第9話 安っぽい影絵 次話
秋の空は澄んで、いつもより高く感じられた。
金木犀がいつもの通学路を、金色に染める。
妹が小学生になって数ヶ月、俺達は毎朝一緒に登校していた。
妹は道路に広がった金木犀の花びらをさらに撒き散らしながら、小学校までの旅路を進行していた。
「くじら兄ちゃん。」
不意に妹がこちらを見上げた。
「どうした?ついに道路を著しく汚したことに気がついたのかね?」
「何いってんの?」
軽く流された。
「最近、蛍雪兄の帰り遅くない?」
相良蛍雪。俺の兄貴で高校生だ。
「ふふふ。野暮ったいぜ妹よ。」
俺はどうでも良かったが、不敵な笑みを浮かべた。
「兄貴も高校生。色恋沙汰の一つや二つ、あったって何らおかしく無いんだぜ?」
年上ぶるためにテレビの知識を並べあげたが、自分でもピンときていない。
妹は、よく分かってないようだったが、それで良いと思った。
※ ※ ※
学校の授業はまったく面白くない。
まったく分からないからだ。
本当に来年から中学生なのか、自分でも不安になる。
逃げるように家に帰っても、親父の修行が待っているし、俺の逃げ場は蛍雪兄ちゃんの部屋だけだ。
しかし、最後の頼みも、兄貴の帰宅時間がめっきり遅くなったがために、完璧に消滅してしまった。
兄貴がどこで何をしようが、俺には関係がないが少しおかしな点もあった。
弟の欲目かもしれないが、兄貴は俺と正反対の顔立ちで優しい顔をしている。それなりに整った方だと思う。
だけど、兄貴は彼女を作るタイプじゃないのは分かっていた。
いつも笑っているように見えるが、あれは今を見ていない目だ。
その内面だけは、俺と似ていたから俺には分かっていた。
もちろん、自分が子供なのは自覚しているから、俺のことも兄貴には筒抜けだろう。
ただ、違うのは、俺には見るものが無く。
兄貴には、見るものが有る。
ソレを理解している分、兄貴とは接しやすかった。
お互いの領域が分かっているから。
蛍雪…。兄貴は今。
何見てる?
はい、こんにちは。天地 袋です。
次回の投稿は本編に戻る予定です。
最後になりましたが、読んでいただいた方ありがとうございました。