事件の前触れ
「お父さん、お義兄さんから手紙が着てますよ」
律子は、母親の声で目覚めた。
今日は土曜日。
大学に行かなくて良い日だ。
目を開けると、日光が眩しい。
快晴のようだ。
今日は何しようかなー。
伸びをして、着替えを始めた。
白砂律子は大学2年生。
K大学法学部に通っている。
別に法律家になりたかったわけではない。
父親は大学教授、母親はパート、10歳年上の兄は医師をしている。
法律とは無縁の家庭環境だ。
そこそこ勉強はできたが、物理が苦手なので文系に進み、その中でそれなりの偏差値の法学部を選んだだけだった。
偏差値から学部が決まったようなものである。
でも、法律系なら資格がいくつかあるので、いざとなったら資格を取ろうとは思っていた。
大きな会社に就職できても安泰ではない世の中である。
つぶしのきく学部を律子なりに選んだつもりだった。
朝食をとろうと、1階に降りていくと、神妙な面持ちで手紙を読んでいる両親がいた。
「どうしたの?」
「あぁ…」
父親は上の空のようだ。
手紙に集中している。
律子は放っておくことにした。
父親がこうなると、何を言ってもこっちの世界に戻ってこない。
集中力なのか何なのか。
律子が生まれたときからそうなので、慣れっこである。
「ご飯食べて良い?」
とりあえず、母親に話しかける。
「はいはい。今準備するわね」
母親は、律子の朝食準備に取り掛かってくれた。