[道祖神第十八部.因縁]死ねぇ!!…さっさと死ねばええのに
僕はトンネルを抜けずに脇道に車を停めた。
抜けた先に見慣れた景色が広がっているのだが。なんやったんやろ。分からんけどスズに気づかれんほうが得策やろうな。
さぁて、葬儀場に向かうか。
ザッザッザッ…。
タッタットンットンットンッ…。
僕の足音がコンクリートの空洞を叩き、奇妙に反響する。
やがて残響は短く、そして重なりはなくなっていった。
「ゼン君。」
タッ…タッタッタ…、
僕は振り返らずに走り抜ける。
いつからや。トンネルの先で立ち止まり、スズの手元に注目する。
あれはバールやな。彼女はアイスホッケーのスティックを構えるかのようにそれを持ち、こちらを伺っていた。一見、弱腰な態勢だが、どこか覚悟のある姿勢をしていた。なんや、こいつの刺し殺す眼は。学者気取りの大学教諭、アイツの眼は冷徹に分析する…観察眼やった。でも、コイツの眼は…。何なん。瞳孔を限界まで開いて…顔は動かさんのに目ん玉だけで、こっちの動きをジロジロ追ってくる。ほら、右手を軽く握ってみただけで目ん玉だけがそっちに向いた。
「ねぇ、ケン君を返して。」
おいおいスズ…返すも何も…ケンはもう…
「そういうのいいから。人殺し。魂だけ抜く死神!本性を顕にしなさい。」
そか…いつから気づいとったん。
「翌日に。」
…アイツは村を売ろうとしとったんよ。
スズ、お前ならわかるやろ。ケンに捨てられてもうたお前なら。
「違う。あんたはバカね。何もわかってない。その癖、ケン君を取るんだ。この卑怯者。」
なあスズ。僕はこのまま葬儀場に行っても構わないと思ってる。うん、どこまで分かっとるん。ケンは頭打っただけやないんか。
「ある箱の中身、呪物でしょ。文献を読んだわ。探したら無かった。おかしいと思ったわ。それにケン君はゼン君の家を訪ねてるじゃない。」
……なるほどなぁ。まぁ、当時は呪物とか思われとったらしいな。
えらいこっちゃ。ようそこまで読めたな。やったら…
ゴソゴソッ。
タッタッタ…
バールをゴルフのスイングみたいに…ナイフを、いや間に合わん。距離をとろう。
ダッダッ。
袋のジッパー開けにくいわ。ナイフも、すぐ出せるようにすべきやったな。
「キェェ!死ねぇ!!!」
ブンッ!バンッ。
不気味や…紙切れ、いや御札かいな。よう見たらバールにペタペタ貼ってあるわ。
「かかったぁ!」
んっ…。
カッ…カラッ。ボッ…。
「火の天使よ、悪魔を焼き尽くせ!!」
不味いわ。
グッ…キュッ、タッタッタ…。
ボォォ…。
ちょい熱っ……思ったより広がるやん。
「アァッ!!なんで殺せないのっ!」
ライターが見えたが…どっから出したんよ。なんかクサかったんはガソリンか…灯油とかベンジンかもしれんなぁ。道路やし不自然に感じんかった。
「何度か試したけど本番は上手くいかないものね。…はぁ。」
ザザッ、
シャッ。
ナイフを取り出して刃を地面に向けた。
天使、悪魔ってお前は何様なん。アホくさいし、天使に命令するとか神様気取りやん。ヨナ教の連中もそこまでじゃあ、なかったやろ。
キショいな、さっさと死ねばええのに。
そや、殺すか。
読経の前に、仏を一体増やしたる。




