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丘陵のさき 世界の先  作者: 玲於奈
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入国審査

自伝的、完全オリジナル小説。

いよいよ男が旅立ちます。

吉岡 純  英語のてんでだめな大学生 運だけで生きる男


深谷 博  深谷財閥御曹司 大学のオリエンテーション合宿で純と同部屋

      父 某キャリア官僚 趣味 マラソン 家庭教師さんぺいTに幼少より習う


さんぺいT 元大手電機会社勤務(社員教育) 元大手教育出版社勤務(英語教材の開発) 

      ながらく深谷家の家庭教師を務める 日本英語指導助手会議 創立のメンバー

      カトリック教会との関わり大

      

はっちゃき 純の学友 遊園地マニア 実家は下町の花火一家 母を幼少時に亡くす


オハラ   純の学友 はっちゃきと同高校 はっちゃきにいじめから救ってもらう

      父 フランス人 横浜 貿易会社勤務 母は日本人


神主さん  名前 斎藤 堅 純が行き倒れそうになるのを救う 下宿先の大家

      妻 洋子 小4 剛 中2 幸子 純が家庭教師、神社の下僕も勤める


「I want to entar UK.」


たどたどしい英語で何度訴えても、細面の鉛筆のような係官は全く顔色を変えない。

こちらは泣きそうだというのに・・

どんどん私の脇を人がながれていく。

入国審査

私は、ここから飛行機を乗り換えスコットランドを目指す。予定なのだが、入国できない。

滝先輩の予感的中。日本出発間際、私と入れ違いに日本に戻ってきた滝先輩。4年も音楽を

勉強していたらしい今から何年か前のバブル世代。軽音楽部でブイブイ言わせていたと風の

噂で聞いた。

会ってみたら風貌がなんとも形容しがたい、アフリカ系の髪飾り。小柄、サングラスが恐い。

意を決してアポイントをとり、話を聞いた。


音楽棟の学生部屋でソファに座りながらじろりと私を睨むと一言

「イギリスの入国審査はきびしいぜ」

「他国の学生は、イギリスで不法労働する」

「やつらはそう確信しているね」


笑いながら言う。笑うと人なつっこい感じだ。

「俺は、金はもらわなかったが・・」


根氣強く話を聞けば、大学近くのパブでよく演奏させてもらったらしい。

まわりの客からビール攻めだったそうだ。

私が写真を専攻するというと、さらに破顔し街のカメラやでの写真現像の手続きについて

教えてくれた


滝先輩、最後に一言

「俺は入国でかなり苦戦した。ぜひ大学入学許可書を学生課に用意させな」


そしてその切り札。こうなることを予想しての許可書、もちろん英語


私にとっては重みのある書類をみてもそっけない

切り札が切り札にならない

「連絡するので待て」

私は犬か。おあずけをくらって時間だけが過ぎる。飛行機の時間がせまるのに関係なく待たされる。

待合いに座り、ちょっと寝そうになりながらあわただしかった今までが思い起こされる。


下宿先の神社。家族総出で引っ越しの手伝いをしてくれた服や日用品はすべて送る。

船便が安いと聞いて梱包を丁寧にしてくれた。その荷造りを眺めながら思ったのは外国に行くと

いうことは大変なことだ。そうひしひしと実感した。

銀行から引かれる口座などの整理。某国営放送は本当に外国行くんですかと電話だけでは対応できず。

おりもおりだったからか。さらに、輪をかけて役所での手続き。煩雑だ。本当に疑うことから始める

かのような氣配。なぜ、そこを問う。重箱の隅をつつく質問が続く。やっとこ手続き完了。

これで、日本人でなくなるかのよう。書類によって日本人がいったんストップになる。異邦人なの

だろうか。どこの国の者なのだろうか。


つづいて深谷情報網で大学の人々へ、売る物はそんなになかったが

留守番電話、冷蔵庫、テレビなど電化製品はお金に変わった。

買いたたかれたか?そんなことはない。餞別の意味もあったのだろう。

さらに、おまけで深谷は留学して前期試験が受けられなくなるので各教授に丁寧に根氣強く

何度も当たってくれた。そのような律儀な人当たりのよい深谷でさえレポートのおみやげ付きとなる。

しかもどういう情報網か。どこからか面接の一件を聞き及んで、

まあとにかく頑張ってくれみたいな感じも

何人かおられたそうだ。

ところが大学を去る最後に意味深に、深谷

「純、これからは教務も、学生課も信用するな」

おいおい、何かあったのか?はてなが多数点灯して去っていったが

最後に義理を欠きっぱなしのあの人に引き合わせてくれた。


