妖狐はイタズラ好き
舞が言っていた神社は犬の神様が祀られているそこそこ立派なところらしい。
常磐蒼穹神社という名らしい。詳しくは知らないが、安産祈願、厄除け、招福のご利益があるらしいのだが……。
「なぁ、舞」
「あっついんだから話しかけないで」
「犬の神様がいるのに、狐の妖が悪さしてるんだよ」
「私も知りたいわよ……」
真夏の夜は昼間以上に蒸し暑い。鈴虫やコオロギの鳴き声も聞こえる。
普段……特に仕事帰りは、良く虫の鳴き声に耳を済ましながら心地よい音色で癒されながらも帰宅するのだが、今回は別だ。
癒されるどころがうるさく感じてしまうのはきっと犬の着ぐるみ(人体着用ぬいぐるみ)の中に入って、階段を登っているからだろう。
俺は、里桜を背負って歩いているのもあり、かなりしんどい。
鳥居が見えた時に思ったんだ。自宅から着ぐるみ(人体着用ぬいぐるみ)の中に入るんじゃなくて、神社についてからやれば良かったんじゃないのかって。
今、それを言葉にしてしまうと舞が怒りそうだから言わないでおこう。
ちなみに犬の着ぐるみ(人体着用ぬいぐるみ)の中に入るという提案は里桜がした。妖狐は犬が苦手だからという理由で。
夏場だから絶対に暑いから反対しようとしたのだが、雰囲気で感じ取ったのか里桜が落ち込んだ。
それがあまりにも愛猫が猫耳を垂れ下がって落ち込んでる姿と重なって強めに断る事が出来なかった。
舞も里桜が猫耳が垂れ下がって落ち込んでいるように見えたのか、何か葛藤しながらも了承してくれた。
夜遅いのもあり、人が少なく電車や歩道歩いててもあまり目立たなかった事が幸いだった。
人が多かったら、色んな意味で目立ってただろうから。
鳥居前まで行くと、中央は避け、端に寄ってから『お邪魔します』という気持ちを込めて一礼する。
舞も同じように一礼していた。
鳥居をくぐると、里桜が身を乗り出した。
「……悲しんでます。ここに……来てはいけないって」
里桜の言葉を聞いてから空気が変わった。犬の着ぐるみ(人体着用ぬいぐるみ)の中に入っていてもわかる。
居心地が悪く感じ、蒸し暑さから一変して少し風が冷たい。
いつの間にか虫の鳴き声も聞こえなくなっていた。
「歓迎されてないってこと? あの時も似たような感じだったのよ」
舞は周りを見渡して緊張しているように声が震えていた。もしかしたら不安なのかもしれない。
「そうとも言いましょうか……、ただ、今は来ちゃダメだよって言っているような気がするんです」
「それってどういう……」
里桜は首を傾げて、必死に何かを伝えようとしているが俺と舞は顔を見合わせる。
顔の表現が見えないからお互いの顔色を伺っても意味ないのだが、これだけはわかった。里桜の言いたいことがよく分からない。
だから、聞き返そうとしたら鈴の音が聞こえてきた。
舞は、鈴の音が聞こえた方に迷わず走っていく。
俺も里桜を落とさないように背負い直し、舞の後を追う。
◇
走っていて、気付かなかった。いや、気付いた時にはどこから来たのかが分からなくなっていたという方が正しいのかもしれない。
「……ここだわ」
先頭にいる舞は、呟いた。『ここ』ということは、かくりよという世界にいるのだろうか。
話に聞いていたように森だ。しかも、常磐蒼穹神社の周りには森はないのだ。
走ったといっても、一分ぐらいだ。それで森の中に迷い込むのは不自然だろうから、かくりよだと考えた方がしっくりくる。
「あのぉ」
里桜は、おずおずと口を開いた。聞きづらい事でもあるのだろうか?
「舞さん、かくりよで何か拾いました?」
「拾う……? いいえ、拾ってはいないけど」
「そうですか。変ですねぇ」
里桜は腑に落ちないというような言い方をする。俺は、優しく聞いてみた。
「何か気になることでもあるの?」
「ときわ……なんちゃら……じんじゃ? という所にいた時は神様が心配しているようでしたが、ここの神様……ですかね? それは分かりませんが、ですが……誰かはかなり怒ってる気がします。それって、何かを持ち帰ったのかなって。それか……神社を荒らしたとか」
俺は思考した。そういえば、妖狐に貰った石があったような。
確か、妖狐はイタズラ好き。その妖狐がイタズラ感覚で神社のモノを無断であげたのなら……。
「舞! もしかすると……」
言いかけた瞬間、ピリッと空気が変わった。地面や周りの草木が大きく揺れ始めた。
常磐蒼穹神社の常磐は、永久不変を意味し、永遠の幸福を
蒼穹は、清らかで美しい空の様子を←神域の空のようだなと思いました。
常磐蒼穹神社は架空の神社になります。




