[道祖神第八部.行方]あんた、鬱陶しいんよ。
…といったところか。
先のことまで想像しすぎた。少し余計な思考だった。
石碑の上で五円玉が危うい均衡を保っている。
私は数十秒前にゼンジがそれを置いたのを見かけた。彼は追い詰められているな。あんなにビビっているのをみる限り…アレを知っているということだ。
不味い、放置するとアレを処理するかも知れない。殺された青年…ケンの記憶と、村人への聞き取り、この土地に残された痕跡。それらを繋ぎ合わせて練り上げたゼンジとスズという虚像。それらは、よく馴染んでいた。
実際のところ彼はもっと残酷で、彼女はもっと理性的なのかもしれない。が、事実に変わりはないはずだ。大方、今の想像であってそうだ。
ふぅ…行くか。
気付かれぬよう、音を立てずに回り道をして林を抜け、群落へ突入する。
おいおい、もう箱を開けてやがるよ。
「君!ちょっと待ちなさい。」
彼はビクッとした。
箱をゆっくり草むらに置いて此方をみる。彼は微動だにせず、私の目をみている。よく目つきが怖いと言われるほどに恐ろしいのだろう。自分でそう思わないが。
「えと…」
「その箱、拾わなくていいのか?」
「…。」
「ふーむ…」
「あのっ…すみません…どうしたんですか?」
なるほど…とりあえず私に丸投げしたか。
「その箱…開けたのなら、知っているはずだ。それで何をするつもりだ。」
「…と、言われましても…うーむ…。僕は探索が好きでして、その趣味なんですけど」
「その程度のことを聞いているのではない。」
「すみません…めちゃ興味で…。……戻しますね。」
「謝ることはない。だが、それが正しい。」
「貴方も好きそうですね。探索。なぜだか貴方とは仲良くなれる気が」
「善良なる村人のフリを続けなくて良い。わざわざ仮面を被るなんて…バカバカしい。はっきり言って醜い演技だ。思ったことすら言えず…要するに自分がカワイイわけだ。」
さて、どうくる。
「なんや…あんた、見抜いてたんか。その様子だと、コレに用があるみたいやな。」
彼は箱の中に視線を向けた。
「そうだ。それは、私がずっと探していたものなんだ。」
「へぇ…」
「質問だ。あの事件…君たちの間ではそう呼んでいるらしいが。あろうことか己の両親まで手にかけているね。それは、あの事件で両親を恨んだ復讐心によるものか?」
「なんで、知っとるんよ。どいつや、どいつから聞いたんか?んー、スズかいな。」
「過去に妻子を亡くしていてね。妻の同僚に殺されている。だから私は人殺しが大嫌いだ。身近な存在まで殺すなど許されないことだ。」
「やったら、けーさつに訴えたらええやん。」
「いや、単に許せないというものでそれはいいんだ。私はある人に頼まれた事をするだけだ…君に。」
「はーっ、おもろいやん。てか、あんた、冷静そうなのに家族を失っただけでセンチメンタルになるんや。笑えるなぁ。こりゃ、滑稽、こっけい。」
「…その辺にしておけ。」
私は殴りたい衝動を抑えて言う。
「んー…これは、えらいこっちゃのう。好都合やんけ。」
グサッ。
「あぁっ!」
は?
刺さ…れ…た……のか。
ナイフか?包丁か?
なんだ、そんなことより…。
「うっ…うぅ…」
「あんた、鬱陶しいんよ。ここで死ね。」
「はぁ…っ、はぁ…っ、」
「コレ…言わんでもわかるやろ。」
奴はピンセットで箱のソレを掴む。
「まて、やめ」
ギュン。カカッ…。
むりやり…まずい…。まずいどころじゃない。
ズッ…グサッ。
「アァ!!」
グサッ。グチャッ。
「人生おつかれさん。あの世で恨んどけ。」
私は…死ぬのか…、
「あーぁ、片付けめんどいなぁ…。」
何も…考え…られない…。