そして、その日はやってきた下宿先の神社に大集合。まさに初詣状態。

はっちゃきとオハラが駆け寄る。

聞けば、花火大会 会場からまっすぐだそうだ。時期的にそのはず。

今は、8月上旬 花火大会 真っ最中というか。1年の稼ぎ時。というか、これを逃すと、倒産だ。

今日は千葉の大会から洋上プラットホームを通って駆けつけてくれた。なにはともあれ近場でよかった。

はちゃき、戦友のように「元氣でな」「オハラと遊びに行くからそれまで耐えろよ」

なぜか、インスタントラーメン一袋。手渡すな。

オハラ「ぜひ私の実家を訪問してくださいね」

フラン硬貨を1枚くれた。何かのおまじないか。


次々と参拝客もとい見送り人。ありがたやありがたやこんなに応援してくれるとは

最後に、我らが神主の斎藤ファミリー。私の教え方が悪かったか。あまり勉強の出来はよくなかったが

剛と幸子は大泣きだ、子どもの涙には弱い。

剛「あんちゃん、イギリスの☆になれ」折り紙で☆を折ってくれた。死ぬんかい。

幸子「私より美人のブロンド美人連れてきなさいよ」最後まで高飛車。

奥さんの洋子さん「これ持ってって」見れば甚兵衛と、げた、扇子。

「日本の心を見せてください」ありがたく頂く

最後に神主さん「おまん、やりおったなあ」昨日も近所の人やらを呼び盛大に壮行会。

大いに飲んで最後は泣いていたが、またまた今日も号泣。

「神さんに飾ってあった御神酒じゃ、きっとおまんのこと、見守ってくれるきに」

どうして御神酒かと思ったがありがたく受け取る。しかし勝手に持ってきていいんか。

「日本男児の男氣みせてやれ」結局、みんな最後はそれなんですね。

神社の境内を神主さんに肩をだかれながら道路に向かってすすむ。

道路には一台の車。深谷が待っていた「さあ、行ったるか」

後部座席に乗り込めば思わぬ人が後ろに控えていた。さんぺいT。

思わず深く頭を下げる。

後ろから手を振ろうとすれば、「誰じゃあ」結婚式じゃないんだから空き缶付けるのやめよ。

それにかまわず、すごい音を鳴らしながら発進。後ろは大爆笑なんだか、大号泣なんだか。

入り乱れて、こちらも思わず涙がこぼれた。

途中のコンビニで、缶をはずす。そこからは、さんぺいTの運転。運転には自信があると言って

いたっけ。そして、迷わず常磐道。どんどん北上。なぜ?成田に向かわない。

そして知った。行き先は、成田でなく大洗。氣が抜けたように

チケットを深谷に任せたからか・・

大洗。日本最後に、深谷の願いをかなえるためだ

北海道縦走1週間。日本を離れる前の最後の孝行。誰の孝行じゃい。

深谷もなかなか粋なことをする。


さんぺいT。運転に集中し何も話さない。だからこちらも話さない。我慢比べのよう。

トラックで混み合う常磐道を北上する。午後のまどろみの中、ひたすら北上。

途中量販店で食料やら買い込む。


そして、夕暮れに、突然港に岸壁が。壁かと思ったのは大きな船。

いやはや、あそこから飛び降りたら助かるまい。そんな高さだ。まさに絶壁。

8月は北海道に渡る人々のピーク。車。バイク。徒歩。おもいおもいの形で乗船。

それを横目に、黙っている。さんぺいTは何も話さない。深谷が乗船手続きに行く。

二人きりの無言。氣まずい。


深谷が向こうから走ってやってくる。

乗船のようだ。「これを頼む」さんぺいT、私の手に紙袋をのせる。

放送が間もなく出航時間。乗船の方はお急ぎをと告げている。急いでフェリーに乗らなくては

いけない。何か、何かをさんぺいTに何か言わなくてはいけないのだが言えない。

もう行かないと深谷にせつかれて、船への連絡デッキへ。

そして、エレベーターを駆け上がるようにして甲板に。

甲板では人々がおもいおもいの様子。出航のドラもじゃんじゃん鳴っている。


そして、さんぺいT。港にいる。小さい。しかしながら渾身の力で何か叫んでいる。

ドラの音、船が離れるために岸壁にたたきつける水流で聞こえない。

急いでもらった袋を開く。テープがある。泣きそうになる。

一生懸命、さんぺいTに投げる。テープは届かなかった。心の中でありがとうございます。

そう言って深々と頭をさげる。

「できるかぎりのことはしたからなあ」

さんぺいTがそう呼びかけているようだ。

深谷も後ろで見守ってくれた。目に涙が浮かんでいたのは氣のせいか。


日本を離れる。その想いがよぎる。

外海に出た。遠く明るい東京方向で花火があがる。

はっちゃきか。花火のどーんという遠い音がする。

ありがとう、みんな。訳もなく涙が流れる。


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