第10話 何も知らない 前編
黒い景色に白い絵の具のようなものが落ちた。
ツーっとそれは下に垂れて白い線に変わっていく。
ボーっとそれを見ていると、白い線の部分が広くなっている。
鎌だ。
そう気付いた時には、俺の首に鎌が当てられていた。
「相良君…。待ってたのは、死んでもらおうと思ったから…。」
後ろだ。後ろに亜門がいる。
動くどころか少し声帯を震わせただけでも、俺の喉は裂けて鮮明な赤が黒の世界を包むだろう。
こちらは動かなくても、あちらが動くんだった。
鎌に力が入るのを感じた。
※ ※ ※
うわああああぁぁぁ!!!!
俺は、凄まじい倦怠感と疲労感に包まれていた。
体中、汗でベトベトする。
俺のベッドはもはや、床上浸水。
我ながら、細い神経だ。
「寝オチかよ…。」
ほとんどの人々の意見を代表するかのように、自ら声に出して言ってみた。
しかも、落ちきれてないじゃないか。
気分は優れないが、女神に「また明日ね」と微笑まれては行かざるを得ない。
しかし、桐沢亜門には注意しなければならないだろう。
いざとなれば、こちらには『黒蝶雪村』という日本刀がある。
その”いざ”が来ないのが一番良いのだ。
いざの時、俺は刀で亜門をどうしようと言うのだろうか。
自分でもこの発想は怖いと思った。
※ ※ ※
カラカラ…。
安っぽい音をたてて扉は開いた。
いつもと変わらぬ教室だ。
席に着く間、女神、聖、亜門の視線にさらされたが、女神が軽く手を振った事により、席に着いてからは、男達の”肩パン”にさらされてしまった。
左の肩が異様に痛いと思ってみると、大辻が絶えることなく拳を突き出しているではないか。
軽く顔面に一撃入れて大辻を黙らせた。
こうしてみると、昨日、殺人犯と争ったのが嘘のようだな。
しかし、次の瞬間、俺の背筋が凍った。
「こんにちは。雪村君…。綺麗な朝ね…。」
第三次桐沢亜門襲来!
はい、こんにちは。天地 袋です。
私は、話の書き出しに困ります。
だけど、気にしないフリをして、走り出します。
だから、すぐ迷子になります。
最後になりましたが、読んでいただいた方ありがとうございました。