四話『ケルベロス』
この街には元々、自衛隊の基地はなかった。そのため、駐屯地と言っても廃校になった小学校を流用していただけにすぎない。
校舎は隊員達の宿舎になるとして、武器や火薬などの危険なものを置くなら体育館だろう。
そして奴は前回、体育館の中央に鎮座していた。
避けて通れるならそれに越したことはないが、あの三頭から隠れながら探索するのは不可能だろう。
やはり、何としてでも倒す必要がある。
「やっぱり、まだいやがる……」
もしかしたらいないかも……、なんて微かな希望を胸に体育館の小窓を覗くと、奴はやはり前回と同じ位置にいた。三つの首はせわしなく動き、周囲の警戒を怠っていない。僕は一つの頭がこちらに振り向こうとするのを確認するとすぐに身を隠した。
さて、これで戦闘は避けられないということが分かったが、これからどうするか。勝てない相手ではないと踏んでいるが、それは人間の知性を最大限活かせればの話であって、真正面から殴り勝てるというわけではない。
しかし、問題はケルベロスが体育館から出ようとしないところだった。前回の遭遇で僕はケルベロスに勝てないと悟るとすぐさま逃亡を図った。その際、体育館を出るギリギリで掠めた爪が左足をえぐり、僕は死を覚悟しながらも必死に走ったのだが、奴はどういう訳か外まで追ってくることはなかった。
理由は分からないが、ケルベロスはあの体育館に囚われているのだ。まるで、あの肉塊のように……。
話は逸れたが、つまり奴が外に出られない以上、僕は奴のフィールドで真正面から戦わなければならないということだ。
僕の得物は道中で拾った鉄バットと、これまた道中で屍人から奪い取った腰にある拳銃だけ。拳銃の弾は残り三発で奴の頭と同じ数だが、一発で一頭片付けられるかは微妙だ。
やはり、仕留めるなら近距離で鉄バットのフルスイングをかましてやる方が良いだろう。
拳銃と鉄バット、上手く扱えればケルベロスを殴り倒せるかもしれない。
勝利は確実ではない。だが、やる。やってみせる。
「クソ犬野郎!!死の淵から戻ってきてやったぞ!!!」
僕は準備を整えたあと、体育館の入り口を全力でこじ開けて叫んだ。
次の瞬間、奴の三つの首が揃って振り向き、僕を凝視する。獲物に飢えた捕食者の目だ。奴の目に映っているのは獲物で、敵ではないのだ。だからこそ、奴は警戒を忘れる。
僕は腰から拳銃を抜き、奴の一番左の頭を狙って引き金を引いた。残弾すべてだ。立て続けに放たれた三発の弾丸は、一発が外れ、他二発が左の頭を貫いた。
奴は貫かれた左の頭が力なく垂れると、あからさまに狼狽して半歩引き下がった。
「グォォォオオオオ!!!」
一瞬遅れて状況を理解したケルベロスが怒りに震えて咆哮する。目の前の人間を必ず殺してやる、そう考えて前に踏み出したとき、ケルベロスは気が付いた。そう、左の頭を貫かれた次の瞬間、あの人間が視界から消えていたのだ。
三発の弾丸をすべて放ち、僕は狼狽える奴をよそに速攻走り出していた。一直線ではなく、奴の左側に回るようにだ。僕は左足の恨みから、左の頭を集中狙いしてやったわけではない。
これまでの様子から、奴の頭は一つ一つ独立しているのではないかと考えた。つまり、一つ一つすべての頭に思考する脳があり、それは弱点だった。独立する頭の一つがやられれば、当然その頭は機能を失う。
つまり、奴は今、左側が見えていない。
そしてそれは、奴が僕を見失って残った首を振り出したことから正解だと分かった。
リスクの高い賭けだった。これは、心配性な普段の僕なら絶対にしない賭けだ。だが、今回ばかりは我慢できなかった。
僕を探していた奴の中央の頭が僕の姿を捉える。だが、もう遅い。なぜなら……。
「仕返しじゃぁぁあ!!このクソ犬がぁぁぁああ!!!」
僕は全身全霊、渾身の力をもって、奴の左前足へとフルスイングをかましてやった。
お読みくださり、ありがとうございました(●´ϖ`●)
前回からやけに主人公がリスクを取る方針で進んでいましたが、それは単に主人公が凄く根に持つタイプなだけでした。次回はおそらくケルベロスとの決着まで書く予定ですので、ぜひお楽しみに!




