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『ノーライフ・ノーモンスター』〜終末世界で不死の怪物になったけど、人間として生きます〜  作者: 歯車
屍の街

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五話『決着、ケルベロス』

 恨み骨髄に、全身全霊の勢いでバットを振り抜くと、ケルベロスの左前足は音を立ててへし折れた。


「グォオオオ!!!」


 ケルベロスが唐突に粉砕された左前足の激痛に悶え、バランスを崩してよろめく。

 そこで、僕はバットを振り抜いた勢いを利用して身体を回転させ、そのまま左後ろ足を目掛けて追い打ちをかけるようにバットをスイングした。


「グゴォォ!!」


 手応えあり。左前足と同じように、バットを通じて骨を粉砕する感覚が手に伝わる。

 そして、ケルベロスは左の頭、左前足、左後ろ足、と左半身を徹底的に破壊され、大きく傾いた。

 このまま倒れてくれたなら、あとは消化試合だ。そう思った矢先のことだった。

 ケルベロスの残った二つの頭が天を仰ぎ、空気を震撼させる勢いで咆哮すると、倒れかけていた状態から持ち直した。

 直後、途端に全身の産毛が立ち上がり、僕は本能のままに前へ跳んだ。すると次の瞬間、中央の頭が僕のいた場所に喰らいつく。本能に従っていなければ、僕は今の一撃で死んでいた。


「チッ、往生際の悪いやつだな」


 口ではこう言ったが、正直状況は芳しくない。

 左半身の機能を失いながら立て直した奴は、四つの目で僕を睨んで完全に動きを警戒している。

 そして、今の一撃しかり、奴の攻撃は一度でも当たれば致命傷となる。最初の不意打ちで仕留めきれなかった以上、これからは近付くことすらままならない泥仕合となるだろう。

 僕と奴は睨み合い、互いに動き出せないまま戦況が硬直する。

 僕は奴の足を見た。潰れた二本の足からはドクドクと緑色の血が流れ出ている。屍のような見た目をしているから血は通っていないものだと考えていたが、どうやら痛みもあるようで、屍人と違ってゾンビ感はあまりないようだ。

 血が通っているなら、痛みがあるなら、無尽蔵の体力を持つ屍人と違って限界はあるはずだ。

 それならば、僕が取るべき行動は一つだった。

 僕は少しずつ後退り、警戒して近寄ってこない奴から少し距離を離すと、全力で走り出した。もちろん、ヤケになって奴に殴りかかろうってわけじゃない。僕が走り出した方向、それは体育館の出口だった。

 つまり、逃げるのだ。


 当然、奴は怒り狂い、襲いかかってくる。だが、左半身の使えない奴のスピードは遅く、僕は余裕を持って距離を稼ぐことができた。

 体育館の外にさえ出られれば、奴はそれ以上追ってこない。奴が失血死するまで待てば僕の勝ちだ。一度は殴り合ってやったのだ。卑怯とは言うまい。

 そして、今回こそ僕は一撃も受けることなく、体育館を抜け出した。そして後は、奴が倒れるのをジッと待つだけ……。


「は、は、、はぁぁぁあ!??」


「グォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 振り返ると、体育館から出てこないはずの奴が体育館の出口をぶち破って飛び出してきていた。

 想定外の事態だった。そもそもあの巨体で出てこれるとは思わず、奴は体育館から出れないという認識に囚われすぎていた。

 僕は再び、奴に背を向けて走り出した。

 怒り狂った奴は周囲の全てを破壊しながら走ってきている。所詮、最期の悪足掻きといったところだろうが、巻き込まれれば確実にミンチにされる。

 体育館から校舎への渡り廊下を走り、その後ろから破壊音が少しずつ近付いてくる。怒りに身を任せた奴は、身体の状態を無視して走っているのだ。

 転べば即終了、そんな緊張感が恐怖を増長し、僕を必死にさせる。

 

「死んでたまるかあぁぁ!!!」


 目の前に見える渡り廊下の終わり、校舎の入り口に僕は全力で飛び込んだ。

 その直後、背後で爆発的な破壊音が鳴り響く。奴も入り口に突っ込んだのだ。しかし、それ以上破壊音が聞こえることはなかった。

 僕は壁に打ち付けた身体の痛みをなんとか抑え、背後を振り返る。


「グォォオ……」


 そこには、残り二つの頭も垂れさせて、弱々しくうなるケルベロスが入り口に挟まっていた。

 どうやら、体力の限界が来たらしい。

 危ないところだった。あと少しこいつに体力が残っていれば、僕は死んでいた。

 荒い息を吐きながら、僕はバットを片手にすでに息も絶え絶えのケルベロスの前に立つ。

 それに気が付いたケルベロスは、少しだけ頭を動かして僕を睨むと、小さく唸った。


「これで……、終わりだ」


 僕はバットを頭上にまで振り上げ、無慈悲に振り下ろした。


 




 



 




 

 


 



今回もお読みくださり、ありがとうございました。

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