プロローグ『ある男の最期』
はじめまして、歯車と申します。この作品をお手に取っていただき、ありがとうございます。
まだまだ文章を書く練習中の身ではありますが、お楽しみいただければ幸いです。
一体、どんな悪事を働けばこのような地獄に落とされる理由足り得るだろう。ただ、考えても仕方のないことだった。
僕は知っているんだ。神はいつだって気まぐれで、理不尽を押し付けてくるクソ野郎だってことを。
ふらふらと全く動かない左足を引き摺りながら走る僕の後ろから、屍人の大群がうめき声をあげてにじり寄ってくる。
左足にありありと刻まれた爪痕から流れる血が屍人たちを集め、僕を着実に追い詰めていくのだ。
幸いと言うべきか、屍人どもの足はそれほど速くはない。ただ、背後から手を伸ばす死の恐怖は、僕の精神を確実に擦り減らしていた。
いや、精神だけではない。このまま走り続ければ、そのうち体力の限界がきて僕は死ぬ。
「……ここも塞がってるッ!」
とにかく、この屍人だらけのこの市街を抜け出さなければならない。
もう何度目にしたか分からない、市外への道を塞ぐバリケードのない抜け道を探して。
「クソっ!この街は出口の一つもねぇのかよ!!」
元々、外敵からの攻撃を伏せぬために築かれたこのバリケードには一切の隙がなく、出入りにはバリケードを乗り越える必要があった。
僕は眼前にそびえ立つバリケードを恨めしく睨んだ。入ってきた時に乗り越えたバリケードが左足を負傷した今、遥かに高く見える。
「何か、何か何かなにかっ!!生き残る手段は!?」
バリケードを避けて道を曲がり、どうにか生き残る道を探して思考を巡らす。いっそのこと建物に籠城してはどうだろう。
いや、百を超える屍人の大軍から籠城するには例え鉄の扉があったとしても数時間と保たないだろう。
視界に映るあらゆるものに打開策を求め、思考する。生き残るため、何か、何かないのか……。
すると、少し先にそれを見つけた。地下へと続く階段、恐らく地下鉄だ。
「まだ死んでられねぇ!!!」
それからは必死だった。
ただ我武者羅に地下鉄の入口めがけて走った。明滅する視界と意識の中、確かな希望に向かって走っていた。
後に続く屍人どもをどうにかしなければならないが、それはここを出てから考えれば良いだろう。この袋小路から抜け出せること、それだけが大切だった。
しかし、現実はそう上手くいかないものである。
地下鉄の駅を駆け下りて隣町に行くために線路上を進んでいくと、瓦礫の山が線路を完全に塞いでいた。
助かるかもしれない、そんな希望が一気に絶望へと変わる瞬間だった。
引き返して別の道を探すか?しかし、ここに来るまでに体力は使い果たしてしまった。出血のしすぎで今にも倒れそうだ。
そもそもとして、この一本道で背後の屍人の大群の間を突っ切るすべはないだろう。最後の力で走り抜けて開いた距離もタイムリミットを伸ばしたにすぎない。
つまり、完全に詰んでいた。
「うそだろ!おい、おいおいおい!!冗談じゃねぇ!!誰か、誰か助けてくれ!!!」
必ず帰るって約束したんだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
僕は地団駄を踏み、力の限り叫んだ。
誰か、誰か助けてくれ。誰でもいいから、僕の声に応えてくれ。
無情にも、僕の声に応じたのは無数のうめき声だった。
「クソがよ……」
みっともない足掻きだったと思う。ただ、まだやれることを残して死にたくはなかった。
気を抜けば消えてしまいそうな意識の中、少しでも屍人から逃れるように歩く。
ふらふら、ふらふらと意識が続くかぎりうめき声が届かぬよう歩き続ける。
そして、何かに躓いた。
視界が一転、二転と転がっていき、その度に身体に衝撃が響く。僕はどうやら転がり落ちているようだった。そうして地面に叩きつけられたとき、僕の身体はもう動かなかった。
目が見えない。音が聞こえない。何も、感じない。身体からあらゆる機能が失われていき、死を実感する。意識が、消えてゆく。
嫌だ、死にたくない。僕はきっと、仲間のもと、へ……
お読みいただき、ありがとうございました。( ´∀`)




