた。
「ただ…。」
聖は続けた。
「桐沢亜門には気をつけろ…。と言うことです。」
「あ、あぁ。そうだな。」
その一点だけは頷けた。
結局、真相は謎のままだ。のどの奥に魚の骨が刺さったような感覚が続いている。
その時、とっくに帰ったと思っていた女神が後ろを向いたまま立っているのに気がついた。
聞いていたのか?
「さて、そろそろ帰りましょう。もう、随分と暗くなってきてますしね。」
聖は、軽く言ったが、俺の気分は少しも晴れていなかった。
「女神さん。帰りましょうか?」
聖が歩き出した時、女神が振り返った。
「相良君。マタアシタ。」
はい、こんにちは。天地 袋です。
今回は、どうでも良いことを、1話かけて解いています。
最近、あとがきは内容のこと書けばいいんだと気づきました。
最後になりましたが、読んでくださった方ありがとうございました。