七話『肉塊攻略作戦』
思いがけず、この街の深淵ともいえる場所に踏み入ってしまった。
この街を滅ぼした肉塊が、体育館に鎮座していたケルベロスが、この実験室で行われた冒涜的な研究の成果、人の業そのものだった。
きっと、研究レポートに記されていた《死者の宝玉》は、明日壁が破られるかもしれないという恐怖に震えて生活するしかなかった人々にとって、それは禁断の果実だったはずだ。
研究者たちは死体を操るという外法に、人の道を外して生き残ることのできる可能性を見出してしまったのだ。だから、あの憎悪を振り撒く怪物が生まれてしまった。
僕は、本能的に感じる不快感とは別に、研究者たちを悪くは思えなかった。誰だって、生き残るためにできることはする。自分や大切な人の命が掛かっているというのなら尚更だ。全ては、《死者の宝玉》という禁断の果実を与えたこの世界が悪いのだ。
せめてもの弔いに、僕が肉塊を倒してやる。そう、胸の内で強く決意した。
そうして実験室をあとにした僕は、ほかに目立ったイベントはなく体育館に戻り、倉庫から大量の手榴弾とロケットランチャーを確保した。
自分の居城であるホテルまで大量の爆弾を運ぶのは肝が冷えたが、なんとか生きて帰ってこれたことを喜ぼうと思う。
僕は机のうえに肉塊戦のために使うために持ってきた爆弾を広げる。
手榴弾は肉塊の巨体からして一つ一つの威力は期待できないが、それは数で補えるだろう。その反面、ロケットランチャーは威力には期待できそうだが、弾頭はサイズの問題でセットした一発のみの切り札となってしまった。
この爆弾と、ガソリンの炎上攻撃によって奴を仕留める。
さて、手札も揃ったところで作戦の確認といこう。しかし、作戦と言っても実にシンプルだ。
僕の用意したプランは一つ。事前にガソリンを大量に浴びせてやった奴の進路上にワイヤートラップを張り、一気に手榴弾で吹き飛ばす。奴は爆発で粉々になり、残った肉片はガソリンによる炎上で灰になるまで焼かれる。肉塊が機械のように決まった行動しかしないことを利用した作戦だ。
だが、懸念点がある。あのケルベロス戦で起きたイレギュラーのことだ。奴は瀕死の獲物を諦めるほど、体育館という場所に固執していた。だから僕は、奴に体育館から出られない理由があると見ていた。それなのに奴はあの時、平然と出口を粉砕して飛び出てきた。
もちろん、僕の勘違いだったとも考えられる。ただ、体育館に囚われるケルベロスと、街に囚われる肉塊、そして実験室で知った《死者のゴーレム》のことが僕には無関係だと思えなかった。
ガソリンをかけられた時点で、肉塊が自我を持って暴れだしでもすれば、僕はそれで詰みだ。あの怪物を止める手立てはなくなる。
やるべきか、万全を期すべきか。
しかし、だからと言って試しに挑発してみるわけにもいかないだろう。
そうして僕が悩んでいると、また地響きが聞こえてきた。
僕は咄嗟にカーテンと窓を開け、外に身を乗り出した。
凄まじい轟音で道をならしながら進む巨体、肉塊である。そう、肉塊が一周して戻ってきたのだ。
見上げれば、太陽が沈み空はすっかり暗くなっていた。奴の周回は一日に、朝と夜の二周だ。
つまり、奴が来るのは明日の朝だ。ワイヤートラップを張るなら肉塊が通った今からでないと間に合わない。
やるか、やらないか。
もはや意味すらないその問いを自分の中で反芻させる。
やると決めたからこそ、僕はケルベロスを倒したのだ。これ以上この街に何が潜んでいるか分からない以上、変に探索するよりは早めに決着をつけてしまったほうがいいだろう。
「やる、やってやるぞ」
決戦前夜、僕は肉塊と戦う覚悟を決めた。
大切な人を守るため、街の人々の無念を晴らすため、僕は戦わなければならない。
今回もお読みくださり、ありがとうございました(*´∀`*)




