[道祖神第九部.遺族]どうしてそう思ったの。
湯呑みの湯気がゆっくりと立ちのぼっていた。
私は喉に出かかっていた何かを抑える。
その代わりにできることといえば
「ごめんなさい…。」
謝ることだけだった。
「…きっと、スズちゃんなりに考えたことよね。」
顔を上げられない。
「教えてくれるかな。スズちゃんは、どうしてそう思ったの。」
教授の言葉が気になったから…なんて言えない。
そんなことのために…
「スズちゃん。」
ケン君のお母さんはかえって落ち着いた口ぶりだった。
元カノが押しかけてきたのに。深刻そうな様子で急に解剖にだしてほしいとも。
しばらくの間、沈黙が続く。
「そりゃ…、我が子の身体を傷つけたくないよ。家族を大切にするもの。でもね、あなたも同じくらい大切にしてくれてたって知ってる。だって、スズちゃんは優しいもの。何か事情があってのことでしょ。」
今にでも流れていきそうな涙をこらえる。
…覚悟した。
「ユキエさ…」
「あなた、ケンのっ。」
振り返ると、短髪の女性が立っていた。
「ぁ…。」
この人は、ケン君の…。
「お義母さん、何故この人が。」
「…そうね。アオイちゃんにも決める権利はあるのよね。」
「権利、ですか?それって…もしかして遺産相続…」
「ちがっ…」
違う…そう言いかけたけど、本題はもっと見苦しいものだったことに気づく。
「アオイちゃん、遺産ではないのよ。」
しばらく糸が張り詰めていた…けど温和な諭しが効き、その糸は緩んでいった。終いに彼女は正座してユキエさんのマイペースに呑み込まれた。けども、彼女が鋭い眼差しで見てくるのに変わりはなかった。彼女はその両腕を正座する膝元に伸ばしていた。微かに、けれど激しく震えているのが見て取れた。
突き刺してくる視線と、怒りに震える腕を見れば嫌でもわかる。怒り心頭に発した彼女は私に毒づきたいんだと思う。とても居心地が悪いな…。
気がつくと夕日が差し込んでいた。
眩しっ、あ…。
「スズちゃん…来てたんだ…」
コウジさんだ。顔は私に向けられているが、彼の目線の先に私は居ない気がした。深刻な顔つきで疲弊している…。ケン君のことで相当応えたみたい。
ピーッ。
不穏な空気に炊飯器が場違いな快音を告げる。
「あら…ご飯が…ん、おかえりコウジ。」
「うん…」
ユキエさんは炊飯器のスイッチを切った。蓋をあけ、そこから白くて濃い湯気が彼女の表情を隠すように立ちのぼる。柄杓を手に取り、水で洗う。
「んー…スズちゃんとアオイちゃん。ちょっと、コウジと二人きりにさせてくれないかしら。今晩は家族で話し合うわ。アオイちゃんも、考えを整理してね…。」
そうして一度、終止符が打たれた。




