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白砂家の事件簿  作者: 白砂律子
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第一章 通則

生真面目な律子は、最初からページをめくっていくことにした。

必要なところだけ拾い読みした方が効率が良いという考え方もあるようだが、そうできない融通の利かない性格である。


第一編 総則

   第一章 通則


(趣旨)

第一条  民事訴訟に関する手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。


(裁判所及び当事者の責務)

第二条  裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。


(最高裁判所規則)

第三条  この法律に定めるもののほか、民事訴訟に関する手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。


「ここで、よく出てくる判例は…」

2条の、いわゆる"信義則"に関する判例である。


●最判昭63.1.26・百選36 事件

事案:前訴で勝訴し確定判決を得た前訴被告Xが前訴原告Yに対して、前訴の提起が不法行為に当たると主張し、前訴弁護士費用の賠償と慰謝料の支払いを求めた。

判旨:民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である」とした。


「えーっと。権利の濫用が争点になってるから、"信義則"に関する判例になるのね。権利の濫用じゃないよって判決ね。」

独りでブツブツ唱えた。

「勝訴した人が、相手方に対して訴え提起が不法行為に当たるから、カネよこせって訴えたってわけね。で、本件の訴え提起自体は”訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるとき”にはあたらないから、違法じゃないよってことで…棄却」

棄却?

棄却って何だっけ。。。

負けってことだと思ったけど。

慌てて本のページをめくる。

民事訴訟は、原則として、第一審→控訴審→上告審、の3審制である。

再審というものもあるが、一定の場合に限り認められている確定判決に対する不服申立方法であり、これは例外と考えた方が良さそうだ。


この判例は、"最判"つまり、最高裁判所判例、なので、上告審に当たる。

「上告審の終わり方には、上告却下(317)・上告棄却(319)・破棄差戻し(325)・破棄移送(325)・破棄自判(326)、があるのね」

「"却下"・"棄却"は、訴えた側が負けってことね。棄却って言葉は控訴・上訴・再審のときにしか使わないみたいだわ」

"却下"は頻繁に出てくるが、"棄却" は控訴・上訴・再審のところにしか出てこない。

「"破棄差戻し"は、前の裁判所の判決を破棄してその裁判所でもう一度審議し直しなさい、"破棄移送"は、前の裁判所の判決を破棄して前の裁判所ではないけど同等の裁判所でもう一度審議し直しなさい、"破棄自判"は、前の裁判所の判決を破棄して最高裁が判決を下すってことね」

最高裁判所の判決文中では、第一審裁判所のとこは"第一審"、控訴審裁判所のことは"原審"と表現しているようだった。


●最判昭51.3.23・百選42 事件

判旨:本件売買契約の無効、取消、解除の主張を撤回し、右売買契約上の自己の義務を完全に履行したうえ、再反訴請求に及んだところ、その後に上告人は、一転して、さきに自ら否認し、そのため被上告人が撤回した取消、解除の主張を本件売買契約の効力を争うための防禦方法として提出したものであつて、上告人の右のような態度は、訴訟上の信義則に著しく反し許されないと解するのが、相当である。


●最判昭53.7.10・百選31 事件

判旨:被上告人は、相当の代償を受けて自らその社員持分を譲渡する旨の意思表示をし、上告人会社の社員たる地位を失うことを承諾した者であり、右譲渡に対する社員総会の承認を受けるよう努めることは、被上告人として当然果たすべき義務というべきところ、当時Dと共に一族の中心となつて上告人会社を支配していた被上告人にとつて、社員総会を開いて前記被上告人らの持分譲渡について承認を受けることはきわめて容易であつたと考えられる。このような事情のもとで、被上告人が、社員総会の持分譲渡承認決議の不存在を主張し、上告人会社の経営が事実上I夫婦の手に委ねられてから相当長年月を経たのちに右決議及びこれを前提とする一連の社員総会の決議の不存在確認を求める本訴を提起したことは、特段の事情のない限り、被上告人において何ら正当の事由なく上告人会社に対する支配の回復を図る意図に出たものというべく、被上告人のこのような行為はI夫婦に対し甚しく信義を欠き、道義上是認しえないものというべきである。

ところで、株式会社における株主総会決議不存在確認の訴は、商法二五二条所定の株主総会決議無効確認の訴の一態様として適法であり、これを認容する判決は対世効を有するものと解されるところ、右商法二五二条の規定は有限会社法四一条により有限会社の社員総会に準用されているので、右社員総会の決議の不存在確認を求める被上告人の本訴請求を認容する判決も対世効を有するものというべきである。そうすると、前記のように被上告人の本訴の提起がI夫婦に対する著しい信義違反の行為であること及び請求認容の判決が第三者であるI夫婦に対してもその効力を有することに鑑み、被上告人の本件訴提起は訴権の濫用にあたるものというべく、右訴は不適法たるを免れない。


この2つの判例は、権利の濫用を認めたもののようだ。


はー。

ふと、顔を上げる。

これだけで2時間近く経ってしまっていた。

先が思いやられるわね。


でも、こうやって噛み砕いていくと、わかっていく気がする。

もしかしたら、得意科目になるかもしれない。

「ヨシ、頑張ろう」

律子はページをめくった。

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